戦闘技能と買い物
既に日が沈み始めているから、そろそろ訓練所も人が減っているだろう。そう思い広場まで戻ってきたところで、ぐう、と腹の音が鳴る。
「空腹システムもあるのか」
空腹システムとは一定時間の経過およびプレイヤーの活動によって空腹になることだ。対策としては食事をして、空腹を満たす必要がある。満腹値と呼ばれることもあるこの数値が0になるとHPが継続して減り始め、最後には餓死によって死を迎えることになる。また復活するとゲージは満タンに戻るけれども、餓死による死はデスペナルティが他の死亡時よりも重いため、避けた方がいい。様々なVRMMOに見られる定番のシステムだが、このゲームでも同じらしい。
普通ならメニューに空腹ゲージがあることが多いけど、このゲームでは見られないのかもしれない。注意しておかないと。それにしても、空腹システムがあるのに、【料理】のウィズダムが人気ではないのは不思議だ。餓死を避けるために需要がありそうだけど。
西の大通りに入ると屋台が立ち並ぶ一角が見えてくる。漂ってくる香ばしい匂いに惹かれて歩いて行った先には大鍋に野菜と肉のスープを煮ている屋台があった。
「どうだい、1杯50Gだよ」
「1つください」
「あいよ、食べ終わった椀は返却してくれ」
「はい」
独特のスパイスの匂いが食欲をそそる。木椀によそわれたスープを匙ですくって食べていく。ゴロゴロと大きい野菜の具材に噛み応えがあって、いい味が浸み込んでいる。ただ、食べるときも違和感があった。なんか距離が変だし、一口に入る量が少ないような。キャラクターの口の大きさがちょっと現実の俺と違うのかもしれない。
食べ終わって食器を返却し、今度は寄り道をせずに訓練所へと歩いていく。未だわずかに人の流れがあった。大通りの先には西門が見え、そのすぐ前に弓と剣と杖が組み合わさったエンブレムの旗を掲げた訓練所は建っていた。訓練所の中に入ると、まだ人は残っていた。あの人ごみを避けたかったプレイヤーは俺だけじゃなかったんだな。
訓練所には3人の教官がいて、それぞれの教官が立っている横に扉が一つ。そして教官が立っている後ろの壁にそれぞれの武器のマークが描かれている。
剣と杖の教官の前には人がまだ並んでいるが、弓の教官の前には一人もいない。
待たなくていいのはラッキーかも。
弓の教官に話しかけると、彼は不思議そうに言った。
「ここでは弓の扱い方を学ぶことができる。が、本当に訓練するのか?」
「はい、よろしくお願いします」
「分かった。では、弓の扱い方を教えよう。武器は訓練終了後にやることになっている。貸出じゃないから間違えて置いて行かないように。ほら、これが弓と矢筒だ。矢は消耗品だから、この訓練所で使う分だけここの扉の向こうにおいてある。ただし、矢の持ち出しは禁止だ。ここで使う分はいくら使っても費用は請求されないから気が済むまで練習していけ。……めげんなよ」
〔クエスト:弓の扱い方〕受注という文字が視界に表れたが、教官にばん、と励ますように背中をたたかれたため、すぐに意識が逸れる。それにしても、教官が先に注意するくらい弓は難しいのだろうか。それぞれの武器特性については全く調べてないからちょっと不安だ。
教官が場所を開け、扉を通してくれる。扉をくぐると景色は一変した。エリアが変わったようだ。柵で区切られた広めの空き地に、人を模した藁のカカシがいくつも立っている。背後を振り返ると小さな小屋があり、柵はその小屋の背後に回れないように仕切っている。扉のすぐ脇には箱に入った大量の矢。箱自体も10箱ほど積み上げられていて、この空き地に人がいないことを考えると相当練習ができるだろう。剣や杖の訓練は別エリアらしい。練習場所の心配はしなくてよさそうだ。
とりあえず矢筒に詰められるだけ詰めた。この矢筒30本入る。そして矢筒を背負い1本を引き抜くことに苦戦する。矢筒ってどこにあってどこを掴めば抜きやすいかを背中のあちこちに利き手をやりながら考えていると、とりあえず1本抜けた。端の方に立つカカシの正面に立って弓に矢をつがえた。弦を引いて、矢を放つ。悲しいことに体勢は整わず、狙うどころかカカシよりも俺の足元に近い位置に刺さった。
「全然当たらん」
視界の隅に残ったままの、クエスト名に意識を集中すると、クエストの達成条件が表示された。
〔チュートリアルクエスト:弓の扱い方〕矢を射る 1/10
つまり、10回射ればいいらしい。カカシにあたらなくてもいいみたいだが、どうせなら当てたい。ということで弓を構える体勢を考えつつ、2射目。もちろん外れた。3・4・5射目も外れたが、さっきよりはカカシに近づいた位置の地面に矢が刺さった。6・7・8射目は同じく外れ、9・10射目も外れた。気合を入れた程度じゃどうにもならなかった。しかしこれでは外で戦闘はできない。というか他のゲームではあるモーションアシストが感じられないんだけど、このゲームにはないのか?
