VS突撃猪 決着
試した結果、どちらの方法で作ったポーションも今までと変わらない効果だった。品質も普通のままだ。
あとは、乾燥させた薬草を煮出す方法くらいか。……いや、ウィズダムレベルか?
あまりにもリアリティのあるゲームだから、品質は加工方法に左右されるものだと思い込んでいたが、他のゲームだと、スキルレベルによって品質が変わっていたな。
今の俺の【調合】ウィズダムはLv.5。……レベルが低いのか高いのかよくわからないが、一次スキルだろうから、きっと低レベルだ。初心者と名が付いたスキルを経由しているから実質Lv.15か?
ウィズダムのレベルの問題だったら、必要なのはレベリングと試行回数だ。
ということで、バックの容量を考えずに作りまくることにする。回復薬を入れる小瓶は勝手に出てくるから作るだけなら困らない。
ただし、元のレシピ通りのやり方だ。だから鍋はしまい、火は砂をかけてきっちり消した。
作り続けて、腰に引っ掛けた初心者用体力回復薬がベルト3本分になったころ、茂みが揺れ始めた気がして、調薬道具をバックに突っ込んだ。ベルトはいつでも動けるよう、作った端から腰に縛り付けている。
「猪か⁉」
背負った弓を降ろして、揺れる茂みに向けて構える。
奴の鼻面が出た瞬間、射ていた。猪は、ひどい鳴き声を上げてのたうち回る。そして俺はやっと、矢が当たったことに気づいたのだった。
「毒効くのか!」
ひとまずバックステップで猪との距離を取る。かといって距離を取りすぎては猪が斜めに走ってきて逃げ切れないので、奴の体3個分を意識する。
鼻息荒く猪がこちらへ敵意を向けてきたので、奴が寄ってくる前に、何本か続けて矢を放った。
怒り狂った猪は毒の痛みも気にせずに俺に向かって走ってくる。ギリギリを意識して、猪の牙が届かない程度の横を、猪に向かって駆け抜ける。
そしてすぐ振り返り、また矢を放つ。やはり、方向転換に時間がかかるようで、猪が向きを変える間は、動きがゆっくりで狙いやすい。
矢筒の矢が尽きたころ、猪がまた俺の方向を向き、地面をけり上げ始めたので、矢の補充は後回しにして、また猪に向かって走る。
今度は猪の横をすり抜ける瞬間に、奴が牙を突き上げてきたため、攻撃がかすった。
「痛った! 3割も削れた!」
それでも猪をかわせたので、次の隙でバックから取り出した矢を矢筒に補充し、ついでにベルト風に結び付けたポーションの1本を叩き割る。1本では全快しなかったので、続けて2本破壊した。
「よし。これなら何とかなりそうだ」
次の猪の攻撃を慎重に待つ。奴より早く走り出した時、横に逃げ損ねて突き上げを食らうんだろう。じりじりと駆け出したい気持ちを抑える。
猪が駆け出した。
俺も同じく走り出し、猪の突き上げをかわす。ついでにすれ違いざまに毒薬の瓶を投げたところ、猪にぶつかり、毒薬がかかる。
猪は毒に耐えかねたのか、速度を緩め、ひどく暴れだした。突き上げのタイミングが変わり、溜めもない。鼻を気にしている? ああ、悪臭付きの毒薬か! 俺の鼻はもう馬鹿になっていたらしい。けれどチャンスには変わりない。
「今か!」
身を翻して連射する。通常攻撃しかないけれど、ダメージが入ってることがわかる。軽く突き刺さるだけで猪の動きと共に落下していた矢が突き刺さったままの状態となっている。
猪は方向転換を終え、白い息を漏らしつつも突進を開始する。あと少し、あと少しのダメージで勝てる。俺はいざとなったら横に飛びのけるように足に力を籠めつつ、その場で矢を射かけ続けた。矢がいくつも突き刺さりハリネズミのようになった猪は、俺にたどり着く前に、とうとう動きを止め、ドスンと横倒しに倒れた。奴は青い粒子となって消滅し、地面にドロップ品が落ちる。
