レース鳩
中学生くらいの頃のことだから、もう三十年以上前の話になる。
ある日の夕方ベランダで、なにやら謎の物音がする。見てみると、鳩がうずくまっていた。なぜ。
誰もトリさんを持った経験がなくて、持ち方がわからない。そもそも触って大丈夫なのかこれ。
誰かがきょうだいの友達に助けを求めた。誰がなぜあの人に白羽の矢を立てた。
助かったのは確かだけど、今思うとよく来てくれたよな。優しい人なのは知っている。
その人、あっさりと鳩の身柄を確保。足輪がついていて、どうもレース鳩っぽい。はぐれちゃったのかあ、可哀想に。それだけではなく、どこをどう怪我したのか、飛べなくなっていた。
何かの本で見たことがある。レースやセレモニーなんかで飛ばす鳩、あれは帰巣本能を利用したものだから一方通行である。物語に出てくる、どこへでも行ってくれる(というか往復してくれる)便利な伝書鳩は無理。
そして、群れる習性もあるためか、出発点に各地から集められた鳩のグループにカリスマ性の高い個体がいると、うっかりついて行ってしまうものがあらわれる。
迷子の発生だ。
いくら帰巣本能があるといっても、距離が距離だけに方向感覚が狂ったら終わりである。猛禽類やカラスなんかに襲われてしまう個体も多い。思っているより過酷なのである、鳩レース。
そしてこのように迷子になった鳩は、いくら帰ってきてもその後のレースには使えない。またどっか行っちゃうから。
残酷物語やん。
放した鳩のどれくらいの割合が無事に帰れるかも載っていたはずなのだが、そこを覚えていないわたしのあたま。記憶領域仕事してください。
足輪から飼主を特定、連絡をするも案の定「もうそれはいらないから、そっちで処分して」と言われてガチギレしたきょうだいの友達。
「生き物を他人に処分させようとか、何考えてんだ貴様ーーー!!」
その後、宅急便の営業所に問い合わせて、諸々の問題をどうやったのかクリアしたらしく、箱入り鳩は飛行機に乗って帰宅していったそうな。
あれ、生体送れないんでなかったっけ? どうやったんだろう?
当時も今も謎のままではあるが、対応してくださった会社には感謝しかない。
わたしはこのとき塾があったから、きょうだいの友達がガチギレしたところまでしか知らなかったのだ(時間切れ
「鳩どうなった?」
「帰ったよー」
「ふーん」
帰宅後の会話はこれで終わってしまったのだが、最近知ったことがある。
「あの鳩、一万円くらい払ったんだよね」
飛行機代?!
あの頃の一万円……今だといくらくらいだろうね……同じとは思えないね……。
しかも、寿命を全うできたとは思えないし、最悪帰宅までに力尽きている。
あの鳩、今だったらどうしてたのかな。そんなことを考えたのであった。
今は今で鳥インフルを警戒して持てないよなあ。
うーむ。