そんな疑問を抱いた俺の視界にログが流れてくる。
〔クエスト達成。クエストクリア報酬はウィズダム【初心者弓術】です。メニューのウィズダムスロットに装備してみましょう〕
はよ言え! というかまだウィズダム習得してなかったのか! そりゃあモーションアシストもないし外しまくるわ!
イラっとしつつも、メニューを開き、ウィズダムと書かれたタブを開く。そのウィンドウにはウィズダムスロットと習得済みウィズダム、そして習得可能ウィズダムリストと残りWPが表示されていた。
習得済みウィズダムから【初心者弓術】Lv.1を選択しスロットに登録した。これでさっきよりはましになるだろう。習得可能ウィズダムリストとその下部に記された残りWPはクエスト以外でウィズダムを習得するためのものらしい。プレイヤーの行動によって取れるウィズダムが変化するとはこのリストの中身のことのようだ。おそらくWPは他ゲームのスキルポイントと同じで、ウィズダムを習得するために使用するポイントのことだと思う。これなら《ワールド》基本ガイドサイトを全部読んでおけばよかった。ウィズダム一覧とプレイヤーの最初の流れしか見てない。
基本ガイドがなければチュートリアルを受けるために町で聞き込みして、ウィズダムが習得できる場所を探さなきゃいけないみたいだから、ちょっと不親切だ。まあ凝ってるともいえるけど。
俺の習得可能ウィズダムリストには、既にいくつかのウィズダムが表示されていた。【手捌き】、【言語学】、【鳥目】、【暗視】、【蛇の目】、【呪いの魔眼】、そして【初心者調合】だ。
おかしい。【呪いの魔眼】とか明らかにゲーム序盤に出てくるスキルじゃないし、敵の方が持ってそうなウィズダムだ。というか、魔眼を経験って俺は何をしたんだろう。
うーん、と考え込む。俺は今日、ログインした後は町の探検して占ってもらってお使いに行って探検して……そうか、占いだ!
キイツさんに占ってもらった結果は『知識を求める』、『目が良い』、『奥の手がある』。この目が良い、という部分が反映されているんじゃないか。あの占いは習得可能ウィズダムリストに作用するって考えるととっても便利だ。序盤から他人にはないウィズダムが習得できる可能性がある。
俺も【呪いの魔眼】に心惹かれたものの、現在の俺のWPは10P、【呪いの魔眼】は20Pで、WPが足りない。【蛇の目】は習得に10P使用するため、かろうじて習得できるが流石にこのロマンあふれるけれど実際に使えるか分からないウィズダムにポイント全振りはできないため、諦める。後は【手捌き】、【言語学】、【鳥目】、【暗視】、【初心者調合】だ。
【初心者調合】は渡りに船だ。戦闘で確実に消費するポーションを自給自足するため取得したかったから、迷わず3P払って習得。
【手捌き】は何に関連するのか。イメージ的にはカードをシャッフルするとか、料理が上手いとかに使う言葉だと思う。おそらくは器用さに関係するんじゃないだろうか。リストにある理由は矢筒から矢を引き抜く工程が【手捌き】ウィズダムに当てはまるからのはず。矢筒から矢を取り出す作業は10射してもたどたどしかったので、出来ればウィズダムで補正してもらいたい。これは2Pだし、習得してもいいかも。
【言語学】は読めなかったキイツさんの所の看板だ。これも《ワールド》の世界観を楽しむためにはあった方がいいけど、急ぎではない。3Pだし保留。
【鳥目】は言葉だけ聞くと、夜見えなくなるウィズダムだ。多分それだけじゃなくて、昔のPCゲームのように俯瞰して見れるようになるウィズダムじゃないかな。上空に鳥の目があって俯瞰してプレイできるなら便利そうだ。これは2P。
【暗視】はその名の通り暗い場所でも見えるウィズダムだろう。このウィズダムの存在があることで、一つ重大な情報が手に入った。こんなウィズダムがあるってことは、暗い場所では見えにくいのだ。暗所の戦闘時には松明やらランタンやら光源が必要になるんじゃないか? 戦闘時に手がふさがりそうだし、いちいち出費になりそうだから、出来ればほしいウィズダムだ。2P。