「やったー! 勝った!」
喜びに浸り、空き地でくるくる浮かれていた俺は、はっ、と正気に戻る。
「……誰も見てないね」
周りを確認して、自分の奇行が見られていないとわかり、ほっとした。さて、ドロップ品はなんだろうか。
「突撃猪の塊肉、と牙か。……オウニムの秋の名物はトツゲキ焼きだっけ。今は時期いつなんだろう」
素材の持ち込みで料理作ってくれる店があればいい。あの何度も痛い目にあわされた猪の初ドロップだ。売るのは少しもったいないし、あとトツゲキ焼きの味が気になる。
ぐう、とちょうどお腹が鳴った。これ持ち込んだら料理を作ってもらえるだろうか。
ドロップアイテムを持ち上げると、すこし悪臭がした。生肉だから……だといいんだけど。
「≪鑑定≫したほうがよさそうだね」
突撃猪の塊肉は毒状態だったし、牙にも悪臭が付いていた。……これ、売れる?
「あー、かろうじて勝てたけど、やっぱ黒字にはならないかー」
気が抜けて、俺はその場に座り込んだ。
あれからゲーム内時計で数時間。何度目かの猪狩りに俺は挑戦していた。
やはり突撃猪を狩ったドロップアイテムはいい金策になるのだ。ポーションよりも高く売れるしバックも圧迫しない。ただ、毒を使うとドロップアイテムが劣化する場合がある。ならば、毒なしで倒すしかない。
今回は初めから猪狙いのため、奴が来るまで梢の上で待った。猪が俺に気づいて寄ってくるか、この木から狙える場所を通りかかったら、弓で攻撃。枝から落ちたら後は逃げつつ攻撃という行き当たりばったりの作戦だ。
ただし、最初の戦いとは違い、数回の毒と弓を用いた猪との戦いで【弓術】のレベルが上がり、武技をいくつか手に入れたから、今回こそ毒なしで倒せる、はず。
トツゲキ焼きが食べてみたいからなぁ。毒なしでどうしても倒したい。まあ倒せるまで繰り返せばいいことだろう。
【鳥目】のパッシブの武技で俺の焦点に対して拡大して見ていると、突撃猪が通りかかる。
「<狙撃>」
つい先ほどレベルアップした【弓術】Lv.5で覚えた武技だ。猪に気づかれる前に一射目を放つ。
運よく矢は首元に当たったらしい。突撃猪の上に浮かぶHPバーは三分の一ほど削れている。
「さすがは急所」
怒りだした猪がこちらに向かってくるので、続けて矢を放つ。2本ほど外れて3本はかすった。猪は木に体当たりを始めたので、弓を両手で扱う俺は木にしがみついていられない。早々に諦めて猪の真後ろに飛び降りる。
「<急所狙い>!」
後は地道に猪の体力を削るしかない。武技を発動して、猪にダメージを与えていく。奴が方向転換するまでに3射。あまり稼げなかった。
駆け出す猪の横に飛び、続けて武技を発動する。
「<移動撃ち>」
これで3射までは俺が移動しながら射ても、命中率がそこそこ上がる。ホーミング機能ほどではないから、掠る程度だけれど、ダメージは入る。
あと残りは1割弱。猪は白い息を吐きだして、激怒状態のモーション群だ。連続攻撃が増えるので、攻撃のタイミングがつかみにくい。しかしここで焦るとやられるのは俺の方だった。
うまく距離が離せない。ギリギリの感覚で逃げるのに精いっぱいで弓の取り回しが辛い。
せめてもの攻撃として、猪が俺の横を通り過ぎるタイミングで奴を蹴り飛ばすと、奴は少し横に押し出され、青い粒子となり始める。
「ありがとう通常攻撃」
本当にウィズダムなしのパンチキックに攻撃力を与えてくれた運営に感謝したい。また俺は蹴りによって勝利したのだ。
