表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/38

5話/暁の天女に首を垂れろ·其の一

 ここは佐渡の尖閣湾・揚島。

 建物10階分の高さの断崖絶壁が続く海岸。

 縦縞模様のような険しい岩肌と深い青色の海。


 その断崖絶壁から何かが放射線を描きながら落ちる。

 白い九狐とそれに乗った黒鬼。

 そして、その周りを飛ぶ、空のような"水色の肌の鬼"。


 水色の鬼は細長い風袋のようなものを肩にかけ、その袋から空気を噴射して飛んでいる。


 黒鬼は空色の手を伸ばし、狐を足場にして跳ぶ。

 「うおおおおおおーー!!」

 変化した八雲だ。


 「これ俺様要らねえだろぉーー!?死ぬ死ぬ死ぬっっっっっ!!!!」

 と、鼻水垂らして絶叫している狐は いろはだ。


 八雲は空中で回ったり、ジタバタしながら水色の鬼に追い縋る。当然ながら飛べない。

 水色の鬼は微笑を浮かべ、八雲のつむじをチョンと突いた。


 情けない悲鳴を上げて落ちる八雲といろは。

 派手な水飛沫の割に、着水音はのどかな波の音によって掻き消された。


 空中に残された水色の鬼は溜息を吐く。

 「あーあ。これは他の方法を考えるべきかね。」

 珠の声だった。


 実はこの"水色の鬼"、珠が妖術で別の天鬼に姿を変えたものである。


 何故、こんな自殺紛いの事をしているのか?

 その発端はまるぽの試合が終わった後まで時間を遡る。




***



 

 まるぽの試合が終了した後、八雲は客席で母に両肩を掴まれていた。

 八重はカンカンに怒っていた。同時に涙も浮かべていた。

 「八雲!!頑張れば、鎖と魔除け札を破壊できたんですって?!」 

 「ア、ハイ。」

 「なのに、ワザとこんな血達磨になるまで攻撃受け続けたの?!

 早く母さんの血を吸いなさい!いくら鬼でも失血したら回復も出来なくて死んじゃうのよ!」

 腕まくりする八重に、八重は恥ずかしそうに首を振った。

 「ええーー?!だ、大丈夫だって!

 それに、みんな見てる所で母さんの血飲むとか恥ずかしいよ!!」

 「いいから飲むっっっ!!

 親を心配させた罰よ!」

 八重は自分の手の平を噛むと、溢れ出た血を暴れる八雲の口に無理矢理流し込もうとする。

 「や、ヤダヤダヤダっっっ!!」

 「暴れるなら口移しにしてでも飲ませますからねっ!!」

「それはもっと嫌だあーー!!」




 そうして貧血でフラフラではあったが、母の血で回復した甲斐もあって、なんとか残りの試合を勝ち進んだ。


 夜もすっかり更け、今日の部は終了した。

 

 審判から終了の知らせと共に、準決勝の知らせが告げられる。


 「朱天鬼『天陽』と黒鬼『八雲』!

 残りの準決勝は明後日、『七浦の夫婦岩』にて行う。

 それまでにしっかり休み、戦いに備えるが良い。」


 八雲は『天陽』と聞いて、疲れも忘れて背筋を正した。

 (追い付いた。やっと……。)




