君は忘却の彼方
「やっちまったぁー」しか出てこない。近頃のゆるみ具合が我ながらひどすぎる。
あんなに原材料を気にして生きているのに、すっぽり抜け落ちることがある。
うどん・そば店を中心とした外食チェーン「杵屋」が母体の蕎麦屋ブランド「おらが蕎麦」。ここのかけそばはハラが無事な貴重な外食選択肢。乗継駅にあるのしか知らないこともあり、年に片手で数える指が余る程度しか入らない。
母体の杵屋は最後に行ったのがいつだったか思い出せない。この体になる前なのはたしかなのだが。
この日は午後いちで待ち合わせがあったので、少し早めに家を出て蕎麦屋へ寄ることに。
いつもは悩むことはなく、これまで引っ掛かったことのない「ちくわ天そば」を頼む。縦半分に切ったちくわを揚げた磯辺天が、二本(ちくわ一本分)乗っているかけそばである。だが、実は毎回どうしても気になっていたものがあったのだ。
「昆布そば」である。
あと、とり天。
つい出来心で頼んでしまった、昆布そば。トッピングにちくわ天ハーフ(ちくわ二分の一本分)ととり天をつける。
我ながら欲望に忠実であった。
昆布そばはとてもおいしくいただいた。久しぶりのとろろ昆布である。じっくり堪能した。
しかし、食べ終わった、そこで気づいてしまったのが運のつきともいう。
とろろ昆布の原材料って、なんだっけ。
どうしてとろろ昆布が久しぶりだったのか、すっかり忘れていたのだ。もともと買っていたメーカーのものは大丈夫だったのだが(本能?)、ものによっては還元水飴が使われていることを。
ここで使われているとろろ昆布は、大丈夫なのだろうか。堪能するだけしておいて、今さら何を言っているのだろうか、わたしは。
謎の大混乱である。
救いは、異性化糖のダメージが出るのは当日ではないところ。人と会っている途中でトイレの住人になるのは、できるだけ避けたい。
とり天はおそらくシロ。麺つゆにひたして食べるか丼になる(タレがかかる)ことが前提だからか、下味はとても薄く、異性化糖はいない可能性が高い。この店の使う天ぷら粉には乳がいないのもポイントが高い。
とはいえ、表示義務のないアレルゲンにはたまにダマされるから断言するのは危険であるが。
そうなると、もう乳と牛さえいなければ! となりがちな思考回路であるが、ダメな米は二四時間以内に出てくることを忘れてはいけない。正直、この現実にはかなり参っている。いくら軽症でも。
戦々恐々としながら、予定していたことが終わったあとに「お茶でもいこー」と入ったデニーズで、皆がめいめいにスイーツを頼みだしたのに触発されてフライドポテトを食らう。
「お外のスイーツはだいたい諦めがつくようになったんだけど……くそう、食いてえ……」
さすがに家でやるような、指を咥えて眺めるアレはやらないが。やっても許される関係なのだが、さすがに飲食店内では仲間内だけのことではすまないから、笑い話にしないとやってられない。
一応、事前にアレルゲン情報は確認した。乳と牛さえいなければと思いながら。
注文用にテーブルごとにタブレットがあるくせに、アレルゲン情報はQRコードを読めという不親切さ。仕方がないのでスマホで読み込んでサイトへ飛べば、今度はPDFファイルをダウンロードさせられる。
不親切だ。
タブレットを手に取ったはずなのにスマホをいじりだすわたしに周囲が困惑するが、不親切さを訴えたら納得された。あれか。ひとりがタブレットを独占しないためなのか。たぶん違うだろうな。
しかし、デニーズのフライドポテトは食べられることが判明したので、ちょこっとだけ目をつぶっておこうと思う。
ちょこっとだけ。
どうやら、大丈夫だった模様。
周囲がスイーツを食べるなかひとりだけフライドポテトをつまんでいたことから、隣のテーブルにいた練習帰りの野球少年グループがこちらをガン見していたのは見なかったことにしておいた。
すまん。




