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7話/家族に手を出すな!・其の一

 金斬の屋敷に招かれた日の翌朝ーー。

 珠達の寝泊まりする寝室。


 石の机に置いた、水をはった桶。そこに自分の姿を映す珠。

 徐に手刀を作る。形が整った鋭い爪が光る。

 次の瞬間、桶の中に彼女の髪が大量にどさっと入った。



 

 「あーーーーっっっ!!どういう事だよ珠姉ちゃん!!」

 後から起きた八雲が青ざめて叫ぶ。

 

 「何?何か文句あんの?」

 珠はムスッとした顔で、お膳に乗った朝食の鯛茶漬けをかき込んで食べている。横に積まれた空の茶碗を見る限り30杯目だ。

 「いやいや、何で切っちゃったんだよ!?”髪”!」

 

 八雲の目の前の珠ーー。あのたっぷりあった毛量の髪が無くなり、綺麗さっぱり『おかっぱ頭』になっていた。そういう髪質なのか、先程切ったばかりなのに毛先の方が淡い朱色に変わっている。


 「珠姉ちゃんの髪を首に巻いて温まりっこできないじゃん!!」

 珠は箸をお膳にざっくり突き刺し、低い声で怒鳴りつける。

 「髪ぐらいでガタガタ騒いでんじゃいわよっっっ!!鬼なんだから明日になれば生えてくんでしょうがっ!!

 これから戦いだってのに、甘ったれた事言ってんじゃないわよ!!」

 「むむっ……!」

 八雲は長年一緒に暮らしてきた経験から、何となく察して言い返さなかった。

 (これは単なる八つ当たりとかじゃなさそうだ。珠姉ちゃんは、いつも言葉遣いとか行儀とかに煩くて、あたしに注意するくらいだし……。

 きっと金斬との戦いを控えているからワザと荒っぽい口調になって気持ちを高めてんだ……!相手は男で強敵だから尚更……!)


 八雲は柔軟運動を始める珠の背中を心配そうに見つめる。

 「ところで姉ちゃん……。昨日、寝てる時凄いうなされてたぞ……。

 何かあったんじゃないのか……?!そんなんで戦えるのかよ?」

 珠はいつもの落ち着いた口調で答えた。

 「大丈夫よ……。緊張していただけ。」


 それ以上は黙ってしまったので、八雲は自分の支度を始める。

 (あたしが銀雅に会っている間に何かあったのか……?

 だとしたら、姉ちゃんを守るって言いながら、何やってたんだ……!あたしは……。)




 支度を終えた後、部屋に金斬の遣いが2人を迎えに来る。

 ダンジョンのように入り組んだ、石積み廊下を通って下へ下へと階を下る。

 その先に待ち構えていたのは、八雲達の背丈の20倍もある巨大な黒鉄の門。門は地殻のように分厚く、重々しい。


 「この門の先で金斬様がお待ちです。

 1人ずつ入って貰います。」


 珠が口を開こうとする前に、八雲が先に前に出た。

 「あたしだ!あたしが先に戦う!!」

 その時、珠がいきなり彼女に掴み掛かった。

 数秒の間に八雲と拳を交え、遂に投げ飛ばした。

 近くの石の壁に背中を打ちつけ倒れる八雲。


 「私よ!私が先に金斬をぶちのめすっ!!」

 珠は先に門の前に立った。

 「ね、姉ちゃん!」

 八雲は直ぐに追いかけた。

 背中に触れようとした時、温かいものが八雲の体を包んだ。大好きな叔母の香りがふわりと広がる。


 珠が八雲の頭を胸に抱き入れ、ギュッと抱き締めていた。


 「心配しないで……!金斬には絶対勝つから。まだお嫁には行かないよ……!」

 優しく、明るい声を作って囁く。


 (珠姉ちゃんは顔を見られたくない時、それを隠すようにこうやって、あたしを抱き締める……。)

 八雲はその温もりから何かを感じとる。胸の奥が無意識にふつふつと燃え上がった。


 珠は八雲を突き放して踵を返す。

 「待ってよ!あたしが先に入る!」

 「今回だけはいう事聞いて……!いい子だから!」

 「行っちゃ駄目だ!姉ちゃん!!」


 その時、黒鉄の門がグギギギと金切声のように鳴きながら開いた。

 砂金のような輝きを含んだ突風が吹き出す。

 怯む2人のうち珠をだけを包んで吸い込むと、門は固く閉じてしまった。


 「珠姉ちゃんーーっっっ!!!!」

 門は叩こうが、押そうが、びくともしない。

 金斬の遣いが無感情に言う。

 「無駄でございますよ。この門は王鬼の由緒正しき血統である金斬様の『王の力』でしか開けられません。」

 

 八雲は門を叩きながら吠えた。

 (姉ちゃんは私を守らなきゃって思う余り、いつも自分の事我慢して隠そうとする……。

 頼ってくれよ……!いつも支えてくれた姉ちゃんを反対に支えたいよ!でなきゃ、色んな奴に勝って強くなった意味なんてないじゃないか……!)




 門の内側。

 珠は暗闇の中、黄金の風に包まれて身動き出来ないままだった。

 鬼故に夜目が利くので、彼女には自分が岩の地面に空いた大穴を通っているのが分かった。

 (下に……、地下に引き寄せられている!)


 『愛しい姫、もっと奥へ……。我が懐まで……。』

 風から、”彼”の声が耳に流れ込む。

 珠は顔をしかめた。

 「気色悪い事するなっ!!暗いとこに引きこもってないで、さっさと戦えっ!!!」

 自ら打掛をはためかせ、水に潜るように落ちていく。

 



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