 外に出ると、辺りはすっかり夜が更けていた。鬼は夜目が利くので、皆夜道を帰って行く。


 借りていた宿に戻る途中、珠が口を開いた。

 「しかし、不味いね……。」

 「どうしたの?珠姉ちゃん。」

 「貴女の準決勝の相手、天陽の事よ。

 前に学校で八雲を軽く捻ったでしょ?あの時の様子を見る限り、天陽は確実に父親の陽光の血と能力を受け継いでいるね。

 妖力がずば抜けて高い。


 まず、翼などを使わず宙を自在に飛べるのは有り余った妖力のお陰。天鬼でそれが出来るのは、この時代じゃ陽光と天陽くらいね。

 あと、熱光線も。こちらも並の天鬼じゃ鬼火であんな速くて破壊力のある術は出せない。

 そしてもう一つ、陽光なら思考を読む力がある。なら、娘のあの子にだって……。」

 「それなんだけどさ、心を読まれはしなかったけど、確かに頭の中に直接重い言葉を流しこまれて気絶しかけたぞ。」

 それを聞き、珠は腕を組んで考える。 

 「陽光は相手の心の声を受け取る力で、天陽は自分の心の声を放つ力か……。

 親子でも能力が全く一緒ではないから、そこも臨機応変に戦わなきゃって事だね。」

 「大丈夫だよ、珠姉ちゃん。

 大会に天陽が出るって分かる前から色々訓練してきたつもりだ。」

 「じゃあ、飛ばれたらどうする?」

 八雲得意げに説明する。

 「降りて来るまで逃げ回って、疲れた所を叩くさ。」


 そこへ射貫が「ちょっと待てい」と、割り込む。

 「甘いぞ、八雲。

 実は俺はな、この前の戦争中に"陽光と夜光の戦い"を見た事があんだよ。」

 「え、父さんの!?それと天陽の父さんも!?」

 父の話と、直ぐに食いつく八雲。


 「夜光も最初はお前が言うように、陽光の空中からの攻撃を動き回って避けてたさ。

 だが、ちょっとした隙に、夜光は陽光に連れ去られた。

 空に!お天道様のお隣ぐれえの高さまでな。」

 「そ、それで?!」

 ソワソワしてる八雲。

 

 射貫は酒の甕を持った片腕を高く上げ、急にパッと放した。

 重力に従って落ちる甕。

 だが、括り付けていた紐のお陰で割れず、ゆらゆらぶら下がる。

 

 八雲は唾を飲んだ。

 「まさか……!そんな高さから手を放して落としたのか?!」


 「そ。しかも、落ちてく夜光を例の熱光線でじっくり狙い撃ちさ。

 どんなに強かろうが、空中に放り出されちゃ手も足も出ないってこった。」

 「そ、それで、父さんは天陽の父さんに負けちゃったのか?!」

 「ここからがいい所さ」と、射貫は上機嫌に続ける。


 「夜光の奴も空を飛んだのさ!

  狸みたいに金●の皮を広げて……。」

 「……。

 え?」

 固まる八雲。

 「あ、いや違った。」

 と、訂正する射貴。


 「脇の下の皮を広げてよお、ムササビかコウモリみたく飛んだのさ。

 って、言っても凧が風で飛ぶみたいなもんで、自由自在って訳じゃないけどな。

 それでどうにか応戦したんだ。」

 話に戻る珠。

 「貴女のお父さんには体を色んなものに変えて戦う能力があるって前に話したっけ?

 肘から斧を出したり、背骨を脱皮させて槍に変えたり、角を伸ばして太刀にしたりとかね。

 空を飛べたのもそれよ。」


 八雲は飛んで自分を見下ろす天陽の姿を思い出す。


 「……あたしも飛べるように体を変えられるかな?

 どうすれば体を変化できるんだろう。」

 「貴女のお父さんだったら、相手から血を貰ってそこから能力を吸収してたんだけど……。

 貴女も同じ事が出来ると断言は出来ないわね。」

 「それでもやってみる。

 誰か飛べる鬼に心当たりはないか?天陽達以外で。」

 

 悩む珠。少し言いにくそうに口を開く。

 「貴女のお父さんの先生の1人、風神の青鬼・『冠羽(かんば)』。

 妖力ではないけど、風を操って飛ぶ事ができたの。


 ……でも、血を分けて貰いようがないわ。

 もう亡くなってしまっているから。」


 「そうか」と、肩を落とす八雲。その肩に珠が手を置く。


 「まあまあ、落ち込むのは早いよ。

 私はね、小さい時に貴女のお父さんと戦う冠羽さんを見た事あるの。

 冠羽さんに変身して、覚えている限りの飛ぶ動きをしてあげる。攻略に役立てて。」




 そして、次の日。

 八雲(と、とばっちりの いろは)が海に転落した所まで話は戻る。

 修行になったかどうかは、あの通りだ。




***




 早朝から修行を始めて、やがて正午になる。


 八雲達は浜辺で火を焚いて体を温めて、休憩していた。

 

