レース編み
年末にほど近い時期。毎年、とあるイベントを理由に高校時代の部活OG同期のごく一部がすこ~しだけ集まる。
子どもが成人済みなのはうちくらいなもので、イベント終了後にお茶でも~、とかは時間的にきびしい。事前に食事でもということで、早めの集合。
イベント内容とは関係のない高校時代の思い出で盛り上がる。
家庭科の手芸枠でなんかよくわからないレース編んだよね、という話題の登場で、わたしの奇行が暴露されることに。
本人も忘れてたのに、話してたらすっかり思い出しちゃったよ。
なんかよくわからないレースこと、クンストレース。それはドイツを主として広まった棒針編みレースのひとつ。正確にはクンストストリッケンといわれ、ドイツ語から直訳すると「芸術編み」という意味を示す。
出来上がるととっても綺麗なんだけどね、中心から外側に向けてひたすら目を増やしながら編んでいくスタイルだから、ある程度軌道に乗るまでがしんどい。針がすぐ抜け落ちるのだ。
棒針を四本使って編む手法、径が小さいうちは本当に編みにくい。初めて編み物をする人が多いだろう環境でこんなもんチョイスするとはどーいうこっちゃ。
ところが。
わりと小さなモチーフだったのと(授業で使うんだから、そりゃそうだ)、棒針編みは中学生の頃からしていたから、使うのが〇号針(直径二.一ミリ)で持ちにくい点を除けば抵抗がなく。
全何回の予定だったかは覚えてないが、一度の授業は二限続き。ひとりだけ初日の三十分くらいで完成してしまう。あれ?
教科担任、憮然。「あと○回あるのに」
わたしも、困惑。「でも、できちゃったんだけど」
編み物に苦戦する女子高生を眺めてニヤニヤしたかったんかな、という印象はあった。毎年同じことしてるとか言ってたし。
しばしのあいだ、できたものの間違い探しされたし(残念ながらなかったので、不満そうな顔をされた。しらんがな)。
さて、どうしよう。もうすることがないぞ。
内職(笑)したくても、この状況では難しい。
考えあぐねてぼんやりしていたら、方々から呼ばれる。うまくいかないから助けてくれと。
先生に言うと嫌味を言われるみたいだしな、そりゃこっちにくるだろう。
助けを求める声が多すぎて捌ききれなくなった教科担任公認で、サポートにまわる。それが他のクラスにも伝わり(たぶん部員ネットワーク)、授業の合間や部活後も常に誰かにレース糸とともにつかまる日々が始まる。
先生より呼ばれてないか、もしかして。
落ちた目を拾って修正したり、間違えに気づいた部分まで目を落とさずに戻ったり。手品師ではない。慣れてるだけで。
編み物に関して、わたしは糸を締めて編む癖がある。自分の作品はそのまま提出したから、本来のサイズよりふたまわりくらい小さな出来になっていたはずだ。
他の人のサポートでは、それを表さないように注意を払った。
ごく一部、完全に投げちゃった人がいて代理でぜんぶ編んじゃったりとかして(不正だーー)。
あれ、もしかするとバレてたかもしれないなあ。投げ出す前に見てたその人の癖は把握してたつもりだけど。再現できてたかはあやしい。そんな器用じゃないし。むしろ不器用。
そんな感じで数週間後。すべて終わったら自分の編み針、クロバーの金属針なのに曲がってた。あれ頑丈なのに。どんだけ力強く握ってんだよわたし。
そんだけ握りしめてりゃ、糸も締まるわけだよなあ。これは未だになおらない。握力とは関係ない……と思う。たぶん。
クンストレース自体はすきだから、今でもときどき編んでいる。
憧れていたニットプロの木製の針を、買うなり三本くらい手の中で折ってしまったため、以降は金属針のみにしている……。ぜんぶ曲がってるけど。見なかったことにしよう。
けっこうショックなわけよ、編んでる最中に手の中で小さく「ぽき。」とかいわれるの。迷いに迷ってようやく決意して買ったのに。届いて二日でだめにする女。それがわたし。
編み針って消耗品じゃないと思うの。たぶん。
おかげで付け替え式の輪針に手を出さなくて済んだから、よかったと言えばよかったのかもしれない。
もしかしたら竹製なら……?




