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8話/父さんの涙・其の四

 佐渡・小木海岸、竜王洞。

 鮮やかで水底が見える程透き通ったオーシャンブルーの美しい海面。時間帯や天候などの条件が合う事によってこの色に見えるそうだ。

 そこにあるのは海の侵食によってできた洞窟。


 その岩壁の更に奥には人間では辿り着けない、閉鎖的な洞窟があった。

 ここは王鬼達の秘密の水路。特に王鬼で高貴な身分、つまり、王鬼の中でも地下での生活が多い者達だけが知る場所である。

 天井から僅かな日の光が差し込み、水面からのぼんやりとした青い光が暗闇に馴染んでいる。

 そこを、白金の屋形舟が進む。

 外側は無数の鈴と、白い球体の提灯で飾られている。頭から黒い布を纏った王鬼が舟の両端に並び、櫂で舟を漕ぐ。

 屋形の中は簾でよく見えない。


 屋形の内部ーー。

 そこには金斬と女の鬼が並んで座っていた。

 金斬は黒いマントに身を包み、額に黄金と赤玉石(※赤鉄鉱を含んだ石英。日本三大銘石。)の額当てをしている。


 隣の女は白無垢のような婚礼の服に身を包み、頭には白い絹布を被って角や顔を隠している。

 唯一見えるのは口元。白粉の化粧に口紅の赤が目立つ。

 なんと、”珠”である。


 2人とも黙って正面を見ている。

 ふと、金斬が彼女の背中に手をやり、髪を梳いた。

 「何も言わんのだな……。止めろと言った所で手遅れではあるのだが。

 お前は逃げられない。」

 何かがジャラジャラいう。よく見ると、珠の足には逃亡防止の鎖付きの足枷がされていた。鎖の端は金斬が握っている。

 彼は絹布をめくって彼女の顔を覗き込む。

 珠は浮かない顔でただ黙っているのみ。

 「……。」

 「良い顔だ。緋寒に殺された父上達に見せてやりたいものだ……。我が力で奴の娘を服従させたと。」

 珠は黙ってされるがままだ。

 (望んだ事じゃない……。

 まず私は戦いでこの人に負けて、しかも皆んなを守る為とはいえ、一言でも『結婚する』と言ってしまった。

 そして、今は金斬が八雲に手を出さないという約束を守ってくれているなら、こちらもその誠意に応えないといけない。

 だから、あんな昔話を聞かされたからじゃない……。)




 それから舟は進み、長時間の移動の後、島の中央部の地下までやって来る。

 佐渡は元々2つの島であったが、地殻変動により一つになった。ここはその接合部にあたる場所でもある。

 王鬼にとって新郎新婦がその場所に行くのは、生命を生み出す力を得るという神聖な儀式としての意味合いがある。


 金斬は舟を降り、歩けない珠を横抱きにして進む。

 家臣達が持った白い提灯が暗闇を照らす。

 武闘場の鶴竜堂がある所と同じ、果てしない大空洞。

 地殻変動する前は海の底だったので、地層になった岩肌には貝や魚の化石が見える。


 それともう一つ、天井からは巨大な木の根っこが張り巡らされている。人間の胴より太く、数匹の竜が絡み合いながら暗闇に垂れているようだ。

 島が出来た頃から2000年程育ち続けたが度重なる地殻変動で木は無くなり、根っこだけが風化せずに乾いた状態でここに取り残された。


 金斬は根っこを見上げる。その下には石積みの、燭台のような祭壇。

 「これは胎内たるこの大穴に届く、生命の根だ。王鬼の神に夫婦の誓いを立てるのだ。」

珠は顔をしかめる。

 「子供を作らないと決めているのに、神様が力を貸すかしら?私は貴方と王鬼にとって憎む存在でもあるし……。」


 その時、後方から声。


 後ろで控えていた王鬼達が騒ぎだす。

 「なんだお前達?!」

 「なぜこの場所を知って……わあ!!」

 王鬼の1人が投げ飛ばされる。

 巨体の家臣が金斬の方へ飛ばされるが、金斬は冷静に珠を庇い、それを弾き飛ばした。


 奥にいたのは天陽、曙光、万耀、まるぽ、いろは、八重、射貫、銀雅。

そして真ん中に八雲。


 睨む金斬。予見はしていたのか驚いてはいない。

 「銀雅、お前がここに案内したのか……!可愛い弟といえど、血での償いは免れないぞ!」

 兄を見据える銀雅。

 「覚悟はできています!けど兄上、貴方がどうしてこんな横道をしてるのか分からない!思い止まってくれませんか?」

 「横道などしておらん……!全部一族の名誉の為だ。」


 王鬼達は八雲達を取り押さえようとする。

 「金斬様を守れ!神聖な儀を穢させるな!!」


 まず天陽が天女の鬼に変化し、宙を飛んで牽制する。彼らに当たる寸前の距離まで熱光線を撃つ。赤く線状に溶ける地面。後方の八雲に近寄らせない。

 その他の抜けて来た王鬼は曙光が大鬼に変化し、組み合って投げ飛ばす。巨体と巨体が肉をぶつける。


 2人に任せ、八雲は変化した。

 群青の炎に包まれ、繭のようになったそれが、青から白へ、蓮の花弁のようになって剥がれて舞う。


 彼女は金斬の方まで走り出す。背中からジグザグの青白い線が風に流れる。足から細かい白い雷もバチバチと出ており、地面を踏む度、白い火花を放つ。


 後ろは銀雅やいろは達が続く。


 「止まれ!!黒鬼!!」

 王鬼が捕まえようとするが、彼らの傍をすり抜ける八雲は光の如く掴めない。


 金斬は咄嗟にマントを広げ、珠を庇い隠す。膝蹴りの為、跳躍の構え。

 だが、金斬の脚に珠が掴まる。

 「止めてっ!!」

 「どけ、珠!」


 動けない金斬に対し、八雲は止まらず片方の角の刀を抜いた。

 刀で金斬のマントを貫く。

黒い布が白い雷の花火を放って燃え、白い布に変わる。同時に、珠の足枷も砕けた。


 八雲は奥の祭壇へ着地した。珠を横抱きにしながら。

 それは異形の黒鬼による花嫁のかどわかし。

 珠は頭の白い布を捲り、八雲の顔を覗き込んだ。

 「八雲……!」

 「姉ちゃん遅くなってごめんね!

