大型犬と騎士団長様と私
「どうして、私のことを好きになってくれたのですか?」
地味な私となんでも完璧なジークウェルト様。大型犬になってしまうことを完全にコントロールできるのなら、本当に彼は全てが完璧だ。
一方私は貧乏伯爵家の、しかもメイドの子だ。魔法陣を描くのは得意だけれどそれだけだ……。
ジークウェルト様のまつげは長くて、端整な顔立ちだけれど眠っていると少し幼く見える。
その口元が歪み、うっすらと青い目が開かれた。
「――もし、犬の姿から戻れなくなったら、と考えるんだ」
「ジークウェルト様」
手が引かれ、頬が寄せられる。
手のひらに落ちてくるのは、懇願するような口づけだ。
「犬の姿から戻れなくなっても、そばに置いてくれるだろうか」
「ええ、もちろん」
「即答は嬉しいが、きっと俺は君に近づく男全てを威嚇するぞ」
「……それでも良いですよ。だから、犬の姿から戻れなくなっても私から離れようとしないでくださいね」
「君がそれで良いと言ってくれるなら」
ゆっくりと起き上がったジークウェルト様は、私の手のひらにもう一度頬を寄せた。
「どんなに否定しても……子どもの頃は犬の姿で過ごしていることの方が多かったから、どちらが本当の自分なのか分からなくなることがあるんだ」
「ジークウェルト様もジークもどちらも本物ですよ」
「そんなことを言うのはきっと君だけで、どちらの俺でもそばに置いてくれるのもきっと君だけだ……」
眉根が寄せられて、それでもジークウェルト様は口元に笑みを浮かべる。
「君をひと目見た瞬間から、ずっとそうなれば良いと願っていた」
「ジークウェルト様」
「君があんなふうに閉じ込められ、虐げられていると知っていたら、きっとすぐに君を全てから隠して奪ったのに」
私の手は、毎日お手入れしてもらえるようになってもまだ荒れていて、髪の毛もまだ傷んでいる。
婚約破棄された夜会の帰り道に出会った大型犬が初恋の人だなんて奇跡、想像すらしなかった。
「……私のほうこそ、そばに置いてほしいです。釣り合わないと思うけれど、あなたのそばにいたいから」
強く抱き締められて香る新緑の香りにうっとりとする。
落ちてきた口づけは、これからもずっと一緒にいようという約束の口づけだ。
魔法薬は効果があって、ジークウェルト様は人から犬の姿を自在に行き来できるようになった。
大型犬の姿でジークウェルト様に毒を与えた王立魔術院の高位魔術師を尾行して、証拠を掴み制裁するのはもちろんなのだけれど……。
* * *
暖炉の前でくつろぐ大型犬、その太い首に腕を回し毛並みに顔を埋める私。
けれど忘れてはいけない。
この可愛い大型犬は強面で私を溺愛する騎士団長様に姿を変えるのだ。
「君に伝えたはずだ……犬の姿だからと安心しきってはいけないと」
「ジークウェルト様……」
白銀の光とともにその姿は見目麗しい騎士団長様へと変わる。
落ちてくる口づけは、私たちの幸せな時間の始まりを告げているようだ。
大きな手に頬を撫でられ、どうしようもないほど心臓が高鳴る。
ジークウェルト様が満面の笑みを浮かべ、そして口を開く。
「伝えていなかったな……どんな姿のときでも、君が1番愛しいんだ」
大型犬のジークの愛情表現はストレートだから十分伝わっていましたよ、と思いながら私も微笑んで口を開く。
「……私も、愛しています」
大型犬はモフモフで可愛いし、騎士団長様は頼りになって素敵で……。
続けようとした言葉は、もう一度落ちてきた口づけに阻まれた。
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