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一人少年  作者: GEN
2/3

廃墟の中の研究所

 2148年、日本は資源をめぐり宣戦布告、その後に第三次世界大戦となった。

 この世界的戦争に巻き込まれた、または参戦した国は、ロシア、中国、韓国、ベトナム、アメリカ、チリなど、合計約120カ国以上だった。

 そして、日本は…

 2154年、日本のインフラが完全停止したことにより、もはや戦争どころでは無くなった。

 奪うのにも時間の問題があったのだ。奪い合いだったので、そう簡単には奪えなかった。


 2157年、日本はイギリスやアメリカなどによる核の総攻撃で、「日本国家崩壊宣言」がアメリカでされた。

「元同盟国として、非常に悲しい。日本がこのような愚かな国となってしまったのは、仕方がないのだろうか」

 大統領はそう言った。

 その後日本はどこも廃墟化し、存在しない国となってしまった。


 2163年、日本。

「『日本、センセンフコク』かぁ」

 古びた新聞を読んでそう言った。

 この一人の少年は(わたる)。15歳で生まれたときから虫しか食っていない。偶然にも攻撃から逃げ切れ、唯一日本国民としての最後の生き残りだった。

「建物もボロボロだし、つまんないの、ここは」

 何故戦争によって廃墟化したのを知らないのか。

 それは生まれた時からずっと防空壕にいたからである。


「住民は速やかにこの防空壕に避難するんだ!」

 (さかのぼ)ること15年前。

 地表はどこも安全ではなくなっていた。毎日当たり前の様に核が降り注ぎ、爆音の響きも1分間に何回、何十回もあって、今にでも鼓膜が破れそうだった。

 どこも火の海ばかりでほとんど歩くことさえ、立つことさえも出来なかった。

 そこで唯一の救いが、最新式の防空壕だった。

 発展途上国のわりに、建物などは先進国の様に未来的だったのだ。

 防音機能もあり、爆発で100発撃たれてもびくともしない、とても頑丈な設計だ。 

「きゃああ死にたくなぁぁい」

 あちこちで苦しみの悲鳴が聞こえる。女房達の声だ。

「早く来い!火の海と共に焼き尽くされちまうぞ!!」

 住民はずるずる防空壕に入っていくと、入れなくなって余った人がいた。

「私たちを置いてかないで!!」

 いくら叫んでも無駄だと分かっているが、生きる事だけを考えるとどうしても叫んでパニックになてしまう。

「無理だ。残念だが、諦めて他の場所へ逃げるか、ここで死ぬかだ」

「いや…嫌だ!!私に抱えているこの子はまだ生まれたばかり、この子は命に変えても死なせないの」

 この抱えられている子こそ、弥だった。この状況下だと言うのに、まだ寝ていた。

「もし、私が入れないのなら、この子だけでも中に入れさせて」

「…」

「お願い、この子がここで死ぬなんて、絶対嫌」

 この女房だけは、冷静だ。

「分かった、この子だけは預かっておこう」

「ありがとうございます。では…さようなら」

 弥に言い残すこともなく、その場を立ち去った。

 言葉も何も知らない弥だったので何も言えなかったのは残念だった。ただ、最後は泣くのを一生懸命こらえて、弥の顔を見て笑いながら、どこかへ行った。歩いて歩いて、ひたすら歩いて、その後餓死した死体が見つかったそうだ。

 一方、弥は防空壕生活を14年間過ごした。食料も十分過ぎるくらい足りていたし、教育もその中で受けるという、まるで普通の様な日常を過ごしていた。  

 ところが、避難者はほとんど老人だらけだったので、避難者は日に日に死んで行き、防空壕を護衛していた自衛隊の一人も栄養失調で死んだ。自分は食べずに避難者だけに食料を与えていたそうだ。

