幼馴染みが俺のことをえんぴつで刺そうとしてくるのが嬉しい
「なろうラジオ大賞4」応募作品です。
現代恋愛。ハッピーエンド、に向かうのかな?ってとこ。
「まて~!!」
「わー! ごめん! 悪かった! えんぴつを振り上げるなっ!」
子供の頃はくだらないことでからかい合ったり、ケンカしたりした。
あいつの気を引くために。
あいつはケンカになると俺にえんぴつを振り上げてきた。
ちょっと怖かったけど俺以外のヤツにえんぴつを振り上げてるのを見たことなかったし、そのえんぴつの消しゴムがついてる方に俺があげたキャップがいつもつけられてるのもあって、それがちょっと嬉しかった。
「よ、よう。おはよう」
「……はよ」
それから何年か経ち、俺たちは高校生になっていた。
あいつはすっかり綺麗になっていたし、俺以外のヤツには人当たりが良くて。よく話し、よく笑った。
俺以外には……。
それは多分、昔のお転婆なあいつを知ってるのが俺だけだからだろう。
あいつからしたら、俺は同じ中学からこの高校に進学した唯一の邪魔者だから。
でもな。俺はずっとおまえのことを……。
「ねーねー。なんでいっつもえんぴつ使ってるの?」
「!」
休み時間。
あいつの友人が話しかけていた。
あいつはいまだにえんぴつを使っていた。中学生ぐらいからは皆シャーペンを使っているのに。
「……」
あいつは困ったように笑っていた。
「このキャップ懐かしい!」
「あっ!」
「!!」
友人が、あいつがいつもつけてたキャップを抜き取る。
「ちょっと返してよー」
「あは。ごめんごめん。ちょっと懐かしくなっちゃって」
あいつは頬を膨らませながら返してもらったキャップを再びえんぴつに装着させた。
「……」
あいつがそっと俺の方を見て固まる。
俺がソレを見たことに気付いたからだ。
「……見た?」
「見た」
素直に頷く。
キャップの下、消しゴムには大きく『紘』の文字。俺の名前だ。
たしか、消しゴムに好きな人の名前を書いて最後まで使いきると両思いになれるとか……。
あいつの顔は真っ赤だった。
キャップを取った女子は空気を読んでどっか行った。グッジョブ。
俺は自分の消しゴムを取り出し、カバーをずらす。
「……え?」
そこには小さく『悠』の文字。あいつの名前の頭文字だ。照れくさくてフルネームは書けなかった。
「まあ、つまり、そういうこと」
「……」
あいつは真っ赤な顔をしながら無言でえんぴつを振り上げた。
「……え? おい、なんでそうなる」
「むー!!」
「わー!!」
俺は逃げたけど、久しぶりに俺を刺そうとしてきたえんぴつがやけに嬉しかった。
そのえんぴつには、今日も俺があげたキャップがくっついている。




