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第1話 ちゃんとアイドルしておいてよかっただろ?

 飛行機の中、僕は陽翔に寄りかかって眠っていた。ビジネスクラスのシートは、大人二人で並ぶとかなり窮屈なのだが、幸せな時間でもあった。

 アメリカからのツアー帰り。太陽が昇ってきたのか、顔にチラチラと当たる。


「……眩しい。ヒナ、閉めて……」

「……み……やれ……よ」


 まだ、眠い陽翔はピクリとも動かず、僕は渋々太陽光をシャットアウトした。暗くなったところで、また、微睡む。


 デビューして数ヶ月後、僕らはセルフカバーのアルバムと新曲を引っ提げて世界へ出た。国内と海外同時デビューをしていたので、そのままツアーに行ったのだ。正直言って、底辺アイドルと言われ続けた僕は、海外へ出るのが怖かった。見向きもされないんじゃないか……という不安から、一時期不眠になった時期もある。

 タイミングよく、海外へ出る直前、コンサートをこなしながら詰め込んだ映画の上映が始まり、セルフカバーした主題歌が海外でも瞬く間に広がっていき、爆発的に売れた。

 世界をとった社長がプロデュースするアイドルとして、映画のキャストや主題歌を歌うグループとして、知名度を上げたおかげで、海外のコンサート会場も熱の籠ったひとときをファンと過ごすことができた。


 おかげさまで、僕らジストペリドは世界中から愛されるアイドルとなった。国内だけでなく、海外でも引っ張りだことなり、今に至る。


 アイドルの傍ら、僕と陽翔もそれぞれ一人で仕事をすることもある。例えば、僕は高校卒業後、芸能界一本に絞った。映画やドラマに出たり、今年は主演男優賞ももらったり、いい作品、監督、演者、スタッフに囲まれながら俳優業にも足を突っ込んで順調だ。

 陽翔は高校を特進のまま卒業し、今は有名大学の法学部在籍。学業に忙しい傍ら、バラエティや教育テレビ、たまに舞台に出たりしている。最近では、セルフプロデュースなんて興味が出てきたようで、そちらにも手を伸ばしているようだ。

 それぞれの交友関係も広くなり、会わない日も増えていった。


 海外での撮影や収録舞台もある今、会えない日が多くなるのは当たり前。活動拠点は日本でも、別々の場所で戦うと決めた日に、僕らは高校を卒業する前には同棲することにした。陽翔の父である『高坂弥生』も、陽翔と生活していたマンションを引き払い社長のマンションで暮らしている。


 あっ、ちなみに、僕らも付き合って……そろそろ3年になる。まさか、僕が陽翔と付き合うことになるとは、思ってもみなかった。下世話な話は、今は置いておこう。


「湊? 陽翔くん、そろそろ……って、また、そんな狭いところで」


 もはや見慣れた光景だと、小園は僕が陽翔に抱きついて眠っていたことに何も言わない。秘密にしていたお付き合いは、同棲してまもなく、小園にバレた。

 当たり前だろう。毎朝、迎えにくるわけだし、僕のマンションの生体認証も登録済なんだから。寝坊した朝に一緒に寝ているところを突撃されたのだ。

 小園は、陽翔になら、まだ、遠慮という言葉があるらしいが、僕は弟みたいなものなので、そういうのがないらしい。寝室を突撃……されても、文句は言えない。社長を交えて、今後の話もしたが、すでに僕らはBL展開だの付き合ってるだの言われすぎている上に、ファンからも軽いノリを推されることもあるので、今まで通りで構わないと言われた。本当に付き合っているのかということは、秘密としている。まだ、世間ではいいように言われないハンデになると釘は打たれた。

 そんなこんなでも、僕らのお付き合いは順調に進んでいる。


「……小園さん、おはよ……」


 起き上がると、ぼうっとしたまま小園を見上げ、大きなあくびをする。時差ボケ解消とまではいかないが、空港に降り立ったら、僕らは世界をときめかすアイドルだ。

 あと1時間ほどで、空港に着くから降りる準備が必要で、眠いと駄々を捏ねているわけにはいかない。


「ヒナ……起きて。もう、降りる準備」

「まだ、眠い。湊……」


 シャツの中に手を這わせようとする陽翔。パシんと叩き、席から立つ。忘れていたと、個室に体半分戻して、陽翔にキスをする。それが陽翔の起きないといけない目覚まし時計の変わりらしく、重い瞼を開いた。


「……湊」


 首に腕を回して、僕を引き寄せる。もっととせがむ陽翔は完全に寝ぼけているのだろう。要求に応えて、僕は自分の席へ戻った。そのやり取りを一部始終見ていた小園は伏せ目がちに首を横に振り呆れていた。


