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つまらない女だと婚約破棄されましたが、浮気男はこっちから願い下げです〜行き遅れた秀才令嬢は、天才侯爵に溺愛されるようです  作者: 雨野 雫


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27.そういう大事なことは先に言っておいてください!


 それから二人は、湖を眺めながら昼食を取った。


 昼食はクリスが用意してくれていて、どうやらロイド侯爵家の料理人が作ったものらしい。


 様々な具が挟まれたサンドイッチはどれも絶品で、料理人の腕の良さがよくわかった。もし自分がクリスなら、美味しい料理を食べるために毎日家に帰るのにと思うほどだ。彼があまり家に帰らず大学に住み着いているのは、食に無頓着だからかもしれない。


 そして食後、各々思い思いに自然を満喫した後、そろそろ帰ろうかという話になった。


 たった数時間だったが、ここ数日のモヤモヤとした鬱憤や焦りが一気に吹き飛び、ミラの心は随分とスッキリしていた。それに、頭の中が整理され、試してみたい実験が次々に思い浮かんでくる。


 なんだか研究が大きく進むような予感がしていた。この場所につれてきてくれた彼には、本当に感謝しかない。

 

 クリスが馬車を呼ぶため、魔道具で御者に連絡を取ってくれてくれている間、ミラは帰り支度をしていた。


 荷物をまとめ、忘れ物がないか確認し終えた頃。彼がちょうど戻ってきた、その時――。


 遠くから少年の声が聞こえたような気がした。それも一人ではない。複数だ。


 ミラはキョロキョロと周囲を見渡したが、それらしき影は見当たらなかった。


「……先生、今、子どもの叫び声が聞こえませんでしたか?」


「ああ。恐らく、近くの村の子どもらだろうな」


「何かあったのでしょうか……」


 遊んでいて大声を出したというよりは、悲鳴に近かった。もし森で迷子になっていたりしたら大変だ。野生動物に襲われている可能性だってある。


「先生、子どもたちを探しに行きませんか?」


「いや、その必要はなさそうだ」


 クリスはそう言いながら、草原の奥にある茂みをじっと見つめていた。何を見つけたのだろうと、ミラもじっと目を凝らすと、程なくしてその茂みがガサガサと揺れ始める。


 ミラは思わず身構えたが、すぐにそこから三人の少年が姿を現した。先程の叫び声は、彼らのものだったらしい。


「やばいやばいやばい!」


「だから森には行かないでおこうって言ったのに〜!」


「そうですよ! どうやって村まで帰るんですか!?」


「本当に魔物が出るなんて思わなかったんだよ!!」


(……魔物? 魔物ですって!?)


 魔物は基本的に、人間が住む場所には現れない。何十年も前は、人が魔物に襲われる事件が頻繁に起きていたらしいが、文明が発展した今となっては魔物は狩られる側だ。そのため森の中だとしても、村が近くにあるなら魔物は寄り付かないはずだった。


 王都で育ったミラは、当然のことながら、生まれてこの方魔物を見たことがない。教科書で代表的な魔物の絵を見たことがあるくらいだ。そのため、本物を目の前にして撃退できる自信など到底持てなかった。


 怖くなったミラは、気付かないうちにクリスの袖をぎゅっと握り込んでいた。


「せ、先生……いま、子どもたちが、魔物って……」


「ここに人が来ないのは、辺鄙(へんぴ)だからという理由ともう一つ。魔物が現れることがあるからだ」


「そういう大事なことは先に言っておいてください!!」


 まさか魔物が出現する場所に連れて来られていたとは夢にも思わず、ミラは心からの抗議をクリスにぶつけた。しかし彼は、全く焦る様子もなく飄々としている。


「安心しろ。魔物と言ってもそれほど強い奴は現れない。何度か遭遇したことはあるが、いずれも単独で対処可能だった」


(先生って、研究に行き詰まるたびに、こんな危ない場所に来ていたの……!?)

 

 やはり天才の考えることはよくわからない。ミラは彼の無茶苦茶な習性に驚き呆れると同時に、いつ現れるかわからない魔物に最大級の警戒を払った。


 何よりもまず、あの少年たちを守らなければならない。彼らは恐らく平民で、魔法が使えないだろう。ここはクリスとミラでなんとかするしかない。


「君たち、こっちへ!!」


 ミラがそう叫ぶと、少年三人組はこちらの存在に気づき、慌てて駆け寄ってきた。


「おおおお姉さん! 俺たち、魔物に追われてて!!」


「む、村まで帰りたくて……」


「どうか助けてください、お兄さん、お姉さん!!」


 少年たちは揃って顔を真っ青にしていて、半べそをかいている。正直、ミラも今すぐ泣き出したかったが、子どもたちを不安にさせるような真似はすべきでない。


 ミラはぐっと涙をこらえ、少年たちを励ました。


「大丈夫。このお兄さん、すごく強いから。絶対に守ってくれるわ」


 その言葉を聞いた少年たちは、安心して緊張の糸が切れたのか、とうとう泣き出してしまった。三人ともわあわあと泣きながらミラの足元にしがみついてきて、身動きが取れなくなる。


 その様子にクリスは渋い顔をしていたが、すぐに茂みの方に視線を戻した。先程少年たちが現れた茂みだ。


「ミラは念のため防御魔法を。来るぞ」


「は、はい!!」


 クリスの端的な指示に、ミラは慌てて自分を落ち着かせた。


 魔法はイメージが全てだ。焦っていたり混乱していたりすると、上手くイメージが出来なくて魔法が使えない。


 ミラは一度大きく深呼吸をしてから、子どもたちを守るイメージを脳内に浮かべた。そして、己の中に流れる魔力に注意を向け、丁寧に紡いでいく。


(最強の盾を、ここに!!)


 ミラが天に向かって手をかざすと、周囲を覆うように強固なシールドが出現した。これで大抵の攻撃は防げるはずだ。

 

 防御魔法がうまくいってホッとしたのも束の間、重たい地響きとともに、木々がバキバキと裂ける音が響いた。


 ハッとして視線を向けると、茂みの奥からとうとう魔物が姿を現し、ミラは錯乱しかける。現れたのは、二メートルを優に超えるような大型の魔物だ。


「魔物って、ゴ、ゴ、ゴーレムじゃないですか!! 何が『それほど強い奴は現れない』ですか!!!」



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