4話/ぴょ〜ん♪ぴょん♪鬼さんこちら♪・其の二
二回戦。
大江山出身・黒鬼の八雲 対 大川山出身・紅天鬼の夕霞。
また観客がひそひそ噂した。
「げえええ〜!嫁選びの大会なのに、あんなのも出るのかよ!
普段、相手を踏み潰して殺しちまう奴だって噂だぞ!」
「うほほ〜♪こりゃ死人が出るぜ!」
「黒鬼ちゃんも短い人生だったな。」
夕霞は変化前でも八雲の2倍の背丈があり、力士のような体型だった。太い一文字の赤い戦化粧をした顔は厳つい。
頑丈そうな太鼓腹が目立つ。
初めの合図の前に、八雲は審判に「夕霞に挨拶がしたい」と頼んだ。
「よろしくお願いしまーー……。」
と、頭を下げた瞬間、夕霞は丸太のような足を上げて踏み付けを放って来た。
「おっ、と!」
八雲は軽く横にステップして回避する。
「ざっざど私に踏まれて足裏を舐めろお!!ごのウジチビめ!!」
夕霞は挨拶など受け入れてくれなそうだ。
仕方ないので八雲は跳んだ。
「どぅおこ行ったあ?!ごの!!」
夕霞の後ろに回り込み、彼女に気づかれぬ間に、股下を潜って腹の下に立つ。
そして夕霞の腹を叩いた。太鼓のように、軽快に。
「ポンポコリンの、ポン♪」
「ーーーーっっっ!!!!!
ご・お・ろ・ずーーっっっ!!!」
すっかり怒髪天な様子の夕霞。床に大穴を開けながら暴れ出す。
八つ当たりで審判を叩き飛ばしながら試合開始。
2人は青い炎に身を包んで変化した。
黒い肌に青い炎が反射する。その炎を帯を解いた着物を後ろに脱ぎ捨てるように払う八雲。
変化前は少年のような彼女だが、変化する時は大人の女を知ったばかりの若い娘のようになる。
夕霞は元の体から想像出来る通り、体が数倍大きな化け物になった。ダイダラボッチが闘技場に現れたかのようだ。
連続で突進と腕回しと尻落としを放つ夕霞。
獣のように背を低くして走り、時々柔らかな動きで側転や後ろへ回転跳びして逃げ回る八雲。
「アハハハッ♡おいでよ!♪
鬼ごっこしよう!」
地響きで闘技場の天井の一部が崩れ、石や砂が降り注ぐ。
観客達もよろける。
人間で鬼より軽い射貫は後ろにひっくり返ってしまった。褌が丸見えだ。
「ゆゆゆ揺れれれっ!!!」
「やだ!小石が……!!」
八重はいろはの首に抱き付いて掴まる。手拭いをサッと広げて自分といろはの頭に被せた。誇らしげにニッコリするいろは。
体格差があるのでその体重に真っ向から挑むのは自殺行為だ。
八雲は人差し指を舐めて笑う。
「宣言する。
この試合で角の刀は使わねえ……!」
珠は参加者の控え所からこの試合を見ていた。
「あーーあ。またあの子の悪い癖だ。
必殺技で済む相手でも、戦いを長引かせたくて強い技を封じるんだよね。」
両手に白い雷を纏う。
更に両足にも纏う。
夕霞は飛んで衝撃波を起こす。円形に広がる紅色の炎。
高く飛び上がって回避する八雲。
しかし、夕霞はそれを見越していた。
両手で挟むように叩く。
「へへっ!おーーっと、危ない!」
八雲はその指に掴まって、挟まれる前に前方へ飛び込んだ。
肩を駆け上がり、夕霞の首側面を蹴飛ばす。
「ぐっ!!!」
白い閃光。
ミシッと音がし、感電して動きを止める夕霞。
更にその額中央に掌底が連続で何十発も飛ぶ。
ピカッ、ピカッと目が痛くなるような数十回の閃光。
「ヂビが!手足むじっでやる!!」
白目剥きながら、八雲の両腕を捕まえた。
「捕まっちった♪
でも……!」
冷静に足を後ろに上げながら鉄棒のように前回り。
同じ額に勢い付いた踵落としが放たれる。
共に落ちる、天井からの白い槍のような光。
落雷だった。
夕霞は火傷で煤だらけになった。白目剥いて舌を出す。
八雲は力尽くで脱出した。
背後から青い光の線を流し、銀の髪をなびかせながら疾走。
回り込み、夕霞の後頭部を目掛けて蹴り。
いや、違う。
脚を巻き付かせた。固く、ガッチリと、鎖のように肉に食い込む。
助走の勢いのまま、首を横に捻り上げた。
メキメキっと音を立て、真横から後ろを向く夕霞。
平衡感覚を失って仰向けに倒れた。
だが、その゙巨体は直ぐに起き上がった。しかもブリッジの体勢。
見ると八雲が下から背中で彼女の巨体を持ち上げていた。
八雲は夕霞を背負ったまま、その場でグルグル回った。
背負った巨体が回る事で大風が起きる。
「いくぞ!これが、さっき天陽に褒められた腕力だっ!!」
八雲は手を離した。
夕霞は転がる岩の如く客席に突っ込んだ。
ズシーンという闘技場の一部を破壊する音と、激しい土埃。
夕霞は痙攣したまま動かなかった。
審判は夕霞の鼓動を確認すると、腕を上げた。
「気絶により戦闘不能。
そこまで!」
観客から歓声が上がる。
男鬼たちは腕を突き上げた。
「いいぞお黒鬼!!」
開会式の一件で既に彼女の愛好家が増えていた。
八雲は観客の事など気にせず、自分で決めた縛りの中で勝った事を喜んだ。
「曙光先生の動きと重さと比べたら、子牛と遊ぶようなもんだぜ。」
入場口から見ていた珠が、嬉しそうに拍手を送る。
「余裕の初勝利……。
私と決勝戦当たっちゃうかな?
いや、結構おっちょこちょいだから、ドジって敗退もあるかもね。」
また、見ているのは仲間だけではない。
最上階の観覧席から天陽が見下ろしていた。
(まだね。
奴の本気は追い込まれてから……。まだこの程度は遊びの境地。
咄嗟の爆発が黒鬼の恐ろしい所……。今も、昔も。)
勢い付いた八雲は、その調子でどんどん勝ち進む。
100人いた参加者は負け抜けて脱落し、残りは10人も満たない数になっていた。
勿論、肝心の珠や天陽も漏れず勝ち残っていた。
珠以外は確認程度にしか見ていなかった金斬だが、今は八雲にも目を向けていた。
元々、黒い鬼という種族はなく、人間と鬼の交配でごく稀に生まれた事例しかない。なので珍しいと思うのも不思議ではない。
「大分勝ち進んでますね。あの黒鬼の娘。」
銀雅は微笑みながら、遠くの彼女を見つめる。
「あの娘の事になると、やけに嬉しそうだな。弟よ。」
じろっと見る金斬。
「い、いえ。そんな……!」
そう慌てるが、銀雅の頬は赤かった。
話してると手下の王鬼がやって来た。金斬に耳打ちする。
「何?!あの女、珠姫の姪だと?」
金斬は急に険しい表情になり、顎に手をやって考え込み始めた。
(ならばこの黒鬼の娘も珠と同様『先代の酒呑童子』の血を引く者……。
何よりもこの顔付きと色は『黒の酒呑童子』に、性格の方は……『先代の方』によく似ている。)
「兄上?」
「……実力をもっと見たい。
下劣なアレを呼ぶのは癪だが、『余興』を挟め。」
金斬は側近に命じた。