現在習得できるウィズダムをすべて見て、俺は【手捌き】、【鳥目】、【暗視】を習得した。残りのWPは1P。WPってどうやって増やすんだろうか。今度調べてみよう。
すべてのウィズダムをスロットに装備した。これでさっきよりは矢が当たるはず。ゆっくりと弓を構えて矢をつがえる。先ほどよりはモーションアシストがかかっていて、どんな体勢を取ることが理想かなんとなく分かるような気がする。ただし自動的に体勢を補正してくれないようだ。矢を放つ。ヒュン、と風を切った矢はカカシの横と通り越して刺さった。惜しい、あと3センチ内側に飛べば当たっていた。
次を撃とうと背負った矢筒に手を回すと滑らかに矢を取り出すことができた。ウィズダムが効果を発揮しているらしい。【手捌き】を取っておいてよかった。
何度も射て、少しずつ矢をカカシに近づけていく。弦を引く力の強さが思ったよりも必要で感覚を覚える必要がある。そして残念なことに【鳥目】では俯瞰視点は手に入らないらしい。本当に残念だ。
1箱分の矢を射た頃には、やっとカカシのどこかに矢が刺さるようになっていた。
弓矢は難しい。補正が少ないのがきついし、本当に実践で撃てるか心配になってきた。不安はそれだけじゃなくて、プレイ開始時からある違和感だ。弓矢を使う中でちょっとずつ慣れてきたが、なんか体に違和感がある。射る最中に思いついたが、もしやランダムキャラメイクのせいかもしれない。本来の俺の体と大きく違うことで、重心、体の制御が上手くいってないのかも。そういえばどんなキャラクターになったか、まだ外見はチェックしていない。イケメンだといいが、まあ自分を見ることなんてあまりないだろうから特に心配する必要はないか。
その後も射撃の練習を行い、3箱分の矢を使い切るころには40%の確率でカカシのどこかに当たるようになった。動いているエネミー相手に当たるかは不安だが、そろそろ矢筒の中身もなくなったし、腹も減って来たから、ここを出るタイミングかもしれないな。それにしても矢が当たったり当たらないで一喜一憂することが楽しい。自分の成長が実感できることもすごく楽しい。新しいゲームを始めたときの楽しさだよな。
メニューから時間を見る。《ワールド》内の時計では、既に朝を迎えているようだった。この訓練エリアはいつまで経っても青空だから、時間経過が分からないらしい。というか、訓練所の扉の先なのに訓練所の裏手じゃなくて別空間のエリアに飛ばされているから時間間隔がまっとうなほうがおかしいか。
練習で撃たれ、各所に散らばった矢は時間経過で消える。訓練所を片付けるようと思ったが、することがなく、小屋の扉を開けて俺は訓練所に戻った。
「どうだ、手応えは?」
「まだまだ始めたばかりですが、楽しいです」
「それならよかった。頑張れ、若人」
「はい」
訓練所で弓の教官に別れを告げて、西の大通りに出る。朝食に屋台で串焼きを買って腹を満たし、次を考える。外に狩りに出ようか、それとも生産系ウィズダムも覚えたことだし、何か作ってみようか。NPC商店を覗いてみると、初心者用体力回復ポーションが1つ150G。これが一番回復量が少なく体力(HP)を回復する。現在販売している唯一のポーションだ。MPポーションあるいは魔力回復ポーションはまだないらしい。ポーションは自分で作りたいので買うのはやめておく。
矢は10本単位からの購入で一番安い木の矢が1セット100G、他にも攻撃力が高そうな鉄の矢がある。これは1セット200G。消耗品にしては高いのか安いのか分からないが、町の外で戦闘するなら必要だろうから、木の矢を5セット購入した。