 その後放射線も次第に少なくなっていき、ただただ廃墟となった。

 そんな中で、ずっと朝昼晩と虫を食べ、古びた新聞だけ読み、そこらじゅうをアスレチックの様に走り回っていた弥だった。

 ーと思っていた。

 ある日の出来事が弥の全てを変えたのだ。


「さて、今日の朝飯食いに行くか」

 弥は元々川が流れていた荒野へやってきた。ここは虫が一番湧く。 

「お、早速虫発見!」

 これが弥にとっての楽しい遊びでもあった。

「何だよ、幼虫かヨォ。つまんないの」

 そう言いながら手に取ったのは、()の仲間の幼虫だった。

 この「つまんないの」が、いつの間にか弥の口癖となっていた。

 その後も、シロアリやゴキブリ、ムカデは捕まえようとしたが、噛まれて逃してしまった。

「あぁ最悪、今日はいつもより4倍くらい少ないぜ」

 まぁ、仕方ないかぐらいの気分でそのまま食べた。

「ん〜、やっぱりゴキブリが一番脂がのっててうんメェ」

 嫌われている虫ランキング堂々の1位の虫だというのも知らず、病みつきになって食べた。

「これ、絶対誰か食べた方がいいのになぁ。だれもいねぇからつまんないや」

 そう言うとまだ自分の腹が空腹であることに気づいた

「もうちょい取ってこようかな」

 そう言うと荒野から離れ、また廃墟に戻った。

「なぁんだ、今日はこっちの方が湧いてるじゃないか」

 たまにここには黒アリの行列ができる。弥にとっては大のご褒美だ。

 弥はアリの行列について行きながらどんどん収穫していった。

「巣はここのボロマンションにあるんだなぁ。絶対に行かせないぞ」

 すると、ブーン、ブーンという音が何重にも重なって聞こえた。

「ヒェ、ハ、ハチだあ」

 すぐそばに蜂の巣があり、アリの行列を守る様に弥を威嚇してきた。

「クソォ、ハチなんかに刺されたらめんどくせぇことになるし、やぁめた」

 諦めてプイと外を向き、すごすごと出て行った。

 しばらく弥はその場に座って落ち込んでいたものの、腹が空き過ぎて我慢できなくなり、またどこかへ行った。

「カァミ様ぁ、俺腹減ったぁよぉ」

 弥の調子は今、6割が運が悪すぎての落ち込み、4割が空腹によるイライラといったところだった。

 顔は下を向き、手をぶらんぶらんしながら歩いている。

 岩の下も、建物の隅も探したが、なかなか出てこない。弥はだんだん、自分が虫を食べすぎていなくなってしまったのかと思った。

「嘘ぉだろぉー、これじゃ晩飯も食えねぇ」

 気がつけば日が沈む頃となっていた。本当に晩飯が食えないかもしれない。

 そう思った時、一つの光が建物の中から見えた。その建物だけは目立つくらい綺麗に建っている。

「おぉ、ありゃ蛍かもしんねぇ。この時間帯だからあり得ないこともないぜ」

 弥は興奮してきた。真っ先にその建物に入ると、まさかのとんでもない物があった。

 それは蛍の光などでは無く、大きな円盤の様なものにあった緑色の光だった。

 その円盤には何本か太い線で繋がれている。

 あちこちにモニター画面があり、電源もついている。

「飯じゃねぇ、研究所だ」

 偶然にもあった廃墟の中の研究所。弥は初めて、施設を、研究所を見た。

 ーここに人がいたんだー

 弥はそう思うと、何だかウキウキしてきた。

 しかし、あちこちに紙が散らかっている。中には重要書類などもあった。

 その中から、弥は設計図を見つけた。

 そこには、見つけた円盤のような物や、ケーブル、小型部品の取り付け方などが書いてあった。もう既に完成している。

「間違いない、この機械と同じ設計図だ!」

 弥は自分が完成させたように喜んだ。

「で、どうすりゃあ良いんだ!」

 すると、弥は裏に書いてあった取扱説明書を読んだ。


【タイムマシーン機 試作号機】

 [注意事項]この機械は試作段階のため、まだ過去への移動までしか出来ません。

 [説明]現在の時間帯からおよそ15年前まで移動出来ます。

 移動から24時間後、移動した時間帯に自動的に戻ります。任意で現代に戻ることは不可能です。

 [使用目的の例]

 ・過去の時代を実感、体験する。

 ・過去改変  

 ・記憶の取り戻し                        など


 過去にタイムスリップし、様々な体験をしてみませんか?