 怪我は無い?」

 八雲は叔母をギュッと抱き締めた。怖い思いをしていないか、不安は尽きなかった。

 「私は平気……!

 それより何を……!」

 と言いかけた所に、金斬がエルボードロップ。

 八雲は珠を抱いたまま跳躍し、燭台の上に着地した。

 「金斬、姉ちゃんは返してもらうぞ!」


 金斬は身体に黄金の風を纏う。マントの下は肉体を強調する毒蛇の皮鎧。

 「男の真似事は止めておけ。

 お前は女だ。どうあがいても花婿にはなれん!」

 「鬼なら欲しい物は自分の力で手に入れ、大事な物が奪われたら奪い返す!」

 「ほお、どうするのだ?

 珠に免じて殺さず逃してやったもの。わざわざ俺に命を刈られに来たか?」

 

 八雲は珠を燭台に座らせると、そこから飛び降りた。

 金斬を指さす。

 「決闘だ。黒鬼・八雲が、王鬼の長・金斬に決闘を申し込む!

 あたしが勝ったら結婚を中止し、姉ちゃんを返して貰う。」

 「負けた場合は?」

 「お前が決めていい。それで公平だ。」


 金斬は怨念を込めて指さす。

 「ならば……貴様の命だ!酒呑童子の血を引くお前にはそれしかない!」

 「分かった……。」


 珠が燭台から飛び降りる。

 「八雲!止めなさい!

 今度戦ったら本当に殺されるわよ……!」

 「姉ちゃんは命がけであたしを守ろうとしてくれた。今度こそあたしが姉ちゃんを支えるよ。」


 珠は数年前の兄・夜光を思い出す。

 『珠、本当に頼んでいいんだな?ならば、俺がいない間、八雲を頼んだ……。正しい道を行けるように支えてくれ。』

 彼は世直しの旅に出る前に、彼女にそう言い残した。


 「八雲に何かあったら……私が戦って来た意味なんてない……!」

 珠は金斬の元に戻ろうとする。

八雲はその手を掴んだ。大好きな叔母が八雲の為に自分の気持ちを殺し続けるのが悲しくなった。

 「あたしだって……!姉ちゃんを失ったら、大会で勝ち進んで強くなった意味がないよ!

 姉ちゃん……自分自身の気持ちを言ってよ!姉ちゃんは本当に結婚したいの……?もし、したいのなら、寂しいけどあたしは去るよ……。でも違うのなら、姉ちゃんをウチに連れて帰る!」


 「私は……。」

 珠は白無垢をギュッと掴んだ。

 (自分が犠牲になれば丸く収まる。でも、金斬が愛しているとしても、半ば幽閉されて好きな事もできずに人生を終えるのは……。)

 2つの心の痛みがぶつかる。




 金斬と八雲は準備を始めた。

 石の燭台に火が灯される。


 珠は祭壇に座らされている。

 「やっぱり駄目……!金斬は純粋に強い!貴女がどんな作戦を練って、準備してきたとしても殺されちゃう!」


 八雲は珠に背を向けた。

 角の刀を両方抜いて、手の平で素早く回してまた額に戻す。

 「あたしが知っている姉ちゃんは、どんなに不利でも戦いから逃げなかった。

信じて……。あたしは1人じゃない。色んな人に支えられている。だから絶対に負けてたまるか……!」


 八雲は顔だけ振り返る。不敵な笑みを浮かべていた。




 向き合う八雲と金斬。

 八雲は狼のように背を低く構えた。5つの爪の先を向ける。

 金斬は八雲を見上げる。既に変化していて背が高い。見上げていても、下等動物を見下ろしているかのような圧がある。

 「その体を切り裂き、体を腐らせて存分に苦しめてやる。」

 八雲は笑みで返す。

 「いいねえ!他には?新しい技はないの?」


 金斬は鋭く睨んだ。彼女の笑みから『緋寒』の面影を見たのだ。

 「……この間のように泣かせてやろう。」


 金斬は砂金の舞う黄金の風に身を包む。暗い洞窟は、朝日が投げ込まれたかのようにパアっと明るくなる。

 彼は変化した。

 3回りも大きな、黄金の城を丸ごと体にしたような巨大鬼が姿を現す。スズメバチのような頭と、隻眼の仮面のような外骨格。

 その皮膚はどんな純金も霞む程眩く、滴る蜜よりも艶っぽい。


 黄金の城は八雲を見下ろす。

 体を包む砂金の風の眩い輝きが王の風格、絶対崩されない力と権力を表しているようだ。


 天陽が2人の上を飛んで、皆に呼びかける。

 「鬼にとって決闘は神聖な儀。正しきはどちらか、全てを決める審判の時。2人の戦士に手出しするなら、命はないと覚悟なさい!

 赤鬼の総族長、陽光の娘である私が、公平にこの戦いを見届けます!」


 天陽は髪を振り乱して手を下ろす。

 「始めっっっ!!!!」




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