意思疎通、困難
例によって例の激安スーパー。
野菜屋さんでは重量に敗けていろいろ買えずに敗退。
ひと抱えある白菜なんか買ったら他のもの買えない。
……欲しかったけど。
めげずに魚屋さんを徘徊してたら、いたよ、はじめましての魚が。
かじか。川のコでなくて、海のコの方の、あんこうみたいな感じの魚。
オススメは鍋か唐揚げとなっていたけど、この時点で白菜を諦めて不貞腐れてるから(大人げない)これはもう唐揚げ一択ということで。
とりあえず、よくわかんないながら頼んでみた。
「あそこにあるかじかさんをね、初めての魚で食べたことがなくて、オススメにあった唐揚げをしてみたいから、一尾を、三枚におろしてもらえますか」
「三枚にしたら、食べるとこなくなるよ?」
なんですと?!
「え、それは困る」
「頭とったらこれくらいしか残んないから」
「いやそれはいいんだけど」
食いでがないってだけだし、そこは別に。
鯵だって可食率四五パーセントだ。わたしが捌いたら三十パーセントくらいになりそうだけど。
「どうやって食べるつもりなの」
人の話を聞けやコラ。
は、理性を総動員させてこらえる(決して大袈裟ではない
依頼冒頭で言ったよね。唐揚げしてみたいって、言ったよね。最初に依頼かけた売場のおねーさんからも聞いてたよね。
マスクをしていてよかった。していてもバレていたかもしれないけど、していなかったらほぼ間違いなく表情でケンカを売ってしまう。
帽子、眼鏡、マスクだいじ。不審者か。
「鍋の予定がないから、唐揚げをしてみるつもりでいて」
「じゃあ、二枚にしてぶつ切りにしとくわ」
「そのようにお願いします」
「皮はどうする?」
「どうするのが一般的なんです?」
「ん~、好みだねえ」
……どうしろと?
なんだかビミョーに、噛み合ってないような気がするな。
「んーだったら、初めてだからそのままで!」
「食べにくいかもよ? 気になる人は気にするし」
わたし、さっきからなんの話をしているの?
「まあ、なんとかなる。たぶん」
身はやわらかそうだし気になるなら食べながら外せるはず(と思う
初めてだから、食ってみないことには可不可がわからない。
妙に意思疎通ができていない、すっきりしない気分のまま依頼は完遂された。
おかしい。コントをやりに来たわけではないはずだ。
捌いてくれる魚屋さんはいつもの人だ。いつもはこんな苦労しない。
――まさか、中の人が違う?
「……まさかね」
と、思ったんだけど。
本気で中の人が違う説を採りたくなった。帰宅して開封したら、ぶつ切り、でかい。こんなところで成長するな。
いやいいんだけどさ、ぶつ切りだし。
結局、鍋にしろってことなのか?
計量してみたら一キロ近かったから、丸まま持ってきてたら一.五キロくらいあったかも(頭が大きい
やっぱり自分で捌いてみるべきだったのかなあ。げんげを思い出す表面のぬめり具合だったから、怯んだのがなあ。
さすがに全部唐揚げにするのもあれなので、主にお腹側を根菜たっぷりのかじか汁にした。なんでかヒレ入ってたし。いい出汁でた。
汁物で平気だったから、皮は引かなくてよさそう。
残りは唐揚げ用に味付けして冷凍庫へ。一食分は実家に行くときの惣菜にしよう。
こんなんだったら出汁とり用に頭の部分ももらってきとくんだったね。冷凍庫入らないけど。
あれだけ唐揚げ連呼しといて、唐揚げ食べてないぞ。
果物屋さんでは、成人の頭より大きな晩白柚(ばんぺいゆ)売ってたよ。
その向こうにあったすいかが小さく見えた。あっちが小さいのか。