ポーションを買わなかった代わりに、【初心者調合】で生産活動をするために必要な初心者調合キットを購入。これは携帯できる調合キットのようだ。お値段は1000G。内容としては、乳鉢、乳棒に漏斗、ろ紙、小さな片手鍋。そして外で空腹になった時のために安い干し肉、1つ100G。これで俺の残金は300Gになった。そしてもう一つ大きな問題が発覚した。初期装備の肩掛けバックには容量の限界があるようだ。見た目とバックの口に似合わない量が入るものの、初心者調合キットと干し肉、そして矢が2セットで満杯なのだ。戦闘前の準備でバックをいっぱいにしてしまうと、ドロップアイテムも採取物もしまえないから、困るだろうに。他のプレイヤーはどうしているんだろうか。幸いなことに重量はさほど感じないから行動に支障はない。
バックに入らなかった矢3セットは空だった矢筒に詰め、やっと町の外に向かう。メニューをさっと確認すると現実では11時半だ、一度戦ってみたらログアウトして昼ごはんにしよう。
オウニム西門から出た先の草原は人が多かったので、人を避けるように歩いていると、ぐるりと町の外周を回って東門の方に来ていた。こちらは西門近くと比べてプレイヤーがほんの僅かだけ少ない。ウィズダムを習得したらそのまま西門から出て戦うからだろうか。
東門の傍は草原になっていて、遠くには森が見える。森の方も気になるが、今回は戦闘をしようと思ってたんだった。
人の獲物を取らないように、周囲を探索していると、こちらに向かってくる攻撃的ではない、ノンアクティブのウサギを見つけたので、気づかれないようちょっと離れた位置で弓を構えた。
焦らず慎重に矢をつがえると、狙いを定めて弦を放す。矢はウサギの毛皮を掠めた。ダメージが少し入ったようで、こちらに向かって攻撃を仕掛けてくる。しかしどの程度のダメージが入ったのかが分からない。敵のHPゲージは見えるけれど、攻撃の瞬間にドットが描写され直すだけで、減少が見えない。
「どうなっているんだ⁉」
動揺している間に左足に噛みつかれ、俺にダメージが入る。まだ弱いせいか、2割ほどHPが削れてしまった。
「このっ」
ぶん、と足を振り払い、そのまま後ろに逃げて、もう一度矢を放つ。しかしウサギは俺めがけて走り出していたため、ウサギの背後に突き刺さった。
「あー、もう!」
近づかれる度にタイミングを合わせてウサギを蹴り飛ばして射ることを繰り返し、奮闘すること5分ほどでウサギはやっと消滅した。矢が与えたダメージよりも蹴りのダメージの方が多いだろう。蹴りがウィズダムなしでもダメージが入ってよかった。
「長かった」
青色の粒子になって消滅していくウサギを見送り、ドロップアイテムを確認する。記念すべき初ドロップはウサギの肉と毛皮が1個ずつ。
「達成感があるな」
しかし、悲しいことにバックがいっぱいでドロップアイテムは地面に転がったままだ。……地面に落ちた生肉って衛生的にどうなんだ? ゲームだから大丈夫なんだろうか。
バックから矢を取り出し、矢筒に補充する。そして空いたスペースにウサギの肉を詰めた。皮は手で持っていこう。
今回の戦闘で消費した矢は10本。うち当たったものが5本だ。掠ったものも含めている。このウサギのドロップアイテムを売った金額が100Gに満たなければ赤字だ。矢は消耗品のため、なんとなく採算悪そうだなと思っていたが予想通り。うーん、あんまり赤字がひどいようなら、自分で矢を作ることを考えないとな。遠目に森が見えるから、材料には事欠かなそうだ。矢を作るためにはそれに対応したウィズダムが必要だから、その習得条件を満たさなきゃいけないけど。
さて、もう1匹くらい戦おうと当たりを見回すと、次も同じくウサギを見つけた。草を食むウサギはこちらに気が付いていない。今回はウサギというアイコンとHPゲージが見える。もしや、運営が主張していた知ることの楽しさってここに活かされているのか?
