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6話/白無垢のようだ……染めてやろう·其の一

 佐渡の地下。

 境界線が見えない程果てしなく広く掘られた大空洞。

 その空間を四角い積み石や砂で作った古代遺跡や神殿のような建造物が埋め尽くす。

 中は無数の篝火や提灯によって明るい。天井には空気を取り入れる穴もあり、そこから外の明かりが差し込む。

 試合と開会式を行った鶴竜堂だ。


 その大空洞の更にその奥にある、非常に眩い巨大建造物。

 篝火の光に照らされキラキラと輝く黄金宮。

 その中庭では鬼達が集まって賑やかに会食を行っている。

 殆どは身分の高い王鬼だ。皆、肌が色白で黒いローブのようなものを身に纏っている。その黒に映える純金の腕輪や首飾りなどの装飾品が目立つ。

 皿や酒が入っている盃などの食器も、花を生ける花器も、何から何まで純金である。


 「うわあ。金、金、金……。眩しくて頭痛がして来たよお……!」

 と、漏らしたのは珠。

 肩から袖を切った、裾が膝上までの着物を何枚も重ね、幅広の帯で蝶々結びにして留めている。その上から薄い打掛を肩が剥き出しになるように着崩す。着物はどれも金糸で花の刺繍が入っており、髪飾りも金製だ。

 現代で言う所の、パーティードレスだろうか。肌の露出など、人間達の服飾文化とは考えが異なる。

 一方、珠の隣で金の大船に盛られた刺身を食べているのは八雲だ。

 髪を下ろし、珠と似たような格好をしていて可愛らしい。 ……のだが、珠を庇いながら辺りに睨みを利かしていて表情で台無しである。

 目を光らせながら「姉ちゃんに手を出したら殴り倒す……。」と、念仏のようにブツブツ言っていて怖い。


 そしてもう一つ気になる点が。

 八雲の足元には鞠のような大きさの『子狐』がいた。

 色はいろはにそっくりの白で、丸い尻尾が可愛らしい。……が、こちらも目付きが悪くて台無しだ。


 そうこうしていると、金斬の側近がやって来て、珠達を呼んだ。


 通されたのは金斬のいる玉座。

 珠は緊張気味に八雲を背中に庇うようにして立つ。周りは男の鬼だらけであり、女は侍女の人鬼のみで数えるほどしかいない。

 金斬は柔らかい笑顔を作って微笑む。

 「決勝戦進出、おめでとう。

 全て見事な試合だった……。2人とも俺の伴侶に相応しい強さだ。」

 「あはっ♪どうも〜……!ありがとうございまぁ〜す。」 

 珠は引きつった笑みを浮かべて思う。

 (うわああああ!!好みじゃないし、貴方と結婚する気とか全くないんだけど!)


 一方、八雲は子狐を抱っこしながら終始彼を睨みっぱなし。

 「ガルルルルッッッ!」と唸り始めたので、珠は苦笑いで八雲の頭を下げさせた。

 金斬も釣られて苦笑いし、話題を変える。

 「で、……その子狐は?」

 八雲は顎を突き出しながら答える。

 「あたしの飼っている子供の九狐です!文句ありますでしょうかコラ?!」

 子狐は「ゴォンっ!」と、野太い鳴き声で返事する。




 さて、八雲達がこの金斬の屋敷に招待された経緯を説明せねばなるまい。

 時は天陽との試合を終えた直後まで遡る。




***




 試合を終えた後ーー。

 金斬の遣いが決勝戦について知らせを持って来た。


 声を上げる八雲。

 「えっ!!!!決勝はあたしと珠姉ちゃんで戦わないのか?!」


 「金斬様が自ら2人それぞれと戦って、どちらが花嫁に相応しいか決めたいそうなので……。

 明日、金斬様のお屋敷で戦っていただきます。」


 後半の話など、もはや八雲の耳には入っていなかった。

 (そんなの、金斬が珠姉ちゃんを選んだら終わりじゃないか……!!

 折角勝ち上がったのに!これじゃ結婚を阻止できない !)


