本当の姿と求婚
今日もアメリさんが私の着替えを手伝ってくれた。
居候させていただいているのだ。何かお手伝いをしたいと申し出たけれど「まさかそのようなこと」と珍しく笑みを浮かべたアメリさんにキッパリと断られてしまった。
私はメイドの娘として生まれ、下働きのようなことを申しつけられることが多かったから、少しはお役に立てそうなのに。
アメリさんの後ろについて長い廊下を歩く。そのとき、カツカツという音が聞こえてきた。
「ジークウェルト様」
「フィア嬢……昨日は一人で帰らせてすまなかった」
「お身体は!?」
思わず詰め寄ってしまって後悔したのも束の間、松葉杖が床に転がる音がして、なぜか私は抱き締められていた。
「あ、あわわわわ……!?」
婚約者がいたといっても、友だち程度の付き合いしかしていなかった上に父とも疎遠だった私は、こんなふうに男性に抱き締められたことがない。
仰天してしまってカチコチに固まっていると、不意に腕の力が緩んだ。
「……っ、すまない」
「いえ、私のほうこそ」
近づきすぎたことを謝ろうとジークウェルト様の顔を見た私の喉からヒュッという音がした。
ジークウェルト様は輝かんばかりの笑顔を浮かべていた。もしも彼に尻尾が生えていたならブンブン振っているだろう、と思えるほど満面の笑みだ。
(そんなはずないのに、ジークウェルト様とジークが重なってしまう)
飼い犬と主人だから似ているのだろうか。そんなことを思いながら、口から飛び出してしまいそうなほど高鳴る心臓に困惑する。
「君に心配してもらえるのはうれしいな」
「……本当に心配して」
「すまない、だが毒は俺の命を奪う類いのものじゃない……今まで隠し通してきたものを隠しきれなくするだけだ」
「隠してきたもの?」
「……そう、それを知っているのはごく一部の者だけだ」
誰でも隠したいものくらいあるだろう。私だって、実はとても不器用なことや、実はとても負けず嫌いなことは隠したいし、家での扱いだって他人には知られたくない。
けれど、あまりにもジークウェルト様の表情がつらそうに見えたから、思わずその手を握ってしまった。
「私でよければいつでも相談に……話すだけでも楽になるかもしれませんし、口だけは堅いですし」
「ああ、君のことは心から信頼している」
「……私のことを、なぜ」
「うーん。そうだな、学園で見ていた君は人を裏切ることなどできないお人好しだったし、なにより俺は君を信じたい」
ギュッと握られた手。
その手は剣を握るゴツゴツした手だ。
そしてとても温かい。
「……全て話したあと、それでも君が俺のことをいとわないなら、結婚してくれないか?」
「え? 結婚……?」
聞き間違いに違いないと口を開きかけたとき、私の手を握ったジークウェルト様の手から白銀の光があふれ出した。
こんなに魔力がたくさんあふれてしまったら、体にも負担が……と思ったところで毒に侵された、という事実を思い出す。
魔力のコントロールが上手くいかないならば、体を流れる魔脈を乱す毒なのだろう。
「ジークウェルト様」
「はぁ、もう少しだけ心の準備がしたかった」
「え?」
そう言い残して、私の目の前いたはずのジークウェルト様は消えてしまった。
握りあっていた手に引き寄せられるように、私は床に両膝をつく。
私を見つめるのは、先ほどまでと何らかわりない、深い海の底のような青い瞳だ。
――ただしそれは、人のものではない。
「ジーク……ジークウェルト様?」
信じられないと目を見開く。
私は茶色い毛並みの大型犬の前脚を固く握りしめていたのだった。
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