学生んときの思い出 夜道
学生時代、わたしは一時期原付に乗っていた。
その数年前に自転車に乗っていたところ(ノーヘル)を一時停止違反の車に轢き逃げされていて頭を打っているため、反省も込めてバイクだからと選んだヘルメットは、フルフェイス。半ヘルで乗り回していたきょうだいとは雲泥の差である。
買って帰ったら「大袈裟だ」と嘲笑われたしな。ほっとけ。
ある日の深夜、バイトのあとでひと駅向こうの友人宅を訪問し、帰りが遅くなった。
車の通りもめっきり減った(その分正気を疑う速度で走る)国道を、幅寄せされることもなくほてほて走っていて。とある赤信号で停止しようとしたところで、それは起きた。
後ろから走ってきた車が追い越したあと、わざわざわたしの前に車線変更までして停車。
後部座席から、なんか降りてきた。
ここ、国道の、しかも車道やぞおまえ。
何が始まるのかと眺めていたら、大仰な身振りでこちらを指差し、怒鳴った。
「きみはー、おとこか、おんなか!?
男ならーー、男らしくーーー、髪を切れっっっ!!」
は?
当時のわたしは、髪を伸ばしっぱなしにしていた。一番長いところで膝あたりまで。それをひとくくりにしていることが多かった。
あるとき思い立って三つ編みにしたら「注連縄?」とか言われたし。
少々年上の友人にも、やたら長く伸ばしていた人がいた。彼は卒業前にバッサリ切った模様。
そういう人が割といた時期でもあった。わたしのはただのめんどくさがりなんだけど。合う美容師さんと巡り会えてなくて。
あーーー。
ヘルメットでよく見えないし、性別混同してんのか。
そう解釈したわたしは、怒鳴り返した。
「うるせえ、酔っぱらいーーーー!」
トラックが爆走してくるような国道で、信号停止中に車から降りてまでネタを披露してくるとか、飲み会後か罰ゲームくらいしか思い付けない。
ヘルメットでくぐもるため、声を張り上げても届くかどうか。わざわざ前につけられて気持ち悪かったから距離とってたし。
しかも相手、言うだけ言ったらさっさと乗り込んで発車していった。
信号とは。
絶対酔っぱらいだろ、あいつら。
男性にしては小柄すぎる(一五〇センチ少々)と気づかないんだから。暗いのを差し引いても、スクーターに乗る人の体格は判断つく程度の差がある。
……わたしの父親は小柄も小柄(わたしより背が低い)だが、そもそもあれは規格外だ。
とりあえず、あれだけで済んでよかったと思おう。
そう考えながら、家路を急いだ。
彼らの意図は、未だにわからない。