 続ける遣いの王鬼。

 「それから、金斬様が戦いの前に珠姫様達のために宴を開かれるそうなので、今宵はお屋敷へ是非ともお越しくださいませ。」

 不安そうなのは珠も同じだった。

 「ええ……。分かりました。

 うーーん、折角用意してくれたなら行かないと失礼だよね……。」

 「因みに、お泊まりもこちらでお願いします。」

 「えっ!!!泊まり込みなの?!」

 そこへ八重と射貫が入る。

 「珠ちゃん大丈夫よ。私達も一緒だし。」

 「そうだそうだ!俺も付いてってやるぞ。タダで人んちの酒が飲み放題だ。」

 だが、王鬼は大声になって「大変申し上げ難いのですが……!」と割り込む。

 「お付きの方々はご遠慮願います。

 『珠姫様と八雲様のみ』でお越し下さいませ。」




 八雲達は一旦宿屋に戻って、渋々支度を始めた。


 八雲は血や汚れを抜きながら考える。

 (こうなりゃ……、あたしが明日の試合で金斬をボコボコにして、珠姉ちゃんに二度と近付かないように約束させるしか無い!よし、そ・れ・だ!というか、もうそれしかねえ!)


 一方、先程の遣いの態度に不満そうな射貫。

 「ったく、ケチ臭えよな。金持ちなら2人呼ぶのも、5人呼ぶのも変わんねえだろ。」

 いろはも鼻をクシュンと鳴らす。

 「『今度の戦いの場は神聖な場であり、戦いで血の禊を終えた2人しか入れない』と最もらしい理由を作って述べてはいるが、頑なに若い女2人しか呼ばないのを見ると、やはり裏があるように感じてしまうな……。」

 親の八重は心配でならなそうだ。

 「隠れてでも付いて行こうかしら……。」

 「そうするにも、きっと警備は厳重だろう。

 だが、安心しろ八重。俺様に『考え』がある。」




*** 




 そんな流れで、八雲達は恐る恐る屋敷にやってきた。


 ちなみにこの子狐は、いろはが偵察の為に妖術で作った彼の分身である。

 本物のいろはは八重や射貫と共に、屋敷の外で野営をして待機している。ただ、王鬼に怪しまれない場所までしか接近できないので、屋敷とは少々距離があるのが難点だ。




 話は金斬と謁見した所まで戻る。


 金斬は気を取り直して提案する。

 「そうだ。夫になるかもしれない者と、こんなにも距離があるのも嫌なものであろう。

 どうだ?俺の隣に来ては?」

 細めた目から視線を流し、女を転がすような色のある声で誘ってみせる。

 「い、いやいやあ〜。それは恐れ多いと思いますのでぇ〜。その辺の隅で大人しくしてますよぉ〜。あはははは……。」

 珠は拒否の汗をダラダラ流し、首をブンブン横に振る。

 だが、側近達がささっと石の肘掛け椅子を用意してしまう。

 ここまでさせたので断りにくくなり、渋々隣で食事する事になってしまった。


 八雲は珠と金斬の間に入るように座る。そして食事の間、ずっと金斬を睨み付けた。彼が珠を盗み見ようとする度、八雲が鬼の形相で視界に入って邪魔をする。「何ふざけてるの!」と、軽く小突いてそれを叱る珠。


 このやりとりを遠くの席から見ている者がいた。

 銀雅である。

 彼の目当ては勿論、『八雲』だ。彼の兄が珠に釘付けなように、弟の彼は八雲だけを目で追いかけた。

 彼女が箸で食べ物を口に運ぶ時のその開いた唇や八重歯、一瞬だけ美味しくて幸せそうな表情をする所など、些細な仕草までも目に焼き付け心躍らせる。


 (今日は兄上に『大人しくしていろ』と言われたが、あの子が近くにいるのにそんな事……。

 それに、兄上がもし八雲までも嫁として狙っているのなら私は…… !


 兄上、申し訳ありません……。私は初めて兄上の命令に背きます……。)




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