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7話/家族に手を出すな!・其の五

 八雲は脇目も振らず、走り出した。怒りが脚を壊れる程動かす。

 姿を消し、一瞬で金斬の絵の前に移動。一気に距離を詰める。

 巨体め掛け、2本の角の刀で激しく斬りつける。

 「返せ返せ、返せっっっ!!!!姉ちゃんを離せぇっっっ!!!!」

 金斬は珠を抱いたまま、片腕でその刃を防ぐ。

 何度斬り付けても、その黄金の皮膚には傷一つ付かない。


 金斬は難なく八雲の脚を掴んで投げ飛ばした。彼女は数10メートル奥まで飛ばされた。

 彼は肘を曲げた片腕を横に下げて構えた。深い憎悪の目。

 「何も残さず、その血を絶やせ。

 ……緋寒の子孫として生まれてきた事を後悔するがいい!!」


 構えた腕を反対の肩に向かって振る。

 空を切る黄金の大鎌の刃のような光が現れたかと思うと、一瞬で八雲を切り裂いた。


 八雲は何が起こったか分からぬまま、倒れてしまった。

 「っっっ!!!!」

 肩から腿まで達する袈裟斬りのような切り傷。

 おびただしい量の煙が噴き上がり、傷は皮膚を溶かしながら広がる。

 遅れて流れ出る血。水分を失いドロドロしている。


 (死ぬ程痛くて、熱くて……体が動かない……!!意識が……!

  ね……え……ちゃん。)

 手を伸ばすが、叔母はあまりにも遠かった。


 顔を真っ青にする八重。

 「八雲……!!!!」


 射貫はいろはを問い詰める。

 「おい、いろは!アイツは何をしやがった?!妖怪のお前ならあの速さ、見えてたんだろ?!」

 唸るいろは。

 「大きな金色の鎌鼬が八雲に当たった……!

 だがそれだけではない。腕を振った瞬間、腕の内側にある小さな分泌孔から液体が吹き出していた!

 そしてその液体は、今見ての通り”酸”だ!」


 八重は娘の元に駆け寄った。

 「八雲!!しっかりしなさい!!

 今すぐ変化を解くのよ!!体を縮めて少しでも体力を温存させるの!

 ……あつっ!!」

 自分の袖を切って、布で血を止めようと触れるが、彼女自身の手まで溶けそうになる。

 八雲は言われた通り何とか変化を解くが、人間の姿になっても痛々しい傷は消えない。


 そこへ金斬が迫る。

 「おい、そこの女。その”忌み子”を生んだ母親か……?ならばまた増やさぬように一緒に潰しておくか。」


 八重は怒りに震え、低い声を出す。

 「”忌み子”ですって……?!今この子の事をそう言ったの……?!」

 「ああ言ったさ!緋寒の……先代・酒呑童子の血を引くものは皆、多くに滅びをもたらす”忌み子”だ……!」


 八重の髪が怒りで龍のようにうねる。

 「この子も夜光も、私が愛している!望まれて、愛されて生まれて来た子よ!!!!」

 群青の髪をなびかせ、金斬に向かって行く。


 「八重!!

 変化できないお前がさっきのを食らったらひとたまりもないぞ!」

 いろはは八重の援護に向かった。

 八重と並走し、合図する。

 八重はいろはの背に飛び乗ると、射貫に呼びかけた。

 「射貫様!娘を連れて逃げる準備を!!」

 「八重!!いろは!!どうする気だ!?」

 「珠ちゃんを取り返し、逃げる時間を稼ぎます!!」

 八重はいろはの背の上で大太刀を刺突の霞の構えにした。


 「全員生きて帰さん!!ここで腐り、砂となれ!!」

 金斬はまたあの『王の腐食』を風に混ぜ、鎌鼬にして飛ばす。


 「八重、しっかり掴まってろよ!!」

 いろはは酸の鎌鼬をスレスレで避ける。代わりに酸が当たった場所は地面が溶け、煙が上がった。丁度あった金鉱石の岩も難なくドロドロに溶かされ、金色の水が砂に染み込む。


 全ての酸を避け切り、金斬は間近。

 「準備はいい!?いろは!」

 「当たり前だ!行けっ!!」

 自分から膝蹴りで迎え撃つ金斬。

 いろはに当たりそうになったその時。


 八重はいろはを踏み台にして跳んだ。乗り捨てられ、後方に転がるいろは。

 八重は大太刀を袈裟斬りで叩き付けた。

 「たぁあああああああーーっっっ!!!!」

 片肘を立てて防ぐ金斬。起こった火花さえ黄金色である。

 「娘と珠ちゃんをよくもっ!!」

 八重は武器を持ったまま、両手交互にストレートを打つ。

 拳から放たれる白い雷。

 「この鬼術は……青鬼か?!」

 金斬は感電で両腕を麻痺させた。

 珠を手放してしまう。

 

 「珠ちゃん!!」

 八重は珠を抱き留め、丁度下に待機していたいろはに飛び乗ろうとする。


 「忌々しいっ!!」

 金斬の足払い。

 大木のような脚ででいろはを吹き飛ばし、珠から八重を無理矢理引き剥がして投げ捨てた。


 2人は丁度八雲を背負って運んでいた射貫の元に飛ばされる。

 「八重!いろは!」

 射貫は2人とぶつかり、気絶してしまった。


 金斬は口を大きく開けた。

 「これで最後だ!!!!