「ふぅ〜ん、よくわかんねぇけど、これ使えば昔に戻れるってことかぁ。不思議なもんだなぁ」

 弥はタイムマシーンを知らない。タイムマシーンと言えば皆()()を思い出すだろう。

 しかし弥はアニメなど見ていないので、何が何だか全く分かっていない。

「えぇと、『緑のスイッチで過去にタイムスリップ可能です』。なるほど、押せば良いんだな」

 早速円盤に向かった。そして、『タイムスリップ』と書かれた緑のボタンに人差し指を近づけた。

 押して、「カチャ」と言う音が鳴ると、アナウンスが流れた。

『間も無くタイムスリップを開始します。起動中です…』

 その声の後に、カウントダウンが流れた。

『3,2,1,0』

 しかし、何も起こっていない。特殊な音も鳴っていない。ただ、声が沢山聞こえる。

「なぁんだ、嘘じゃないか。つまんないの…ん?」

 目の前には、今から家にでも帰ろうとしている会社員、建ち並ぶマンション、そして広い交差点。車も数え切れないほど通っており、その中に、一番高い塔が立っている。

 スクランブル交差点だった。

 しかし弥は、「何だここ」と言うばかりだった。

「スッゲェ!!昔って、こんなに光があったのか!?建物も何じゃこりゃ!!たっけぇし、めっちゃ建ってるし、お、あの生きものみてぇのは何だ?人が乗ってるじゃないか!!あぁヤベェ訳がわかんねぇ!!」

