イーストパンケーキ
イーストパンケーキが食べたい、唐突にそう思った。
このところ焼くパンケーキはベーキングパウダーで膨らますものばかりだったからか、気分が乗らなくて自家製酵母を起こしていないからか。
乗らない気分で仕込むと大抵失敗するしね、自家製酵母。だいたいカビる。いくら器具を熱湯消毒しても、煮沸消毒をしても。
ドライイーストは冷凍庫で休眠してもらっている。以前ほど使わないから冷凍庫から出したものをそのまま使うため、溶けきらないことが増えた。真面目に予備発酵させれば溶けるのに。手間を惜しむから。
食べたいイーストパンケーキは、厳密にいえばクランペットだったりする。イギリスのイーストパンケーキで、セルクルという底のないリング型を使ってイースト発酵させた甘味のない生地を焼いたものである。形状としては型に流して焼く分厚いパンケーキを想像してもらえればよい。
ただし、ポツポツと空いた穴の面(通常のパンケーキなら裏側)が表になり、この穴にバターとゴールデンシロップをたっぷり染み込ませていただくスタイル。
ちょっと不思議な見た目である。
焼いているときに漂うのは、まさに「パン」の香り。
イメージ的にはイングリッシュマフィンの粉なし、である。生地はパン生地ではなくどろどろのパンケーキのそれだけれど。
パンケーキとの最大の違いは、たまご不使用なところ。たまごが高級品だった頃の軽食として十九世紀には既にこの形が確立していたというのだから驚きである。
小麦粉、牛乳、塩、酵母というシンプルさ。厚みが生地のもちもち感を生み出している。
以前焼いてみたことはあるのだが、わたしの持っているイングリッシュマフィン型の径は大きい。一般的な八センチ径ならフライパンに二つか三つ乗せられるはずなのだが、手元にあるそれは買ったときにお店でそれしかなかった十一センチ径のため、二六センチフライパンでは一つしか乗らないのだ。二つ乗せようとすると側面のカーブで型が持ち上がり、生地が下から流れていってしまう。
厚みがある分、一枚焼くのに一般的なパンケーキより時間がかかることを考えると一度で複数焼きたい。結局、途中で手持ちの型を使うことは諦めた。
で。
普通にパンケーキとして焼いたら、当然「これじゃない」感が出るわけで。味は同じなのに、見た目と気分って本当に大きいものだと実感した。
やっぱり型か。型なのか。
工作(牛乳パックとアルミホイル、オーブンペーパーで作れる)する気が起きないので、クランペットをやめて普通にイーストパンケーキを焼くことにする。こちらはたまご入りだ。
外国の童話に出てくるパンケーキって、実はこちらのイーストパンケーキなんだよな、と。ホットケーキミックスを使わなくなり、いろいろな種類のパンケーキを焼くようになってから気がついた。
どのように酵母を用意していたのかは謎だけれど、材料を壺に合わせてキッチンに置いているあたり、小麦の酵母かなという気がする。日本の季候と違うから、このテの熟成に向いているし。
ずっと謎だったのだ。物語を読んでいて、かまどに火を入れたらおもむろに壺を持ってきてパンケーキを焼き出すのが。ホットケーキミックスで作る生地しか知らなかったから、都度作るものじゃないんかい、と。
キッチンに常にパンケーキの生地が置いてあることの謎は、とても大きく深かった。
時間をかけて発酵させるパン生地を作るのと似ている。たまごがあまり食べられなかった頃のレシピだろうな、たまごを入れたらそんなに置いておけない。
そんなことを思い出しながら、ドライイーストでお手軽に生地を用意する。
便利になったよね、ほんと。
ゴールデンシロップは転化糖。作り方が違うだけで異性化糖と同じもの……。
くえにゅうーーーーーー!!!!!!!




