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1.地獄の幕開け

ダイエットって辛いですよね。。。

「飯田さん、食べ過ぎです」


 会社の健康診断で、医師から言われたのは食事についてだった。


「このままだと、糖尿病になりますよ?」

「!?」


 まずい。非常にまずい。

 私の血糖値は、空腹時に測ったというのに思いの外高かった。

 それだけではない。コレステロール値も全て基準をオーバーしていた。


「先生……私はどうすれば……」


 このままでは、私と妻の夢が潰えてしまう。早急に対処が必要だ。


「食事制限をして下さい。飯田さんの身長と体重を考えると、1日にだいたい1600kcalくらいの食事はとっていただいて大丈夫だと思います」

「1600kcal……」

「あと、ご自分でもわかっているとは思いますが、糖質は控えるようにして下さい」

「わかりました……」



 私、飯田浩二(いいだこうじ)には野望がある。いや、私と妻の二人の野望か。


 それは飯田家の城を持つこと。つまり、マイホームを手に入れることだ。


 私は25歳の時、妻と結婚した。晩婚化が進む昨今、比較的早い年齢で籍を入れた言える。


 結婚当初、式を挙げたりしてあまり金銭的な余裕がなかった。お互い慣れていない同居生活のせいか、妻と喧嘩することもあった。


 それから3年、今に至るのであるが、生活は安定してきた。余裕ができた分、住んでいるアパートが手狭に感じるようになった。


 もし、子供が出来たりしたら部屋が足りなくなってしまうだろう。それに自分の部屋がないと言うのは何だか子供に申し訳ない。


 アパートを変えることも考えたが、賃貸である以上、いずれは引っ越しをせねばならない。せっかく落ち着いてきたというのに、腰を据えられる場所がないというは物悲しい。


 私は妻と相談し、自分達の家を建てることを決意した。


 マイホームを建てるにはローンが必須である。そしてそのローンに付き纏うのは生命保険。生命保険に入るには健康でなけれはならない。


 生命保険の審査は厳格だ。持病があれば審査が通らないなんてことは珍しくない。健康診断の数値が悪ければそれもまた同様。


 しかし、健康診断の数値が悪いだけならまだ巻き返しが可能。数値を基準値にすればいいのだ。


 私の場合、血糖値を下げるというのと余分な脂肪を削ぎ落とす必要がある。


 残念なことに、学生時代に野球で鍛えた筋肉は空に飛んでいったしまったようだ。代わりに脂肪がついてしまっている。


 こうして、私の減量生活が始まった。

 それが地獄の幕開けだと私は気付かなかった……。


 ★★★★★


 ダイエットを始めて一週間――。


 私の食生活は激変していた。


 元々朝食はトースト2枚とベーコン、そして目玉焼きの洋風だったのだか、白米と味噌汁と鮭の和風になった。ちなみに味噌汁と鮭の味は薄い。


 私はトーストの焼けた匂いが好きだった。されど、しばらくはその匂いを嗅ぐことはできないだろう。


 理由は至って単純だ。食パンは白米よりカロリーが高い。トーストに塗るマーガリンやベーコンなども加えると、朝に相当なエネルギーを摂取することになる。


 計算したところ、以前の朝食は700kcalー近くあった。


 それと比較的して現在のものは白米で170、味噌汁で50、鮭で130。合計で350kcal。約半分となった。


 変わったのはこれだけではない。メインはむしろ昼食からだ。


 先週までの私は、昼は後輩と外に食べに行くのが日常であった。ラーメン、カレー、牛丼、パスタ、ジャンルは多岐に渡る。


 オフィス街ということもあり、会社の近くには様々な飲食店が存在する。その中にはニュースで取り上げられるほどの評判も店もあり、私も贔屓にしていた。


 だが、もう行くことは出来ない。


 こちらも理由は全く同じ。どの店の料理もカロリーが高い。物にもよるが、一食当たり1000kcalに到達する。


 朝と昼を合わせると1350kcal。夜は何も食べられなくなる。敢えて食べられるもの挙げるとするならば、おにぎり1個だけ。


 これでは精神崩壊に待ったなしだ。夜は一番空腹を感じるというのにあまりにも量が少ない。


 故に私は妻に弁当を作って貰うことになった。(妻も仕事をしているというのに、本当に頭が上がらない……)


 後輩からは「愛妻弁当っすか、いいっすねー。一人もんは虚しく外で食べますよ」なんて皮肉を言われた。いつも私が奢っていたのだからいいだろ別に、とは思う。


 弁当のカロリーは750kcal。こちらは高くもなく低くもない。私にとってこの弁当が夜までの生命線となる。


 仕事中の間食はNG。砂糖の入った飲み物も当然だめ。


 この時点で、前より550kcalもの差がある。私はよくコーラを口にしていたので、それを加味すればもっとだ。


 550kcal、かけそばの大盛りと同じくらいのカロリーだ。それだけの差があるのだから、終業間際は夏場の蛙のようグーグーと腹が鳴き始める。


 仕事が終わるとようやく夕飯にありつける。待ちに待った食事ではあるのだが、ここには新たな試練が待ち構えている。


 1600kcalの内、1100kcalは朝と昼で摂取済み。残りは500kcal。昼より少ない。


 私には数少ない夜の楽しみがあった。

 ――それは晩酌だ。


 ところが、500kcalという制約の中ではそれは封印されたに等しい。アルコールというのは結構なカロリーがあるのだ。


 私の大好きなビールは100ml当たり、40kcalある。ロング缶を2本飲めばつまみは味噌汁2杯。ごく少量であれば、固形物も食べられなくはない。


 どちらにせよ、腹が満たされることはない。

 ――私は晩酌を諦めざるをえなかった。


 ああ……ビール飲みたい……!


読んで頂きありがとうございます。

本作ですが、3話ぐらいで完了する予定でおります。

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