オレ限定探偵のアイツ
ここに辿り着くまでは順調だった。
朝4時に起床。
準備が整い次第、車を走らせ30分。
そんな早朝にどこにやってきたんだって?
大型運動公園だよ。
今日はここで高校からの友人たちとお花見同窓会を開く予定だ。
オレはその場所取りに自ら志願した。
この公園には1度足を運んだことがあり、その時に花見のベストスポットを見つけていたからだ。
アイツらにはびっくりさせたくて、穴場を知っているとだけ伝えた。
駐車場から少し離れてはいるが、予想通りいまだにオレ以外誰もここには来ていなかった。
待ち合わせは10時。時間潰しにスマホでゲームをしようと尻の方にあるポケットに手を入れる。
そこに目当てのものはなかった。
焦りリュックの中や近くの地面なども探してみるがやはり見当たらない。
やばい。スマホ忘れた。家に。
とりに帰るか?
だがその間に誰かがこの場所に来てしまったらと思うと……すぐに動く気持ちにはなれない。
しかし連絡がとれないとなると、友人たちと合流することは難しいだろう。
やはりとりに帰っーー?! 危ない。
数メートル先にはブルーシートを持った同業者。
まさかここに来るとは……間一髪オレの方が早かったが、あの視線はあの人もオレがいる場所を狙ってきたようだ。
仕方ないといった様子で近くにシートをひいたが……もしオレが1時間ほどこの場所を空けたとすると、あの人でなくても誰かがこの場所をとってしまうだろう。
それに、オレが持ってきたブルーシートはなんでもない市販のものだ。
仮に誰かがここに座っていても、オレのものだと証明することは非常に困難だ。
まさか花見の場所取りでここまで他人を疑ってしまうようになるとは……オレは10時まで自我を保てるのだろうか?
唯一の救いは腕時計をつけてきたお陰で、時間がわからないというプレッシャーがかからなくて済むことだ。
今は5時半……仕方ない。アイツらを信じてオレはこの場所を死守するぜっ!
まぁ、この選択ができるのも今日来るメンバーの中に1人、オレ限定の探偵と呼ばれた奴がいるからだけどな。
アイツとは高校からの付き合いだが、出会った時からなぜかオレの行動を読むことに長けていて、常にオレを驚かせる存在だった。
きっとアイツなら、今回もオレのことを見つけてくれるはずだ。
オレは彼に全てを賭けることにして、散った桜をかき集め桜アートにいそしんだ。
*****
今日は久しぶりに、高校の同窓会が開かれる。
同窓会といっても、仲の良かった男5人で大きな公園で花見をするだけだ。
高校を卒業してから全員バラバラの進路へ進んだが、なんだかんだその中の内の誰かとはよく遊んだりしている。でも、5人で集まるのは本当に何年ぶりだろうか。
現在俺たちは25歳で、全員社会人となった。
今日は本当にたまたま全員の休みがあって、集まることができたのだ。
待ち合わせの10時より少し前に公園の駐車場へ行くと、懐かしい顔ぶれが既に揃っており、こちらに気づき手を振った。
「おー! 久しぶりだなぁ」
「みんなあまり変わってないね」
「だよなぁ! それほぼ全員言ったわ」
数年ぶりに会う人もいたが、そんな空白は全く感じないくらい、あの頃のように話すことができた。
後はぼくが一番会いたかった彼だが、場所取りを申し出てくれてすでに公園内のどこかにいるはずだ。
先ほどこの5人でやり取りしているメッセージアプリを確認したが、彼からはまだ連絡が来ていない。
ボクがみんなに確認しようとしたとき、1人が先に口を開いた。
「お前さ、アイツからなんか聞いてない? さっきから連絡取ろうとしてるんだけどつながらなくてさ」
「え、そうなの? ぼくの方にも……連絡はきてないな」
スマホの画面を見ながら、そう返事をした。
「やーっぱ寝坊じゃない? アイツ最近仕事忙しそうだったし」
「いやそれこそ急に仕事入ったんじゃない?」
「まさか事故……なんてことないよな?」
友人たちが口々に思ったことを口にしていく。
ボクは少し頭の中で整理することにした。
まず事故の線だが、今日は全員車で来ているが、ここに来るまで特に事故の情報はキャッチしなかった。それに彼は朝早く出発したはずなので交通量も少なかっただろう。なのでこの最悪のケースは一度選択から外すことにする。
次に寝坊もないだろう。彼は普段から朝早くに仕事へ向かっているらしいが、一度も寝坊したことがないと自慢していた。
高校の頃も泊まりに行った時などは一番に目を覚ますタイプだった。
最後に急な仕事に関してもあり得ない。仕事が入ったとしてもその時点で連絡が入るはずだ。
「なんとなくだけど、スマホを家に忘れたんじゃないかな」
「でもそれなら一度とりに帰らない?」
「んー、とりに帰るか悩んでいるときに、穴場って言ってた場所に他の人がやってきて、離れられなくなったのかも……」
確信はなかったがとりあえず考えを伝えてみると「それだ!」と全員が納得したので、その方向でいくことにした。
「てことは、俺たちが穴場を探して合流したらいいってことね」
「11時まで探して、見つからなかったらもうそこらで始めちゃわない?」
「そうだな。見つからない場合は駐車場の近くで始めて、アイツが諦めて帰ろうとしたところを捕まえるか」
方針が固まった。が、タイムリミットまではあと45分だ。
彼はきっとぼくが見つけてくれると信じて待っているのだろう。
その期待に応えたい。
「公園の地図を見ながら考えよう」