「……ほどほどにしておかないと」

「すっぱぬかれるって? 別にかまいませんよ。アイドルとして、充分な密度を過ごしましたから」

「湊はそういうけど、まだまだこれからだろう? 危機管理だけはしっかりな? 二人とも、脇が甘いから」


 苦笑いで応えると、大きなため息とともに、小園も席へ戻った。空港へ到着してからも、小園はクルマの手配や空港での移動手配などに忙しい。朝が早い時間であれど、僕らのファンはどこにでもいるので、不手際なく移動できるように整えてくれている出来たマネージャーだ。


 仕切られた空間に戻る。この場にいるのは、僕らだけではあるが、カーテンを閉めて着替えた。寝起きのままだったので、洗面室に入り顔を洗って戻ってくると、まだ、グズグズとしている陽翔を急かす。


「ほら、顔洗ってきて」


 タオルを渡すと、のそのそと陽翔は歩いていく。その後ろを見て苦笑いをした。


 だんだん、ダメな大人になっていってないか?


 生活面が緩めの陽翔。特に朝は弱くダメダメだ。同棲が始まってから、甘やかしているせいか、加速しているように感じた。


 顔を洗って目が覚めたのか、「湊、おはよ。今日も可愛いね?」なんて、ふざけたことを言っている。無視をして、降りる準備のために荷物を片す。洗っただけの陽翔の、顔が気になり手招きをした。


「何? さっきは、無視したのに」

「いいから座れ」

「何? チューしてくれるの?」


 ふざけ始めたので、化粧水たっぷりのコットンをデコにデーンと貼り付けた。「いてっ」といいながら、落ちないようにコットンを持ち、ふにふにとしていた。そうしていると、幼く見えるが、高校卒業前には身長差は逆転し、陽翔のほうが一回り大きい。


「で?」

「何?」

「朝から、そんなに熱い視線を向けられるとさ?」

「だから、何? ちゃんとケアするか見てただけだけど?」

「湊がしてくれたらいいと思うんだけど?」


 そう言って、僕の頬を撫でてくる。


 ……はぁ、何、ペース乱されてるんだ。もう、言うほど時間はないのに。


「早く準備して。空港から一旦マンションに帰るから」

「帰るから?」

「時差ボケをなんとかしろ!」


 余裕そうな表情をしていた陽翔の腹にグーパンをすれば、「……痛い」とぼやきながら、席に戻った。ゴソゴソとしているので着替えているのだろう。出してあったものを全部片付けた頃には、シートベルトの着用ランプがつく。


「二人とも、ちゃんとしてね?」


 小学生の引率でもしているような温かい声で、小園から注意が飛んできた。

「「はぁーい」」と返事をすれば、飛行機は日本に到着した。


「手荷物は自分で持って、早く出て。この後、他の乗客も降りるから、邪魔になるよ!」


 小園の言いつけを守る20歳と19歳の僕らは、「はい、こっち!」の声に引きずられるように歩く。手を繋ぎながら、久しぶりの日本の朝が嬉しくなった。


 ゲートを出れば、まだ、早朝だというのに百人ほどのファンが詰めていた。毎回、海外帰りには、待っていてくれる彼彼女たちには感服される。


「湊! フェス楽しみにしてるから!」

「ヒナ、こっち見て!」


 朝の静かな空港は、この当たりだけがとても騒がしい。僕らはファンに手を振りながら、用意されたクルマへと乗り込んだ。


「まだ、朝早いのにすごい熱量」

「ちゃんとアイドルしておいてよかっただろ?」

「俺が天下のアイドル湊様に逆らったことある?」

「逆らってばっかじゃん……」


「そうだった?」と言いながら、こちらに体を寄せてくる陽翔。頬から首筋を撫でられ、顔は真っ赤だろう。

 スモッグの貼られているクルマは外からは見えにくい。とは言え、朝からイチャコラと後部座席でされれば、小園以外のスタッフはいたたまれなかっただろう。


「みーなーとー!」

「僕! どう考えても、ヒナの悪ふざけだから!」

「湊が止まればいいだけだろ!」

「そうだけど、そうなんだけど!」


 陽翔を睨むとニンマリしているだけで、反省の色はない。太ももをバンっと叩いて、離れた。


「今日のスケジュールは?」

「あぁ、それな。帰ってきて早々で悪いんだが、結構詰まってる」

「雑誌のインタビューが3件とフェスの……」

「俺、そのフェスすげぇー楽しみにしてたやつ!」

「あぁ、歌ウさん出るんだっけ?」

「そうそう、ミオタニアン!」


 僕は『ミオタニアン』の単語にムッとする。それ以上は何も言わず、ご機嫌な陽翔がコラボ曲を歌い始まる。途中、「歌わない?」と聞いてきたが、眠いからと狸寝入りをすることにした。

最後まで読んでいただきありがとうございます!

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