表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

だから俺たち手品部では

作者:

「新歓の部活紹介では、『オリーブの首飾り』は流さない方がいいと思う」

部室でのミーティング中、俺が思い切ってそう言うと、部長の渋川は眉を顰めた。

「何でそんなこと言うんだ。例年通りでいいだろう」

「だって、あの曲もかなり使い古されてるし、ダサいじゃん。ちょっとギャグみたいな空気になるし……」

「何言ってる、あれはもはや古典だ。不朽の名作だろう」

「部長の言う通りっすよ、副部長」

二年の相川が、片手でクルクルとコインを弄びながら割り込んできた。

「俺はあの曲、好きっすよ」

「いや皆ちゃんと考えてくれよ。分かってるとは思うけど、このまま俺たちが卒業したらこの部は廃部になる。規定の人数を割っちゃうんだよ。それを防ぐためには、最低三人部員を獲得しないとダメなんだ。つまり、新歓で新入生の心を掴むことが是が非でも必要なんだよ」

「部活紹介って、去年と同じっすか? 音楽流しながら、一年の奴らの前で実演する感じの?」

「そうだ。我が部では例年『オリーブの首飾り』を流している。もはや伝統だ」

「だけどさぁ、アレはちょっと、いやかなりダサいって」

「そうは言うけどね」

同じく三年の由良が、含みを持たせて言った。真っ白い鳩のテンコー(♀)を膝に乗せて撫でている。

「由良、黙って聞いてくれよ。相川、高校デビューしようと必死こいてる中坊が、部活に求めるものって何だと思う?」

「うーん。やっぱモテ要素っすかね?」

「その通りだよ相川。カッコいいと感じないと野郎は入らない。それに俺たちがカッコよく見えれば、女子部員の入部だって夢じゃないかもしれない」

「それは難しいっすよぉ、俺たちっすよ?」

「うるさいぞ相川! とにかく、もっとカッコよくてオシャレなイメージを演出することが大事だと思うんだよ。そこであの曲。もうダサいだろ、さすがにさぁ……」

「そんなことないよね、テンコー?」

由良の嫌味な言い方にイラッとする。

「いやダサいって」

「じゃあ聞くけど、あの曲じゃなかったら、なんの曲を使うわけ? まさか代替案が無いなんてことないよね?」

由良に痛いところを突かれて俺は言い淀んだ。

「それは……みんなで相談して決めたい」

「いい曲が見つからないんじゃないかい? いや実際、あれくらいいい曲は無いよ」

「テレレレレレ〜」

相川が歌い出す。

「テレレレレレーレレ〜」

同じく二年の正村が応じた。由良は二人の歌うメロディに心地よさそうに目を閉じた。

「この何とも言えない心地良いテンポ、少しずつ高まっていく期待と高揚感、そして……」

「テレレレレレーレレーレレーレレーレレーレレ〜」

「ジャージャン!!!」

「この間!! ここでこの曲の緊張感が極限に達し、その後突然緩和する。聴いてる人間はここでついつい惹き込まれてしまう。僕たちだって、このメロディとぴったりキマった瞬間なんて、最高に気持ちいいじゃないか! 僕たちのためにあるような曲だよ」

「いや、そうなのかなぁ。俺的にはそんなに合ってるとも思えないと言うか……。そもそも俺らの部って実演いる? 何してるのか皆分かってんのかな?」

「何言ってるんだよ。実演しないと魅力が伝わらないじゃないか」

「うーん」

由良との議論に部長が終止符を打った。

「言いたいことは分かった。しかしあまり時間もないし、今回は例年通り『オリーブの首飾り』を使おう。この話は終わりだ。また何かいい案があれば提案してくれ。新歓が駄目でも、地道に勧誘すればきっと大丈夫だ」

「俺も部長の意見に賛成っす! 新歓はこれで頑張りましょ!」

「よし、今日のミーティングは終わりだ。解散!」

部長の一声で皆わらわらと部室を後にして、俺一人がとり残された。

「あーー!!」

机に肘をついて頭を掻き毟った。何故みんな分からないんだ。もっと客観的に考えてくれ。だってどう考えてもシュールすきるだろ。『オリーブの首飾り』を流しながら皆の前でーー

「副部長」

顔をあげると、正村がドアからひょっこり顔を覗かせている。

「どうした、正村」

「僕は副部長の案に賛成でしたよ」

「やっぱそうかぁ!?」

俺は思わず大きな声を上げた。 

「はい、僕もあの曲は好きですけど、ちょっとダサいのがネックですよね」

「いや、つーかさ、そもそもBGMいるのかな? 本番では使わないんだし」

「それはいるんじゃないですか? やっぱり音楽は演出として大事ですし。あ、僕このあとバイトなんでもう帰りますね。お先です」

頭を下げた正村が、またひょっこりドアから消えて行った。

「チッ」

俺は思わず舌打ちして椅子に倒れ込んだ。机の上に置いてあった王将をデコピンする。


「いやだからさぁ、俺たち手品部では無いんだよなぁ!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 将棋部で、オリーブの首飾りは似合わないかもしれませんね…。 面白かったです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