おかあさんの昔話 2
「かまどで炊いた米の飯が食いたい」
唐突に、母がそんなことを言い出す。
や、ここ賃貸……。
十数年前、旅行に出掛けた先でいただいたごはんがとてもおいしかったらしい。尋ねてみれば、かまどで炊いているとのこと。どこの宿泊施設だそこは(恐らく旅館と思われる
実家では炊飯器ではなく、ガステーブルを購入時にそれ純正品の炊飯鍋を一緒に買って、それでごはんを炊いている。ガステーブルの炊飯モードは、他の鍋を使ったときよりも純正品の方がおいしく炊けるらしい。
だから、ガステーブルの買い換えと炊飯鍋の買い換えは同時。
けっこういいお値段するんだけど、あれ。価格だけのことはあるというわけか。
わたしが実家を出るまでは、無水鍋で炊いていた。わたしよりも年上の鍋である。出たとき、わりとすぐに買ったとのこと。
……あれ、どっかで聞いた話のような?
それでもなにがよくないのか、「最近、ごはんがいいふうに炊けなくて」と嘆いている。先日行ったときは珍しくお焦げが誕生していた。炊き上がりに満足できなくて追加で火にかけたかな。
あるいは、炊飯モードが逝ったか。
そんなことが重なると、どうにも娘時代を思い出すわけで。
かまどに薪くべてごはん炊いてたんだわこの人。
旅先でいただいたごはんの思い出とともによみがえっちゃったのが、冒頭の思いである。
これは相当、おいしいごはんに本気で飢えてるなあ。自作惣菜を持ち込むと以前よりよく食べてくれるのは、そのせいか。
こうなったら集合住宅下の駐車場、空いてるとこ借りてかまど設置する?(吹きさらしでござる
そんな楽しそうなことしたら絶対いたずら入るよな、この敷地に子どもいないけど。むしろ大人がいらんことしに来るパターンで。
いたずらというより盗難のほうが可能性高いか。ごっそりやられそう。
自宅方面でもこのごろ、不燃ごみ(金属)の日にお綺麗な車でごみ置き場に乗り付けた小綺麗なおっさんが、アルミ缶多めのごみ袋を選ってトランクに積んで持ち去ってくの見たし。年末に見たのは荷台の縁に板まで装備した軽トラだった。それ、窃盗。
ガス火鍋炊きのごはんに満足できずに、かまど炊きのごはんが食べたい。
この願い、どうやったら叶えられるのか。
無理いぃぃぃ!!
というわけでわたしは今日も、気を紛らわせるために(親にとって)目先の変わった食材と、わざわざ作らないであろう料理を持ち込むのだ。母が一般的な一人前を食べきれないところまで食事量が減っているのもあって、散歩を兼ねた外食も嫌がるようになってるし。
しかし、それが結果として本来外に出さなきゃいけないご老体(父)を家に閉じ込めてることになってしまっていることにようやく気づいたので、わたしのハラを生け贄に外へ連れ出すことを決意した。
いいんだ、めそめそしてるところは見られないから(時差
それでも自家製惣菜は持っていくけどね。包丁しごとがきついと聞いたし。
わたしが行く日くらいは楽しなよー、と言えば「そんな甘やかさんでも」と返ってくる。
毎日だったら仕事取ってることになるけど、たまにはよくない?




