お仕事と侍女
「ところで、お元気そうではないですか。団長殿、もちろんこちらの書類の山をこの機会に片付けるのですよね?」
「――いや、まだ」
「おや、珍しいですね。あなたは腹部を撃ち抜かれても……」
「彼女の前でそういう話はよせ」
「ご安心ください。聞こえないように耳打ちしているではないですか」
二人の美しい騎士様が秘密の話をしている姿。
(ものすごく絵になるわね……)
地味で美しいとは言いがたい私がジークウェルト様の隣に立っているのとは違った意味で周囲から注目を浴びるに違いない。
「……ふう。とりあえず、フィア嬢。主に働いてもらう予定の部署を案内させるから」
「ありがとうございます」
もちろんお忙しいジークウェルト様のお手をいつまでも煩わせるわけにはいかないだろう。
それなのに、なぜか離れがたく思えるなんてどうしてしまったのだろう。
「仕事が終わったら、一緒に帰ろう」
「は、はい」
そう言うと私から離れたジークウェルト様は執務机に座った。
書類に埋もれてしまったジークウェルト様。
こんなにたくさんの書類があったら夜遅くなりそうだ、と思って見ているとものすごい勢いで書類が処理され始めた。
(学園にいたときから思っていたけれど、ジークウェルト様は本当に有能なのね)
私も勉強は出来た方だけれど、ジークウェルト様は特別だった。
剣術や魔術の実技試験はもちろん首位。そして筆記試験も首位。
生徒会に所属し、二年時からすでに生徒会長を務め、先生方からの信頼も厚かった。
卒業後は一時的に激戦地に赴任して目覚ましい活躍をして、あっという間に騎士団長になってしまった。
(ジークウェルト様が騎士団長になったのは、サーベル侯爵という高い地位のせいだという人もいるけれど、私は実力だと思うわ……)
尊敬しながら見つめていると、扉が叩かれて後ろから声が掛けられる。
「フィア様……おまたせいたしました」
その声を私は聞いたことがある。というよりも今朝聞いたばかりだ。
驚きながら振り返ると、そこにはあいかわらず無表情な侍女、アメリさんがいた。
「アメリさん?」
「はい、アメリでございます。フィア様」
「えっと、どうしてこちらに?」
「私の本来の職場はこちらですので」
騎士団の侍女を務めているのに、サーベル侯爵家でも働いているのだろうか。
不思議に思いながらも、促されてアメリさんの後ろについて行く。
たどり着いた場所は、古びた資料が積み上げられたほこりっぽい部屋だった。
「ここは?」
「騎士団が今まで関わった魔術に関する資料です」
「ずいぶんたくさんありますね」
「王立騎士団は、百三十年前建国と同時に設立されました」
「百三十年分の魔術の資料?」
「当時集めた古代王国の魔術資料もあると言われています」
「す……すごい!」
王立学園の図書室。一度だけその奥にある重要書類を見せてもらったことがある。
それは私が魔術学で首位になったときのことだ。
(リアス先生は今、魔術師ギルドで働いているはずよね……)
メイドの子であることもあり、周囲の貴族たちからどちらかといえば孤立していた私。
かといって平民の生徒たちは、私が貴族であることから近づいてこなかった。
もちろん王立学園時代の友人がいないわけではないが、彼女は今は遙か高い位置にいるためおいそれと会うことが出来ない。
(……本当に学園時代はよくしてくださったけれど、今は王太子妃殿下ですものね)
学生時代を懐かしむ私の横で、すでにアメリさんは掃除を始めている。
私も慌てて書類整理と掃除を始めるのだった。
書類に埋もれるヒーローとヒロイン……




