二人きりの私室
私を抱き締めたまま、ポツリポツリと語ってくれたジークウェルト様の生い立ちと私への想い。
それは嬉しくもあり、切なくもあり、恥ずかしくもあった。それでも1番強く思ったのは……。
(……どうかジークウェルト様がこれ以上悲しい思いをしなくてすみますように)
話を聞く間、ずっと抱き締められていたから、ジークウェルト様がどんな表情をしていたのか私にはわからなかった。
けれど、時々その声はつらそうな響きを帯びた。
たぶん今まで多く語らず、ジークウェルト様はただ王国のために戦ってきたのだ。
ややあって、腕の力が緩まって私たちの間にはほんの少しの隙間ができる。
「……聞いてくれて感謝する」
「もっと聞きたいです」
「……ここまで話した上でもう一度聞くが、君は俺のことを」
その言葉に続くのは、おそらく先ほどの自分を否定するような言葉だろう。
私は人差し指をジークウェルト様の唇にそっと当てて微笑む。
「好きですよ。ジークは可愛いですし、ジークウェルト様も可愛いですし」
「可愛いとは……初めて言われたな」
抱き締められたまま顔を上げる。海の底みたいに青い瞳が軽く見開かれていた。
「けれど不思議ですね……」
「何が不思議なんだ?」
「ジークの行動と普段のジークウェルト様がどうしても重ならなくて」
少しだけ考え込んだあとジークウェルト様が口を開く。
「そうだな……確かにあの姿のときに君を前にすると自制がきかない。それだけではなく、君がそばにいるようになってから回復力が高まり、おそらくスピードや力も強くなっている」
ただでさえ強いジークウェルト様がさらに強くなるなんて、まるで聖獣の力を手に入れたようにも聞こえる。
「だが、君だけだ」
「え?」
「君にしか見せないし、君だけが知っていてくれたら良い。俺の本心も、君を好きだという素直な気持ちも」
真っ直ぐ私を見つめてほほ笑みかけられるのは本当に心臓に悪い。
見る間に頬が熱くなって身じろぐと、嬉しそうにさらに満面の笑みを浮かべたジークウェルト様の手が私の頬を包み込んだ。
「もう一度口づけしても?」
「きっ、聞かないでください」
「君の許可がほしいな」
自分だけ余裕の表情で笑ってそんなことを言うなんて本当にズルい。
それでも私の答えは一つしかなくて、コクコクと頷くしかできない。
「可愛いな……食べてしまいたい」
「ふぇ!?」
形の良い唇が近づいてきたので、慌てて両目を瞑る。
それから待つこと数秒……。
(ん、んん……?)
頬に触れていたゴツゴツした手が、少し固めの肉球に変わった。
薄く目を開けると眼前にジークの顔が迫っていた。
唇をペロリとなめられて、尻尾をぶんぶんと振ったジークに押し倒される。
私室で二人、しかも私は部屋の主に押し倒されている。
本来であれば、ジークウェルト様以外にはお嫁に行けなくなるような由々しき事態のはず。
「くっ、くすぐったい! くすぐったいよ、ジーク!」
『ワフ!』
私たちは色気なくじゃれ合ってしまい、それにもかかわらずジークウェルト様が人姿に戻ると妙に気恥ずかしくなって、二人並んで部屋を出た。
生温い視線を向けてくるアメリさんをはじめとした使用人の皆さま。
確実に勘違いされていると思いながらも、私たちの手は部屋に入るときと違って恋人つなぎだった。




