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第9話 歌ウジスペリ

 三日月たちの時間が終わった。その熱を持ったまま、次のバンドと入れ替わる。会場の熱は、熱いまま次のバンドが始まろうとしているのに、三日月を呼ぶ声が聞こえ続ける。


「はぁー気持ちよかった!」

「お疲れー」


 三日月にタオルと水を渡すとその場にしゃがみ込む。慌てて僕も屈むとニヤッと笑っている。余程、ご機嫌なのがわかった。


「よかったよ! やっぱり、僕らとは違う熱量だね。すごいなぁ……」

「何をいってらっしゃるのか、よくわかりませーん!」

「如月くんたちのほうが、えげつないから!」

「ホント、うちはハコいっぱいだけど、ジスペリは入場規制かかってるってきいたよ?」

「規制というか、日本でフェスに出るのが久しぶりだったっていうので、ヤバいらしいですね。会場だけじゃ入りきらないとかで、巨大モニターを何個か置くって聞いてます」

「ほらー、そーゆーとこ!」


 三日月たちのバンドから、ちょっとした嫌味を言われながら、「後で見に行くよー!」と別れた。僕らが、ステージ裾で、今のバンドを見ている。


「気になる?」

「いや、つっきーたちのときより、少し冷めたなって思って」

「そりゃ、多少は冷めてもらわないと。俺らはバンドで、国内牽引してるって言われてる側なんだから。まぁ、次はコイツらなんだろうけどさ?」


「いい音出してる」とバンドマンらしい評価をしている三日月は、少し嬉しそうだ。


「そういうや、歌蟲とコラボだっけ?」

「そう」

「アイツらはアイツらでやべぇーからなぁ。喰われるなよ?」

「パワフルだよね。四人とも」


 そろそろ終わりも近づいているのか、少し客席の様子が変わってくる。歌ウ蟲ケラのタオルを持ってる人が目立つようになってきた。


「次に期待してるって、ステージから見てわかると、一気に萎えるよな。そこで、その気持ちに飲まれたら、飛躍はしないけど……このバンドは大丈夫そうだな」

「なんで?」

「みんな、自分らの音に自信があるんだ。歌蟲の客まで取って食ってやろうってな。そういうヤツらは、必ず、注目を浴びる。ほら、歌蟲のファンが……」

「なるほどね! じゃあ、こっちの会場を僕らがジャックしてもいいってことだよね?」


 満面の笑顔で三日月に笑いかける。すると、「にゃろう!」と小突かれた。


「楽しみにしてるわ。とりあえず、着替えてくる」


 そう言葉を残して、メンバーたちがいるであろう楽屋へ三日月は去っていった。


「何話してたの?」

「このバンドが、次、来るだろうって」

「どうして?」

「歌蟲の客を食ってるって、つっきーは言ってた」

「三日月さんがぁ?」


 話に、割って入ってきたので振り返ると、美桜が満面の笑みで僕らを見下ろしていた。迫力あるその笑顔は、今ステージにいるバンド以上のパフォーマンスをする自信があると物語っている。


「はい。次ですね?」

「そうだね! ヒナくんもミナくんも、準備は良さそうだね?」

「もちろん! ミオタさん、よろしく!」

「他のメンバーにも言ってやって。喜ぶから」


 前のバンドが終わったようだ。僕らはステージ裾で、歌蟲の四人がステージに向かうところをハイタッチで見送った。パンパンと小気味よく僕らの手にハイタッチしていく歌蟲のメンバーたち。誰もがステージで、輝くことに疑う余地がないと自信に満ち、彼彼女たちがステージに立っただけで、会場のざわめきが一瞬で空気が変わる。

 僕らへの黄色い歓声ではなく、独特な応援に僕はゴクリと唾を飲み込んだ。


「湊」

「何?」

「さっき、三日月さんに何か言ってたよね?」

「んー、そうだね。聞こえてた?」

「いや、何言ったの? 三日月さん笑ってたから」

「僕らがこの会場をジャックしてもいいかって」

「……すごい自信」

「これを見ると流石に無理って思うけど、僕らにだってプライドはあるよ? 世界一位としてのね?」


 歌蟲のパフォーマンスが上がれば、客のボルテージは止まることを知らない。もう、誰も止めることはできないだろう。


「これで、トリじゃないとか嘘だよね?」


 陽翔が呟いたとき、美桜と目が合う。そろそろ、僕らの出番なんだろう。


「ヒナ、行くぞ!」


 声をかけ拳を出すとコツンと当てる。僕らの準備は万端だ。


「ここで、スペシャルなゲストを紹介するよー! 知らない人はいないかなぁ?」

「ミオタが好きすぎるもんね?」

「あぁ……ね?」


 唯は嬉しそうに、律はおもしろそうに、梓は若干引きながら、美桜を見ていた。


「えっ? そんなに?」


 わざとらしく美桜が、ソワソワしているのが見えた。すかさず、律がドラムを叩く。会場は、「誰が来るの?」とファンが騒ぎ出す。


 ダダダダ、ダンッ!