駐車場から公園に入る入り口のところに、手描き風の地図が描かれた大きな看板がある。そこの前に移動する。
「AからDのエリアに分かれてるんだよな」
楕円形の公園はそれぞれ4等分にエリアが分かれている。AからDまで辿ると一周できるような造りだ。
まずメインのAエリアは遊具がたくさんあり、普段から子どもたちが遊んでいる場所だ。このエリアは安全性を鑑みるためバーベキューなどは禁止となっている。ただし火を使わなければ飲食はしても良い。
ここは家族連れが集まるため、穴場になる場所ではないだろう。
次にBエリアはこの駐車場がある場所だ。
本当にただの入り口みたいな場所で、原っぱとベンチしかない。
ただ車で来た花見目的の者たちには絶好の場所で、今も既に人でごった返している。
彼が見つからなかった時はここで花見をすることになる。
「念のため俺たち、ここで場所取りしておくよ。小さいシートは一応持ってきてたから。また見つけたら場所連絡して」
「わかった! よろしく」
2人がかろうじて空いていたスペースにシートをひいた。ここで5人はかなり手狭なので、絶対彼を見つけたいと、さらに気を引き締めた。
Cエリアはバーベキュー場と公園管理局の大きな建物があった。その中には総合案内も入っている。
「総合案内で放送してもらう?」
「それも最終手段かな。せっかくキープした穴場だし、彼も残念がると思うから」
「そうだな。ま、アイツ限定の探偵くんを信じるよ」
懐かしいあだ名で呼ばれ、肩を叩かれる。
口が自然と綻ぶ感覚がした。
「うん。絶対見つけるよ」
Dエリアには広大な池が広がる。水性動物の観察にはもってこいの場所だった。
「ここだ」
「え、でもあそこは桜少ないし良い場所ってわけじゃないぜ?」
「とりあえず歩きながら説明するよ」
Dエリアは友人が言ったとおり桜の木は全く見当たらなかった。
池が広がり歩くのにも木製の橋を渡って移動する。この橋の上もシートをひくことは禁止されていた。
ボクたちは橋を渡りその先のCエリアとDエリアの境目にやってきた。
「見つけた」
桜の花びらでウサギの形を作っている熱心な背中に声をかけた。
声をかけた相手が振り返ると、勢いよく立ち上がり喜んだ。
「おー! 良かったぁ……! 実は家にスマホ忘れてさぁ!」
「おお……お前の予想が当たったな……あ、俺他の奴ら呼んでくるわ」
感心しながらもスマホを耳にあて、友人が駆け足で来た方向へと戻って行った。
「おー、ごめんなぁ。よろしく!」
友人に手を振って見送ったあと、改めて2人で向かいあった。
「やー、お前ならやってくれるって思ってたけどよぉ。こんなすぐに会えるとは思わなかったよ!」
どうしてここが? と聞かれ、ぼくは1から説明することにした。
「まず時間になっても連絡が来ないことで、君のことだからスマホを忘れたんじゃないかなと思ったんだ。スマホを持ってるなら必ず一言連絡が入るはずだと思ってね。次に公園の地図を確認したんだ。Aエリアは子どもたちが多い。真面目な君のことだから飲酒が伴う花見を子どものすぐそばですることは避けるんじゃないかと思った。次に、穴場と言うからには元々花見スポットになっているBとCも違うだろう。ここでDエリアには何があるか考えたんだ。このエリアにはたくさんの水生生物が生息している。君は生き物が好きだから前にこの公園に来たときもここには必ず来たんじゃないかと思った。しかしこのエリアには桜の木がないし、橋の上ではシートもひいてはいけない。でも、橋から抜け出た場所はひらけていてシートをひいても良いことになっている。穴場かは正直わからなかったけど、ここにいるんじゃないかなって思ったんだ」
すべて話し終わると感激したように拍手を送られた。
「全部正解だ! そう、ここからはちょうどCエリアの桜が見えるようになっている。Dエリアで唯一桜が近くにある場所なんだ!」
「でも君はスマホを忘れた他にもう1つ、想定外のことが起きたんだね」
ボクがおかしそうに指摘すると、彼は気恥ずかしそうに後頭部を人差し指で軽くかいた。
「まぁ、それはここを見たらわかるか」
「うん。君は穴場だと思っていたけど、ここもメジャーな花見場所なんだろ?」
2人で辺りを見回すと、すでに所狭しとシートが並べられ、人々は楽しそうに宴を始めていた。
「そう、俺は花見シーズンでないときにこの場所を発見した。桜も絶妙に距離があるから誰も来ないと思っていた。だが、良い時間帯がきたらこの様子さ」
なぜか得意気な顔で両手を開き小首を傾げてみせた陽気な友人がおかしくて軽く吹き出してしまう。
「まぁ、でも本当にいい場所だよ。ちょうど池の形が変則的で両隣はシートがひけないから、気を使わなくて良いし。池の生物と桜、両方楽しめるしね。朝早くから場所を確保してくれてありがとう」
穴場ではなかったが人気の場所ではあるだろうと思い、感謝を伝えた。
すると彼は照れ臭そうにまた後頭部をかきながら、満開のような笑みをぼくに見せてくれた。
「そうだ! 待ってる間にさ、桜アートしてたんだよ」
「ウサギ上手にできてたよね……あ」
2人で足元を確認すると、先ほど彼が立ち上がった風圧でウサギの形をしていたものは、無残にも散り散りになっていた。
おかしくなって2人で笑いあっていると、他の友人達も合流したので、穴場ではない最高の席で花見を始めることにした。
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