 人生で一番、興奮した瞬間だった。人が沢山いた時は、こんなに平和で、愉快で、凄いものばかりだったのか。でも、その全ては愚かな人の争いにより、消し去ったのだ。

 弥は何故、自分のいた時代があんなに廃墟ばかりの荒地だらけの場所だったのか、疑問に思った。しかし、その思いも全て消し去り、興奮だけが頭の中でいっぱいだった。


「やっぱり、廃墟だらけですぜ」

「いや、ここ最近ガキが一人だけ生存してるとの事だ」

 この二人は、中国軍の中で最も優秀だった。

 後輩の方が『ウォン』、先輩の方が『イナン』という名前だ。

「首席が言う事だ。彼は人口を正しく計測できる人工衛星を作り、そこから首席自身で情報収集している。絶対に計測ミスなどあり得ない」

「分かりませんぞ。ここのことわざで言う、『猿も木から落ちる』かも知れねぇですぜ」

「存在しない国などに、もはやことわざなど無い」

 訳の分からない事でそう怒鳴ると、ウォンはせかせかと「す、すいません」と頭を軽く下げた。

「い、いやぁしかし、こんな荒れ地の廃墟ばかりの場所に、ガキが生存していたとはぁ」

「恐らく虫でも食って生活しているのだろう」

「そうじゃなければおかしいですぜ」

「もしくは、人体冷凍保存されているかだ」

「それじゃ、蘇生技術が無いから、死んでるのと同じですぜ」

「馬鹿なことを言うな。死なないように別の方法で保存させたかも知れないことだってあるのだぞ」

「それだったら、納得出来ますなぁ」

 ウォンはあいづちを打つと、疑問が一つ浮かび上がった。

「ちなみに、今回のそのガキ探索はどうしてするですかいな」

「無論、日本人などただのゴミだ。殺すのさ」

 ウォンは震えた。

「こ、殺すんです?」

「あぁ」

 そんな会話をしながら、弥の探索に二人はあたった。


 一方その頃、弥は警察と絡んでいた。

「おっさん達、一体誰だ?」

「警察だ。こんな夜中まで…お母さんお父さん達、心配して無いかね」

 そう問うと弥は、「俺に親なんかいねぇよ」と言った。

「じゃ、家じゃ無くてどこに居るんだい」

「だーかーらー、どこにもいねえんだって。一人だけだよ」

 すると警察は弥の手を(つか)んでパトカーへ連れて行かれた。

「君はちょっと児童養護施設に行った方がよさそうだ」

「何じゃそりゃ」

「君みたいな親のいない子供だったり、虐待された子供達を安全な場所で保護する施設だ。それに、君の服装もボロボロじゃ無いか」

「ふぅん、でも行っても無駄だと思うぜ」

 何でと警察が問い返すと、弥はあくびをして言った。

「だって、俺は24時間後に俺がいた時代に戻っちゃうんだ」

「馬鹿を言え。日本の技術でそんな物ないよ。君は病院に連れて行くのも良さそうだ。それとも、児童養護施設が怖いのか?」

「違うっつうの、本当だってば。最初俺もびっくりしたけど、ホントなんだよぉ」

 弥は駄々を()ね始めると、警察がため息をついてパトカーのドアを開けた。

「分かったよ、そのかわり、何が起きても知らないからなぁ」

「大丈夫だって、俺いっつも危険な事から逃げて来れたんだもん」

 弥はそう言うと警察は敬礼をして、パトカーに乗ってどこかへ行った。

「しかし、不思議な少年だったもんだ」

「本当にあんなことして良いのか?警視監に叱られるぞ」

「仕方がない、今回だけだ。後悔しちまったから二度としたくねぇ」

 二人は笑いながら夜の大通りを走った。


()()()()って、一体何だろなぁ」

 弥は考えながら夜道を歩いていた。

 するとその時、

「おいおい、ぶつかったじゃねぇかよ」と言う声が聞こえた。

 考え過ぎて周りが見えず、ヤクザ達にぶつかってしまったのだ。

「まぁた変なオッサン達にあったよ」

「誰が『オッサン』だ」

「お前達のことじゃねぇか」

「ふざけんなよ、この小僧!!」

「よくも怪我させやがって、どうすんだ!!」 

 弥は少し恐怖を感じた。

「そうだ、医療費は払ってもらわないとなァ」

「医療費て何だ?」

「オメェ医療費も知らねぇのかよ」

 そう言うとヤクザの一人が蹴って弥を突き飛ばした。

「金だよ、カネ!!そうだなぁ、このぐらいの怪我だとぉ、5000円くらいかねぇ」

「イテテ、その5000円て何だ?俺、金の単位知らねぇんだ。てゆうかさっきからおっさん達の言ってる事全然わかんねぇ」