 王の力に平伏せ!!!!」


 失血で力が入らず、起き上がれない八雲。

 「か、あさん……!いろは兄貴、射貫のおじさん……!」

 (姉ちゃんどころか……ここにいる皆を守れない……!!……あたしは何て……弱えんだ……。)


 金斬は口から『王の腐食』を発射した。輝く火の水が一文字に伸びる。


 その時だ。

 何者かが大の字で金斬の前に出た。


 ボロボロの"淡い朱色の鬼"。虚な表情。

 

 「!!!!!!

 ねっ、ねぇちゃあんっっっ!!!!」

 「姫っっっ!!!」


 八雲、そして金斬も。絶望の表情で同時に叫ぶ。


 再び強酸を、しかも至近距離の正面から浴び、おびただしい煙に包まれる。

 珠は叫び声さえ上げられず、その場に崩れた。


 八雲は手を伸ばして涙を流す。

 直ぐに駆け付けたいのに届かず、血が溢れるほど唇を噛む。代わりに金斬に憎悪の目を向ける。

 「どうして!……どうしてっっっ!!!

 姉ちゃんやあたし達がお前に何したって言うんだよぉ……!!!」


 一方、金斬は直ぐに珠を抱き起こしていた。故意ではなかったようで、酷く動揺している。

 「珠、何故だ!!何故前に出た……!!!!」


 そして、この切迫した状況に、天井から何者かがやって来る。

 「八雲ーー!!大丈夫か?!」

 岩場を跳んでやって来たのは銀塊のような大鬼。

 変化した銀雅だった。

 大きさは金斬より少しだけ小さいが、姿形はそっくりだ。


 続いて、宙を飛んでやって来たのはなんと”天陽”。変化をした状態だ。

 そしてそして、なんと背中には”まるぽ”が乗っているではないか。

 「八雲!!死んじゃやぁ!!返事して!!」

 と、涙を浮かべるまるぽ。

 「八雲!しっかりなさい!!

 私に勝っておいて、ここで負けるなんて恥をかかせる気ですか?!」

 と、天陽。

 天陽は髪を太陽のように広げ、金斬に向かって熱光線を出した。

 合間にまるぽが苦無や刃物を投げつける。


 金斬は珠を庇うように背中を向けた。

 しかし黄金の皮膚は簡単に高熱線を跳ね返す。

 「こんな時に忌々しい雑魚どもめ!どれだけ邪魔をすれば気が済む?!」


 天陽が気を引いている隙に、銀雅は八雲の元へ走った。

 彼女の大怪我を見て震える。

 「兄上……、なんて事を……!」

 銀雅は八雲や八重達を纏めて胸に抱えると、天陽達に合図した。

 「上で戦っている曙光殿達がそろそろ限界だ!!例の場所まで退くぞ!!」


 八雲はまだ珠がいると教えようとしたが、熱で喉が焼けて喋れなかった。

 (ね、姉ちゃん……!!)

 そのうち、意識も途切れてしまう。


 「銀雅、貴様もか!!哀れな弟……よりによって敵の女から色を知りおって!!!」

 銀雅と天陽が逃げるのを追おうとする金斬。

 しかし、その怒りで熱った頬に、小さな手が滑る。

 珠の手。

 彼女は荒い息をしながら、彼の顔を両手で引き寄せた。焦点の合わない目をしている。

 「お、ねが……い……。お……わないで……。

 あなたと……”結婚”するから……!だから、皆んなを……!!」

 彼女は彼の頬に頬を寄せて抱き締めた。


 家族を守る為の嘘。本意では無い。

 それは金斬にもなんとなく分かっていた。

 (あれだけ俺を拒んでいながら、自我を捨てて俺を愛するフリをしたと言うのか……!!黒鬼や仲間を逃がす為だけに……。)

 黄金の鬼の巨体の隅々に、それより小さな女鬼の手から温もりが伝わる。 


 「……分かった!もう喋るな!」

 彼は彼女を抱きしめ返した。偽りの愛の誓いだと分かっていながら。




 銀雅達は八雲やいろはを連れて金斬の屋敷を脱出する。

 殺さないように慈悲をかけられ、また、やられっぱなしで苛立つ側近達はそれを追おうとした。

 しかし、大穴から戻ってきた金斬が命令でそれを止めさせる。

 代わりに腕の中の珠を差し出し、こう告げた。

 「屋敷全ての薬と医師を集めろ……!

 どんなに大事な秘薬を使ってもいい……彼女にどんなに小さな傷でも一つたりとも残すな!」



(7話・完)


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