 薪の前で胡座をかく八雲。三つ編みを解いて髪を下ろしているので別人見えるが、彼女だ。

 褌姿に、乾いた小袖を羽織っている。

 変化は服を巻き込むように肉体が変形するので、変化中に濡れると変化を解いた後も濡れたままだ。

 横ではいろはが昼寝している。


 珠は八雲の髪を絞っている。クセのある黒髪から水が滴って光る。


 八雲は横目で珠を見た。

 「所で、珠姉ちゃん。こんなに協力して良いのかよ?」

 「んーー。何で?」

 「姉ちゃんはとっくに決勝まで進んでて、あたしが準決勝で天陽に勝ったら、次はあたしが姉ちゃんの敵になるんだぞ?」

 珠は八雲の顔を覗き込み、からかうような笑みを浮かべる。

 「あらら、びびってるの?私と戦うのをさ。」

 「違うよ……。」

 八雲は少し不機嫌そうに、遠くの海原を見つめた。

 珠はそんな彼女の隣で膝を抱える。

 「可愛い姪が一生懸命頑張ってるの見たら放って置けなくてね。

 それに……その直向きな姿、貴方のお父さんを思い出すの……。


 兄上は大切な人を守る為に、強くなろうと一生懸命だったから……。」

 珠は自分の肩にかかった柔らかい白銀の髪に口元を埋め、物思いに耽けるように目を細めた。

 八雲は父を敬愛する自分と、兄を想う珠を重ねた。


 「珠姉ちゃん。決勝で会おうな。」

 「うん。

 その時は先生として容赦しないからね。戦いの基礎とか教えたの私だし。」

 「姉ちゃん、今日は一緒に寝ないからな!」

 「何その私に添い寝してあげてるみたいな言い方……。

 その歳まで添い寝をせがんでくるのは何処の誰かさんかなーー?フフフ……。」




 その夜。

 宿屋で夕食を摂った後、八雲は明日に備えて早く寝床に入った。

 宣言通り、珠から離れて上着を被って横になっている。だが流石に緊張しているのか、寝入るまでには至っていない。

 見かねた八重が話し掛ける。

 「どう?今日は冠羽おじ様の動きで何か掴めた?」

 「いや、はっきりとは……。

 でも、飛べる分相手にイライラさせられるから冷静な気持ちでいなきゃとか、どう動けば捕まらないかは何となく分かった。」

 「いつも自信たっぷりな貴女らしくないわね。


 大丈夫よ。貴女はお爺ちゃん、『雷神・蒼』の血を引いているんだから。」

 「えっと、母さんの父さんの事だっけ。

 あたしが生まれる前に戦いで亡くなったっていう。」

 「そう。貴女の雷はお爺ちゃん譲りだからね。」

 八重は少し、寂しげな顔をする。


 「冠羽おじ様はね、お爺ちゃんの親友だったの。私が生まれてからお互い疎遠になったけれどね。

 おじ様は亡くなる直前までお爺ちゃんに再会して存分手合わせしたいって願っていた。それくらい特別な関係だったの。」

 「爺ちゃんの大事な友達……。」


 八重は八雲の頭をそっと撫でて微笑む。

 「貴女に流れるお爺ちゃんの血が、冠羽おじ様との記憶を呼び起こして力を与えてくれる気がするの……。

 だから、真っ直ぐな気持ちでね。そういう亡くなった人達の後押しを得られるのは正しい心がある人だけ。


 あとは結果がどうであれ、自分が後悔しないように頑張りなさい。」

 「うん……。

 ありがとうな。母さん。」 


 八雲は微睡む前に、空中で得意げに手足を組む水色の鬼を思い浮かべた。

 (そして、会った事ないけど、ありがとう……。

 あたしにこの力を受け継がせてくれた蒼お爺ちゃん、珠姉ちゃんを通して風の心を教えてくれた冠羽さん……。

 

 この不思議な巡り合わせを無駄にしないように……大切に戦うから。)




<おまけ 前作に出てきた『冠羽』>

挿絵(By みてみん)


話に出てきた前作 夜光vs陽光の回↓

https://ncode.syosetu.com/n9321gf/157/


前作 冠羽 登場回↓

https://ncode.syosetu.com/n9321gf/50/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