電子書籍配信記念SS 二人の距離は近くて遠い
皆さまの応援のおかげさまで本日7月25日電子書籍配信となりました。
記念SSを投稿します。楽しんでいただけるとうれしいです。
暖炉の中でオレンジ色の炎がユラユラと燃えている。
ソファーですやすやと眠るジークウェルト様の淡い茶色の髪の毛もオレンジ色の光に照らされている。
「ジークウェルト様」
私より先に帰っているなんて珍しい。しかも、ソファーで眠ってしまうなんてよほどお疲れなのだろう……。
そんなことを思いながら、目にかかってしまっている前髪を指先でよければ薄らと目が開いた。
しばらくぼんやりと私のことを見つめていたジークウェルト様が「おかえり」と微笑んだ。
「……ただいま帰りました」
「ずいぶん遅かったな」
「ええ……ちょっと、新しい魔法陣を見つけてしまって」
「そうか」
ジークウェルト様はゆっくりと起き上がると、私の手をそっと引いた。
その直後、室内を淡く染めていたオレンジ色が強い光で白銀に塗り替えられた。
目の前にいるのは淡い茶色の毛並みの大型犬だ。
「ジーク!」
リアス先生の力を借りたおかげで、ジークウェルト様の魔力は安定した。
今では人と大型犬の姿を自由に行き来することができる。
(でも、自由に姿を変えられるようになってからジークウェルト様はほとんど人の姿で過ごしているから……この姿は久しぶりね)
ユラユラと尻尾を揺らした大型犬。その太い首に抱きついて顔をうずめるのは至福の時間だ。
実は今でもジークウェルト様の青い瞳に見つめられ抱きしめられると恥ずかしくてどうしていいかわからなくなってしまう私……。
でも大型犬の姿をしてくれているときだけは、緊張も恥ずかしさも忘れて素直に甘えることができるのだ。
ひとしきり甘えてその毛並みを満喫していると白銀の光に視界が奪われる。
あまりのまぶしさに瞑った目をそろそろと開ける。
先ほどまでジークを抱きしめていたはずなのに、人の姿に戻ったジークウェルト様に逆に抱きしめられていた。
「……甘える君も可愛らしいな」
「えっ!?」
恥ずかしくなって身じろぎするけれど、ジークウェルト様は逃してくれる気がないようだ。
唇に触れる程度の口づけは甘いのに、顔は熱くて火照ってしまっている。
「今日は君がここに来て半年の記念日だ」
「もう……そんなに経つのですね」
「そう……その間君はいつも魔法陣の研究ばかりしていたし、俺も忙しかった」
確かに一緒に暮らしていても、私かジークウェルト様のどちらかの帰りがいつも遅くてゆっくりと一緒に過ごすことはできていない。
次の瞬間、ジークウェルト様が私の左手を握って顔の高さまで持ち上げた。
「目を瞑っていてくれ」
「はい」
言われたとおりに目を瞑っていると、指に冷たい何かが当てられた。
思わず目を開けてしまう……。それはジークウェルト様の瞳みたいな青い指輪だった。
「……はあ、まだ目を開けていいと言っていないのに」
「あの……」
ジークウェルト様が恭しい仕草で指輪に口づけを落とす。
キラキラと舞い落ちるような白銀の光……目映いほどの光が、指輪に収束してそして消えた。
青い石を削りだした指輪は白銀に染め上げられた。
「受け取ってくれないか」
「あの……」
「俺の魔力を込めてある。指輪であればいつも身につけられる。魔法もいくらでも使えるだろう」
「あ……」
指輪をもらったことに有頂天になりかけていたのに、仕事のためだったのかと内心肩を落としていると額に指先がツンッとあてられた。
「君への愛を込めた贈り物だ」
「は……はい!?」
「やはり、研究のためだと勘違いされていたか……」
「あの」
「俺だと思って肌身離さず身につけてくれ」
「ありがとうございます。肌身離さずですね」
「そう……肌身、離さず……」
「……」
「……」
このあと二人そろって照れてしまって、会話もままならなくなったのは言うまでもない。