 弥は笑い転げた。とうとうヤクザ達の顔も真っ赤になり、

「喧嘩売ってんのカァこの野郎ォ!!お前の頭が馬鹿なだけなんだよォこの小僧!!」

 ヤクザ達は一斉に拳をあげ、弥を()らしめようとした

 しかし、弥はその殴りを全て余裕そうに避けた。

 ヤクザ達の拳が壁に思いっきりぶつかった。

「俺、頭は馬鹿でもこうゆうのだけは得意なんだよなぁ」

「カッコつけやがってェ!!もう良い、半殺しにしてやらないとなァ!!」

 ヤクザ達はまた一斉に拳をあげたが、またもや弥に避けられた。

 今度は手すりを掴んでそのまま逆立ちし、飛び跳ねて裏側の通路へ降りた。

「クソォ、裏側へ逃げたぞ。そのまま追いかけろ」

 ヤクザ達の走る音がした。

「ヤベッ、上登ろ」

 弥は周りの障害物を使って壁の上を登った。

 実は弥は、幼い頃からいつ敵兵に襲われても生き延びられるよう、防空壕の中で単純な運動をしていたのだ。

「あァァァクソッ、もっと探せ!!」

 どこかに探しに行くその姿を隠れながら見て、弥はほっと息をついた。

「危ねぇ、一つ足でも出してたら見つかってたぜ」

 荒い息をしながらそう言った。

「昔には楽しいことだけじゃ無くて、危険な事もあるんだなぁ」

 弥はそう思った。


 その後弥は、デパ地下を歩き回っていた。

「いらっしゃい坊や、こんな夜遅くにどうしたのかね」

 唐揚げ屋のおばさんが話しかけてきた。

「おばさん、その茶色いの何?」

「これはねぇ、『唐揚げ』て言うんだよ」

「唐揚げかぁ、でもゴキブリにゃかなわねぇな」

「ゴ、ゴゴゴ、ゴキブリ…?」

 おばさんは少しだけ腰を抜かした。

「ん、おばさん食べたことねぇのかぁ?」

「い、いやぁ…食べたことはないなぁ…。そういや、あんたお腹空いてないかね」

「なんかその唐揚げってやつ見てたら、腹が減ってきた」

「じゃ、一箱400円だから、払っておくれ」

 すると弥は首を振り断った。

「俺ゃ金持ってないんだ。やっぱゴキブリ食おうかな」

 おばさんはまた少しドン引きした。そして一息ついて、

「それじゃあ今回は特別で、一箱無料だよ」

 と言った。

「ホントに?よっしゃあ」

 弥は喜んで大きく飛び跳ねた。

「いっただっきまぁす!!」

 弥は一気に食べ始めた。

「何だこれ…ゴキブリより百倍うめぇぞ!!」

「そりゃゴキブリよりは美味しいよぉ」

 おばさんは当たり前だよと言うような口調で言った。

「でもさぁ、僕がいた所はこんな場所無かったぜ」

「貴方がいた所…一体、どこのなのかしら?」

「ずっと先の未来。15年後くらいかなぁ」

「15年後は、きっとデパ地下が無くても買い物ができる素敵で便利なんでしょうねぇ」

「いや、むしろ不便だ。俺一人しかいないし、どこもボロボロだし、食事も虫だけだぜ」

 おばさんの顔が青くなった。

「ほ、本当かい」

「うん、本当。あ、おばさんの唐揚げ美味しかったよ。じゃ」

 おばさんは手を振って弥を見送った。

 弥がデパ地下から出た時、誰もいなくなったので出入り口にシャッターがかかった。


「ここの星は俺がいつも見てる星とはなんか違う気がすんなぁ」

 今度は遊水池の坂のてっぺんで座って、星空を眺めていた。

「幸せだなぁ」

 弥は心が癒された。

 外は丁度いいくらいに涼しく、空気は澄んでいた。

 弥は今夜の野宿をここに決めた。

「まだ明日の夜まで俺ここにいるんだよなぁ。明日はもっと楽しんでやろう」

 そう言うと弥はあくびをして寝たが、この時はまだ知らなかった。

 次の日が、全ての幸せが奪われる日なのだとー。


 国会議事堂での緊急会議。

「我々日本のインフラ社会への多大な影響は、深刻な問題にするべき物だと考えております。首相、何かお言葉を」

「はい。えぇ、まず電力に関してですが、電力は住宅地と公共施設への供給を最優先しており、それ以外の場所では電力が今現在通っておりません。また、既に一部の公共施設では、電気の供給が切れているとの事でございます。このデータを分析した結果として、遅くても1年以内、最悪の場合2ヶ月以内に、日本全国での電力の供給が不可能になる、との事でございます。

 そして私自身、決断をいたしました。先進国の保有している最先端のエネルギー供給機械、このエネルギーには電力も含まれておりまして、それを強奪致しますことに決定しました。

