どんくさいのは昔から
運動神経が死んでいる。短距離走「だけ」速いという不思議能力の持ち主である。
それでいて、体を動かすこと自体は嫌いではない。
体育の成績はよくなかった。春にあるスポーツテストはだいたいD評価。できないものは仕方がないよね。
そんなある日、スポーツ少年団(以下スポ少)の軟式テニス団体に入ってくれないかと頼まれる。学校の課外クラブ活動とも別の団体ではあるが、わたしが部活優先であることは知っていたはず。
それなのに、なぜ。
隣の小学校区(中学は同じになる)の子が、中学ではテニス部に入りたい。現在はわからないが当時は強豪校であった。経験はしておきたいが、自分の通う学校にはテニスに関わるものがない。
こちらの小学校も、部活のテニス部はなかった。このスポ少が毎週土日に細々と活動しているくらいである。当時はテニス、あまり人気なかったしね。
そして、同学年の同性がいないから躊躇していると。コーチ(同級生異性のお母さん)から母が泣きつかれたんだとか。
鼓笛の活動は基本平日の授業後なのだが、行事前は土曜日も練習(本番のことも)がある。こちらを最優先にしても問題ないこと、小学校卒業までという条件をのんでもらうことを確認して、加入することに。
小規模すぎて(人数が足りず)公式試合に出られないことも後押しした。だって試合って、土日。
そうして始める未経験。基礎練習からだんだんとやれることが増えていき、とうとうボレー練習の日がやってきた。
ボレーとは一般的に、球技において空中にあるボールを地面につく前に直接ヒットすることを指す。テニスだと、ネットに近い位置からノーバウンドで返球するショットとなることが多い。主にダブルスの前衛さんが用いる技である。シングルスでもやるけど。
だから受ける練習は重要である。
で、始まった途端にやらかした。
ボレーを受けるには、顔の前にラケットのガット面が来ていなければいけない。当たり前だけど、当たったら痛いから。
たしかにそう構えて一歩踏み出したはずなのに。
ばちーん!
目から星が出る、を体感した瞬間であった。ついでに場が固まった。そらそーだ。
まさかあんなものを顔面で受けるとは、本人を含めて誰も思わないだろう。
当時はまだ眼鏡をかけていなかったからよかった。眼鏡だったらケガしていたのだろうと思うと、ぞっとする。
目と目の間に、はっきりくっきり赤い丸。ゴムボールを舐めてはいけない。あいつは面でくる。
硬式ボールでなかったことも幸いしていたと思う。あんなん当たってたら鼻血で済んだかどうか。あっちは点でくるから、骨折していたかもしれないな。
たしかに顔の前にラケットを構えたはずなのに。納得がいかなくてぶつぶつ言うわたし。しかし、どう好意的にみたところで、結果がすべてである。顔の前にラケットのガット面がなかった、だから顔面で受けるという奇行に。
ボールにビビってラケットを引いた説が濃厚である。引いたら当たるに決まっているのにね。
その後しばらく「顔面ボレー」という謎単語が流行した。誰だ広めたの。
加入のきっかけとなった子からは何度も「中学でも一緒にテニス部に」と誘われていたけれど、毎回きちんと「中学では吹奏楽部に入るから、テニス部には入らないよ」と断っていた。
にもかかわらず、中学入学そうそうに、絡まれるのが嫌でさっさと吹奏楽部へ入部届けを提出してしまったわたしは「裏切者」呼ばわりをされることとなる。
そこはかとなく既視感。小学生のときも別の人との間に似たようなことがあった。
しらんがな。
これのおかげで、こわーいお姉さま(テニス部先輩)がたに囲まれたりするんだな、これが。めんどくせえ。
きちんと説明して諦めていただいたけど。入部の約束なんかしてねえんだわ。
冒頭の「短距離走『だけ』速い」は、スポ少主宰の体育大会とやらでも発揮された。知らぬ間にエントリーされていた六〇メートル走(五〇じゃないんだ……と思った)で、予選配置がバスケの人たち(バスケットシューズ)の中にひとりだけテニス(体育館シューズがなかったので、普通の上履き)。
――これで走るの? え、本気?
なんだかビミョーな空気のなかスタンバイする居心地の悪さ。だれかわかって……。
大幅に引き離された最下位だったにもかかわらず、本選はタイム順だったらしく予選通過しているという悪夢が。
え、瞬発力だけで生きているからさっきので力尽きましたが?
当然ながら、本選はお話になりませんでしたとさ。
予選落ちする気満々だったもんなあ。
 




