騎士団
――その日、騎士団には激震が走った。
騎士団長ジークウェルト・サーベル卿はいつも眉間にしわを寄せている。
もちろん団員の命を守りたいからだと全員が理解しているので拒絶する者はいないが、彼の課す訓練は過酷のひと言。
ニコリとも笑わず無愛想で、調整役の副団長ランディス卿がいなければ各方面に誤解され、敵を作ってしまいそうだ。
そんな彼は現在、怪我により療養中のはずだ。しかし松葉杖をつきながら現れた。
重傷を負ったという噂が流れても、翌日何食わぬ顔で書類業務を再開している彼のことだ……そのことについてはなんら不思議はないが。
騎士たちの視線の先……強面だと、鬼だと、冷酷だとときに評される彼が可愛らしい女性と並び歩き、しかもほほ笑みかけている。
――しかし訓練された騎士たちは驚愕の表情を表に出したりしない。だから、私がそのことに気が付くことは無いのだ。
「あの、注目を浴びているような気がします」
「君が可愛らしいからだろう」
「それは違うと断言できます」
騎士団の本拠地に入るのはもちろん初めてだ。本当に来ても良かったのだろうか。周囲を見渡してみても周りには騎士様ばかりだ。
「とりあえず、執務室に行こう」
「は、はい……」
カツンカツンッと音を立てながら歩むジークウェルト様の後ろをちょこちょこと小走りでついていく。
長い廊下の端に重厚な扉があった。
その扉の両隣には警備のためだろう、騎士様が二人立っていた。
一人は癖のある淡い金色の髪にアイスブルーの瞳をした可愛らしい印象で、もう一人は焦げ茶色の髪と瞳を持つ筋骨隆々の美丈夫だ。
彼らはビシッと音が立つような完璧な敬礼をしながらなぜか私を一瞬だけ凝視した……気がした。
「異常はないか」
「「はっ! 異常ありません!」」
「ご苦労」
後ろから追いかけているから顔は見えないけれど、たぶんその表情は私の知るジークウェルト様ではないのだろう。
クラスメイトだった彼が、本当に騎士団長になったのだと思い知らされるようだ。
けれど黙り込んだ私を心配したのか、扉を開ける直前ジークウェルト様が振り返り「ここで普段働いているんだ」と口にして笑みを見せた。
私はホッとしたけれど、警備をしていた二人の騎士様が動揺したように目を見開いたのは、私の見間違いではないに違いない。
* * *
執務室の机には書類が積み上がっていた。ジークウェルト様の決裁を待っているのだろう。
そしてその机にはグレーの髪と瞳を持つ優しげな印象の男性が座っていた。
この場所にいてその特徴ということは、彼が副団長ランディス卿なのだろう。
彼はすぐに立ち上がると凜々しく敬礼した。
「すまないな、変わりないか」
「ええ、残念ながら襲撃を指示した者にはたどり着いていません」
「そうか」
「ところでそちらの女性はもしや」
「ああ、紹介しよう。フィア・ミリスティア伯爵令嬢だ」
「なるほど……。はじめまして、アルバート・ランディスと申します」
ランディス卿は逆に感情が読めないような完璧すぎる笑顔を私に向けたのだった。