 また、この強奪作戦におきましては、奪い合いによる戦争になる確率が非常に高いと、専門家の解答がございました。

 この作戦へ拒否することが出来ませんので、ご了承を」

 すると国会議事堂にいた全ての人が、ブーイングをし始めた。

 それを逃げるように会議場から出て、どこかに行った。

「副大臣、政務官、彼は本気でございますのでしょうか」

 野党の一人が言うと、政務官が答えた。

「あぁ、あいつは自分が最高のヒーローになれると思いすぎて度が過ぎてしまった。いや、頭がイカれたのかもしれない。でも思ったんだ。結局、その高みを目指した結果が、人が惨殺ばかりされる世界戦争なんだって」

「…」

「あいつが首相である限り、この運命は避けられない。みんなで何とかすれば、絶対止められ…」

 そう言いかけると、副大臣が「平和ボケすんじゃねぇ!!」と怒鳴った。

「あいつは首相という役目を終えるまではずっと首相。私たちで彼を追い出すことはできません。そもそも、彼は人が言うことを受け入れようとしない。警察を呼んだって無駄だ」

 副大臣はさまざまな口調で言った。

 すると政務官の顔が変わった。

「勝つ…そうだ…勝てば良いんだ…!!」

 だんだん声が大きくなってきた。

「勝てば何の問題もないです。皆さん、首相を全力で支持し、この戦いで皆さんが勝てるようにしましょう!!」

「平和ボケの次は意味不発言かよ!!」

 副大臣が呆れた顔で怒鳴った。

「確かに、私も以前までは首相の事を、見るたび聞くたびにイラついていました。しかしここ最近気づいたんだ。まだ不安は残っていたけれど、彼は私たちが正しい方向に進むように動いてくれているんじゃないかって」

「クソみてぇな話だな!!」

 副大臣の顔は既に腫れたように赤くなって、歯に力を入れて食いしばっていた。

「良いかね政務官よ、君はきっとあの男に洗脳されてきているんだ。彼からは距離をとって、できるだけ積極的に関わらない方がいい。そして今から彼のことを信じるな。彼について行くだけで洗脳の進行が悪化する!!彼は洗脳を生む病原体だ!!」

「そこまで言わなくて良いんじゃないんですかねぇ。彼は私たちを導いてくれている。この戦いでみんな勝ちましょうヨォ、ね」

 政務官の目はどこを向いてるか分からないような、つき上がったような目になっていた。ずっとニヤニヤしている。

「副大臣殿よ、彼は酒にでも酔っ払ったんですか」

 野党の一人がまた言った。

「正確に言えば、『酔っ払ったみたい』だな。彼の発言には正気も混じっている」

 副大臣は心を落ち着けて言った。

「正気は混じってませんよぉ」

 政務官が言った。

「お前は少し黙って…」

『〈サイレンの音〉警告、核攻撃の恐れがあります。室内や地下に今すぐ逃げ、テレビ・ラジオをつけて下さい』

 副大臣が言いかけるとサイレン音と警告が鳴り出した。

(とうとう、動いたか)

 副大臣は顔をかしめて心の中で言った。

「皆、今すぐ安全な場所で会見を開き、住民の保護に全力を尽くしてくれ!!くれぐれも健闘を祈る」

 そう副大臣が言うと、政務官以外の全員が「了解」と言った。

「政務官よ、一緒に逃げよう」

「…はい」

 政務官が困ったような顔をして言ったが、副大臣はそれに構わず手を引っ張って走り出した。


 日にちは既に次の日になっていた。

「ウゥウー、ウゥウー、うるせぇなぁ」

 弥はせっかく寝ていたところをサイレン音で邪魔されていた。

「坊や、そこで寝そべってないで、うちへおいで」

 白髪の白い羽織を着たお爺さんに話しかけられた。

「ジィ、お前も俺の睡眠を邪魔する気か」

「今はそれどころじゃない。わしの研究所でゆっくり休め」

「ほぉい」

 弥はあくびをして言った。

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