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露店の武器屋と毒薬バージョンアップ




 オウニムの町はプレイヤーの開始地点だけあって昼も夜も門が開いている。俺はどっぷりと日が暮れたころにやっとオウニムに戻ってこれた。

 あの猪はしつこい。ゲーム内時計で2時間ほどドスドス木に体当たりをされ続け、もうログアウトしようかな、と思うほどだった。というか、結局猪がいなくなったのは別のプレイヤーを察知したせいだ。木々と茂みの隙間から微かにプレイヤーが何人か見えた。俺のウィズダムで上がっている視力でも微かに見える距離なのに、あの猪は存在が察知できるのだから、相当鼻がいいんだろうな。とりあえずタイムリミットでターゲットが解けるタイプではないようだ。

 運よく猪に踏みつぶされなかったポーション瓶の蓑も回収できたことだし、数が少ないがポーションを売ろう。急いでゲンドーさんの薬屋に行くと、残念なことに閉まっている。

「閉店時間聞いとけばよかったな。これ、どうしよう。別の店で売るかな」

 開いている店を探して街をそぞろ歩く。うん。やっぱりプレイヤー商店はどこも夜でも開いている。けど専門外のプレイヤー商店でポーションは買ってくれないだろうな。ポーションを扱っている店を探しつつ、北大通り付近のプレイヤー露店通りを歩いて冷やかしていると、声をかけられた。声の主は屋台で武器を売っている女性で、剣や斧を陳列した机の上に身を乗り出している。

「ねぇ、そこの変なポーションの運び方をしているあなた、それ売るつもりはない?」

「え、俺?」

「そうそう」

 間違いなく俺を呼び止めたようだった。渡りに船だ。取引をしようと彼女の屋台に近づいた。

「いきなりで悪いね。ちょっとポーションが必要なクエストやってるから、もしよければそのポーション、私に買い取らせてもらえないかな」

「いいですよ。こっちも助かります」

「わ、話が早いね。ありがとう。君、薬師?」

「はい」

「珍しいね、薬師はβ終わってから全然見ないよ」

「そうですよね。何かβであったって聞いてますけど、ここまで薬師やるプレイヤーが少ないとは思いませんでしたよ」

「あー、薬師詐欺騒動が有名になっちゃったからなのかな? まあ薬師自体ちょっと最初が面倒なジョブだから、選ばないのかもね」

「確かに。生産道具どれにすればいいかとか全然わかりませんでしたね」

「やっぱり? このゲームそこんとこ不親切だよね。私も鍛冶師始めた時、どこで作業しようか悩んだね」

「わかります。今俺絶賛それで悩んでます。どこで作業してたか聞いていいですか?」

「参考になるかなぁ。私は入門クエストで師事したNPCのところでお金払って当分間借りしてたよ」

「入門クエストですか?」

「お、修羅の道を行く独学派ちゃんなのかな?」

「あ、いえ俺これでも男なんですけど」

「冗談はよし子さんよ。独学派もロマンがあっていいわよねぇ」

 あっさり流された。もうすこし俺が男ということについて主張したいが、この外見じゃ信じられないのもまあわかる。あとは入門クエストについて聞いておきたい。

「そもそも入門クエストについて知らないんですけど、生産職の導入クエストってあったんですか?」

「フラグが必要だけど、あるよ。専門のNPCに弟子入りしてスキルを手に入れるクエスト。薬師はフラグがとっても面倒だからそこ吹っ飛ばしたタイプだと思ったけど、もしや知らなかった?」

「はい」

「そりゃあ大変だね。で、欲しいのは初心者用HPポーションなんだけど、10本ある?」

「ありますよ。初心者用HP回復ポーション1本で150Gで計1500Gになります」

「……定価ね。OK、買うわ」

「ありがとうございます。今出しますね」

 薬瓶腰蓑の縄をほどいてポーションだけを手渡す。代わりに彼女は金の入った袋を取り出した。代金を受け取って、バックに入れる。すると金袋は消え、インベントリの所持金が加算された。

「あら、品質いいわね」

「NPC作と同程度ですけどね」

「プレイヤーメイドじゃ粗悪が普通だからね。よし、これでクエスト完了できるわ。……もし品質が普通以上の初心者用HPポーションが出来たらうちで買い取るから、ぜひ来てね」

「え、見たところ、お姉さん武器屋ですよね」

「ツチヒでいいわ。そうよ。武器がメインの鍛冶師なんだけど、武器と一緒に消耗品買ってく人も多いのよ。だから狩りに使いそうな消耗品を仕入れたいんだけど、NPC商店のものは流通量が決まってるから、うちの店に置くために買うと一般プレイヤーが買いにくくなる気がして、気が引けるのよね。だから、消耗品作ってる生産系プレイヤーには声をかけてるの。……君が1人目だけどね」

