そんなところで
五階建の五階に住んでいた頃、ベランダの柵は柵だったのと、高さもあって高層の建物が当時は他になく、とても見晴らしがよかった。
たまに上昇気流に乗ってアシナガバチがやってくる事故があったりはしたけど。
棹の端のキャップがなくなっているところから中に入っていったのを見たことを母に伝えたら、ガムテープで塞いでいたのを目撃したりとかの事故もあったような気がする。事故なのかそれは。
とにかく(話をそらす)、日当たりはよく高さが同じならそれほど目隠しもない状態の環境であったことが前提にある。
そして母はベランダ菜園が得意であった。
いちごだけは食べ頃を迎えるとトリさんに先を越され続けたが。しくしく。
そのように暮らしていると当然ながら、欠けたり何も植えない植木鉢なんかが出てくる。それらはベランダの片隅に、伏せて置かれていたのだが。
ある日、洗濯物を干しにベランダへ出ると、なにやら声が聞こえる?
よくよく聴いてみるとチュンチュンいってませんか……? 植木鉢の方から……。
おそるおそる覗いてみると、はたしてそこには雀の巣と雛が。
まじかて。いつの間に……。毎日鉢植えの水やりをしにベランダへ出ていたのに、全然気づかんかったなあ。
「ホントはよくないというんだけどねー」と、米をちょこっとベランダに置いておいたり、食パンを少しだけ置いておいたり。
次に見るときにはなくなっていたから、親鳥が食べていたのではなかろうか。
そして、毎度のことながら気づいてしまうのだ、わたしが。
「なんかさあ、最近この辺に鳩いない?」
「えー、五階だよ」
「いや、来るだろ五階くらい。この前表の階段のところに鳩避けついたじゃん」
「なんかこっち見てるんだよねえ……」
そして、さらに気づいてしまうのだ。
「向こうの電線でからすがこっち見てるんだけど……」
絶対バレている、雀の巣の存在。
ところで、からすはどちらを狙っているのか。雀? 鳩?
さて、どうするか。下手に巣に手を出すわけにもいかないし。
とりあえず覗いてみるか。米とかあげてはいたけれど、あれ以来中は見ていないし。
「あれ。」
もぬけの殻だった。
雀の巣立ちって、早いんだねえ……。
瞬間、見てみたかったねえ……。
おそらく、我々が雀の巣に気づいた時点でそこそこ育っていたのだろう。
鳩やからすは巣立ちの子雀を狙っていたのかもしれない。巣を狙うには、出入口が彼らにとっては小さかったからね。
翌年の春前には、すべての使っていない植木鉢が処分されたのであった。
「可愛かったけど、やっぱりよくないわ。(上から)丸見えだし」