 会場が静かになった瞬間、美桜が僕らを呼んでくれた。


「ジストペリドのミナくんとヒナくんだよー!」


 会場が一気に歓声に変わった。僕らの名を言ってもらっただけで。それだけで、僕らが今、どんな位置で活動をしているのかわかる。まったくジャンルの違うこの会場でだ。


「うっわ……俺らよりすごくない?」

「これは、ちょっと、ムカつくなぁ?」

「えっ? そうですか?」


 梓と唯がこちらを睨むので、ニコッと笑って驚きと声援をくれる会場を見た。


「どうも、こんばんは! ジストペリドの如月湊と」

「ヒナトです! 歌蟲さんの会場ジャックに来ましたー!」

「おい、こら、調子乗るなよ?」

「アズさん、本気声、こわいっす!」


 会場は笑いに包まれていく。「まぁまぁ」と唯が間に入り、「ミオタも何か言えば?」と話を振ると、キラキラした目で、陽翔に近寄っていく。

 お決まりのであるが、今日は、みんなが変なテンションだ。


「……ヒナくん、私を抱いて!」


 抱きつこうとする美桜との間に僕はするっと入って、通せんぼをする。


「あぁ、いつものね? 湊くん、いつもうちのがごめんね?」

「いえ、引き取っていただけると嬉しいです!」


 ニコニコと笑いながら、唯に「早く引き取って?」とにらみを利かせば、苦笑いをしながら、美桜の首根っこを引っ掴まえて連れて行った。


「さぁ、仕切り直し! ミオタ、しっかりしろ?」

「……はいはい。じゃあ、みんなも知っての通り、ジスペリに楽曲提供をしているんだけど、今日は『愛愛』を私らと一緒に歌ってもらいます! そのあと、ジスペリが選ぶ歌蟲の楽曲を1曲披露してもらいますよー!」


 そのときのファンの声には驚かされる。僕らとのコラボはどうやら、受け入れてもらえそうだ。


「じゃあ、いくよー! 『愛されるより愛したいなんて言って貰えると思うな!』」


 いつも聞いているサウンドとは違い、体の芯から震えるように音が駆け巡っていく。


 ……すごいなぁ。この音。僕らが歌う同じタイトルなのに、全くの別物だ。


 負けじと声を出しても、彼彼女らのパワフルさには敵いそうにない。


 だからと言って、喰われるわけにもいかない。ここは、いわば、歌蟲のホームであって、僕らはアウェイ。圧倒的なファンの違いもあるが、僕らも応援してくれる敵陣営で、仕掛けた。


「ミナくん、めっちゃ、トバすなぁ?」


『愛愛』の間奏に似つかわしくない唯の言葉にスイッチが入ったのは、僕らだけではない。歌蟲が間奏の間に各自の楽器のソロをぶっ込んできた。

 さすがすぎて、笑えてくる。

 1番始めに律が一際大きくドラムを叩けば、ソロタイムの始まりだった。

 さらに歓声は大きくなる。

 梓のベースが続き、美桜のギターが響く。最後に唯が、これでどうだ! っと、ハイトーンバトルに陽翔を引っ張りだす。準備をしてたようで、二人が綺麗にはもっていく。


 あっ、僕なんもないや。


 律の方に視線を送れば、頷いてくれ主旋律へと戻る。

 瞬間のアカペラに、声が震えそうだ。尖りまくっていたステージから熱を一身に集めた。

 そのまま、歌蟲のメジャーデビュー曲へ移行していく手筈だったのに、僕一人、アカペラで歌う羽目になったのは……、どうしてだったのかわからなかった。


「ミナくん、歌、超ヤバイね?」

「なんで、僕、アカペラだったんですか? そこ、笑ってるけど、ヒナは入ってこいよ?」

「アイドル舐めてた」

「ヒドっ! 僕、一人だと売上ランキング低いけど、歌には定評が!」

「あーはいはい、そろそろステージ降りてってスタッフさんが言ってるから」


 歌蟲のステージで、暴れ回った僕らはそのまま、僕らの宣伝もして先にステージからはけた。


「今日もありがとう!」

「愛してるよー!」


 四人もステージから降りる。会場の熱は、始まりよりもさらに熱く、ジスペリと歌蟲のコールが聞こえてきた。

最後まで読んでいただきありがとうございます!

よかったよと思っていただけた読者様。

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