ドロップアイテムはちゃんとした肉と牙。さんざんっぱら鑑定したせいで説明文は右から左に流れていく。毒も悪臭もなければそれでよかった。
その後、狩の片づけとして毒あり肉の処分に困り焚火で燃やしていたら、上空を飛んでいた名前も種類もわからないワシが毒の煙にやられたのか落ちてきて、落下ダメージで羽がドロップした。
そしてオウニムに戻り、通常品質のポーションをツチヒさんに卸した際に、ツチヒさんに持ち込み素材を料理してくれて、トツゲキ焼きが食べられるNPCの料理屋を聞いたところ、「釜ノ中」という店を教えてもらった。空腹になってきたので、ツチヒさんの露店を出てすぐ向かったところ、ちょうど昼前だったようで、飛び込みでも持ち込み素材の料理を受け付けていた。
釜ノ中は大衆食堂のような店で、客が入れ代わり立ち代わり訪れ、にぎやかだ。
料理を待つ間店を見ているが、店員はみな西洋風の彫りの深い顔立ちで、オウニムの街並みからしても恐らくヨーロッパがコンセプトのはずなのに、なんでこの店は日本風の名前なんだろうか。
いや、入店前に見た看板は相変わらず読めない言語だったから、この都市のコンセプトには反していない。ツチヒさんに口頭で名前を聞いただけだから、もしかしてカタカナかひらがなかもしれないな。言葉を聞いたら、頭で漢字変換して認識しているから、俺のイメージと実際の雰囲気が違ってもおかしくはない。
うーん、初心者用体力回復薬の品質を上げる方法を探すためにも、他の薬のレシピを探すためにも、世界観や雰囲気を楽しむためにも【言語学】ウィズダムは取得した方がいいかもしれないな。
ゲンドーさんから受けた薬の作成クエストだって、ヒントの欠片すらつかめていない。せっかくレシピを書いてもらったけど、読めないし。この街には小さな図書館もあるから、そこに【言語学】のクエストか、レシピの素材について何か情報があるかもしれないな。
ぐうぐうと腹が鳴る。何か先に注文しようかな。いやいや空腹は最高のスパイス。HPが削れるほどでもないしもうちょっとの我慢だ。
向かいの席には昼から飲む冒険者らしき人達がいる。もしやここはゲームでよくある冒険者の酒場も兼ねているのか? ちょっとわくわくしてきたな。武器を持ち、街の人よりしっかりとした服のような装備をつけている男たちがわいわい騒いでいる様子を眺めていると、ウエイターさんが俺のいるテーブルに大きめの鉄板が運んできた。
「お待たせしました。トツゲキ焼きです」
「ありがとうございます」
熱々の鉄板の上に野菜が敷かれていて、その上にどん、とステーキが乗せられている。肉から出た油で野菜はしみしみで、すごくおいしそうだ。ソースには小さめの茸が使われているのが分かる。もしや噂のブラウタケかな?
「いただきます」
ナイフを差し込むと、そのステーキの厚さに対して滑らかに刃が入る。一切れ口に運び、かみしめると、じゅわ、と肉汁が染み出る。ソースも複雑でまろやかな味だ。まろやかなくせに、猪肉の臭みと油をかき消す強い香りがする。
夢中で食べつくし、満腹で大満足の俺は気分よく会計した。
店を出ると、オウニムの町は快晴。晴れ晴れとした昼だった。俺は迷わず街の東門へ向かう。
「さーて、金策するか」
へっぽこ射手兼見習い薬師ユツキくんの金策はまだまだこれからだ!
1章完!
最後駆け足だったけど、何とか終わりました。
2章は章が書き終わった後に投稿しますが、大分期間が開きそうです。
1章書き始めたの2017年だからね。
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