一度倒すことで敵の情報を手に入れる。もしや町で情報収集していれば最初から見えているのかもしれないな。
考察は後にして、戦闘を開始。ウサギは危機感もなく落ち着いて草を食べ続けているため、近づいて矢を外さないようにしようと足を踏み出した。
ウサギまであと少し、剣が辛うじて届かない範囲まで来ると、ウサギの耳がピクリと動く。それはまさに脱兎と言う速度で逃げ出したため、弓を背に戻すことなく構えたまま追いかける。
「待て!」
ジグザグに走るウサギに矢は偶に掠るだけだ。ダメージが入っているから、このまま撒かれないようにすればいい。先ほどと違ってHPゲージでダメージ量が確認できる。
矢が掠ることでダメージが蓄積し、残りHPが3割を切った頃逃げ足が鈍ってきたウサギにやっと矢を命中させ、ウサギは消滅した。ドロップは先ほどと同じ肉と皮。使用した矢の本数は17本。逃げまくられたので消費が多い。完全に赤字だ。
「弓って、難しいな」
弓の難しさを再確認した。これは手軽に爽快感を求めるプレイヤーにはあまり向かないかもしれない。
俺は逆に難易度が高くて楽しい。たぶんもっと近づいて射てば命中率も上がるし、ウサギを追うときも行き先を考えながら走れば先回りが出来たかもしれない。戦闘方法の改善策を考えるのが楽しい。それにまだ【初心者弓術】はLv.4だ。成長の余地はたくさんある。ウサギ2匹でここまでレベルが上がるとは思えないし、恐らく訓練でもわずかに経験値が入るんだろうな。
戦闘の難しさを体感したところで、そろそろ現実で昼食にしようと思う。この《ワールド》は時間変動制のため、ゲーム内の時間と現実の時間が同一ではない。ある時は現実の1時間が《ワールド》の4時間であり、またある時は現実の1時間が《ワールド》の2時間だ。大体この間の時間変動が起きているため、世界観を壊す可能性があるものの、メニューに現実の時計が表示される。
戦闘前に時計を見たときから《ワールド》では30分経過した。現実では現在は11時40分だ。現在の時間差は3時間。
セーフティエリア以外でログアウトすると《ワールド》内で3時間ほどキャラクターがその場に残り、PKやらエネミーに殺される可能性があるため、あまりしたくない。俺が知ってるセーフティエリアは町中ぐらいだから、一度オウニムに戻ろうと思う。町中ならどこでもログアウトできるからだ。
東門からオウニムに入る。東門のすぐ近くにあったNPC商店でウサギのドロップをすべて売ると、120Gだった。完全に赤字だ。対策を考えるのは後にして、とりあえずログアウトした。
キッチンの冷蔵庫を開けると昼食用のシチューは2人分残っていた。伽耶はまだ降りてきていないらしい。レンジでシチューを暖め、冷凍庫にストックしてある白米をこれまた温め、待ち時間で林檎を剥いて2欠片ほど皿に貰い、後は冷蔵庫に片付ける。
もそもそと昼食を食べていると、伽耶が階段を下りてきた。
「樹も昼か」
「うん、お先にいただいてます」
「ああ」
伽耶がキッチンで温め直している背中に俺は話しかける。
「伽耶はゲームどうだった?」
「予定通りレベル上げしつつ、次の町に走った。宗司も一緒だぞ」
「あ、ずるい。俺もフレンド交換したい」
「午後から誘おうって宗司も言ってたな。約束していると聞いた」
「そういえば、うん。宗司と約束してたな。メアド連動してたっけ?」
「VR機買い替えたばっかりだからデータ移行してないと宗司のメアドがVR機に登録されてないはずだ。メアド連動はVR機の電話帳の中身だけだぞ」
「携帯端末との同期も前のVR機だったね。食べ終わったら早めに同期してこよう。ありがとう、伽耶」
「樹はうっかりさんだからな。まあ宗司もまだメールしていないみたいだから焦る必要はない。あいつも今休憩中だし」
「あ、一緒にプレイしてたんだよね。仲いいよな」
「合理的な判断と言ってくれ」
伽耶と会話が弾んだものの、俺の方が先に食べ終わったため、洗い物までして先に部屋に上がることにした。
「それじゃあ伽耶、後でね」
「ああ」
忘れずに前のVR機と携帯端末の電話帳の同期を解除し、今のVR機に同期しなおす。これでゲーム内でフレンド交換をしていない宗司ともメールできるはずだ。
腹ごなしにちょっと部屋の中で体を動かしてからログインした。