「俺としてはまだ露店も出せないしありがたいです。品質高いポーションが作れるようになるのがいつかはわかりませんけどね」

「今の時点で十分売り物にはなるから、心配はいらないわよー。じゃあ交渉成立ってことで、フレ交換しましょうか」

「ええ」

 申請を許可して、フレンドリストにツチヒさんが登録された。

「うん、ウツキちゃんね」

「読みにくくてすみませんがユツキです」

「おっと、了解よ」


 ツチヒさんの店を軽く見せてもらったが、弓は売っていなかったので、買うものもなく俺は屋台を離れた。ツチヒさんの店はもうすぐ店舗になるらしいが、もうすこしあの場に露店を出し続けるらしい。たまに売りに行こう。



 ログアウトの前に、ゲーム内の深夜でも開いているNPC商店を物色していこうと思い、俺は中央広場にある大きな店に入った。

 そこには冒険に必要な品の数々が置いてある。俺は、消耗品コーナーではなく、野外活動に使用するアイテムが陳列されているエリアを歩いていた。すると、たいまつやランタンのそばに、手のひらサイズの袋が置かれていた。箱の中身と思われる何点かの道具が同じく並べられている。角のある石に、金属片。そしてふわふわした繊維のようなもの。そして小さめの木。

「これは……火打ち袋か!」

 たしか小学校の遠足で訪れた資料館にこんなものがあった気がする。いや、あれは箱だったか……? このご時世なら資料館なんてVRでいいだろと批判されることもあったが、俺の通っていた学校は実際に体験することに重点を置いていたため、学年全体で、ずっと昔の時代の資料館に行ったのだった。……博物館だったかな?

 懐かしい思い出はともかく、火打ち袋である。これがあれば火が起こせる。火さえあればとりあえず毒薬を煮詰められるんじゃないか?

 焚火って火力が安定しないイメージがあるけど、まあ今のトトモモドキを潰しただけの毒薬よりはましなのができるはず。それに、アルコールランプ買っても火付けができなければただの荷物にしかならない。

 どうせなら、漫画とかアニメで、野宿の時に使ってる焚火に鍋を吊るす道具があればいいけど、持ち運ぶにはでかくて邪魔になるかもしれないな。バックに入らなさそうだし。

 1番安い火打ち袋の値段は3500G。全財産叩けばギリギリ買える。よし、買おう。

 火打ち袋を買って満足し、店を出たところで、ログアウトした。



 夕飯まで少し時間があるので、洗濯ものを取り込むついでに屋上で体を動かす。我が家は2階建てで、1階に風呂、キッチン、客間、リビングがあり、2階には、俺たち双子の部屋と空き部屋がある。そして3階はほぼ階段のみで、屋上となっている。ベランダにも洗濯物を干せるが、屋上の方が気分がいいので、俺は屋上を使うようにしている。

 洗濯ものを畳み、先に風呂に入る。汗を流して、リビングで火打ち石の使い方やサバイバル術を調べていたら、伽耶が降りてきた。

「あ、伽耶。今日は焼き魚だから」

「……そうか。じゃあご飯をよそっておく」

「助かる」


 夕食の間に、お互いのゲームの状況の話をする。

「そうか、樹はセイドの森の猪か。あいつは手ごわかったな」

「やっぱりあいつってボスなの?」

「リポップするという意味ではボスに近いが、どっちかというとネームドモンスターだな。セイドの森の浅い場所でうろついてる。特にPLの感知能力が高くて、遠くから寄ってくるんだ。低レベルのソロで攻略するのはちょっときついが、樹なら猪の動きに慣れれば何とかなると思うぞ」

「そっか。なら地道に頑張るしかないよね。伽耶の方は進んでる?」

「ああ。2番目の町を出たくらいだな。スキルも2次スキルが取れるようになってきた。次は装備を作りたいと思っている」

「流石」

「強い敵と戦うのは楽しいからな。どんどん進んでいるんだ。樹は生産してるんだったか。店とか作るのか?」

「うーん、まだまだ無理そう。まだ安定して作れるの回復ポーションと毒薬ぐらいだし」

「そうか。……回復POTが量産できるようになったら買いに行くよ」

「まいどあり。ってまだ先だと思うよ。バックが初期装備だからぜんぜん作ったポーションが入らなくって、金策も進まないし」

「序盤あるあるだな。戦闘職だと高いドロップ品を優先して持ち帰って大きいバックを買うまで凌ぐやつが多い。俺も早々にマジックバックを入手するために先を急いでるってところもあるし」

「伽耶もまだマジックバック持ってないのか。じゃあ俺が手に入れるのは当分先だな。大きい鞄を狙うことにする」

「それがお勧めだ」

 夕食後の片づけは伽耶に任せ、俺は先に自室に上がった。

 学校の課題を先に片付ければ、あとはもう自由時間だ。3連休もまだ2日目。あと1日はゲームに時間をつぎ込める。

 ベッドに横たわり、ログインした。



 《ワールド》は夜であった。ログアウトした商店の前から開始だったので、急いで道の横に避ける。

 今回も続けて金策をする。あと火がつけられるようになったので、トトモドキを煮詰めてみよう。

 ああ、それとゲンドーさんから受けた依頼の薬について確認しておこう。


〔クエスト:3つの薬〕

汎用毒消し 0/1 作成

スタミナタブレット 0/1 作成

魔力回復薬 0/1 作成

汎用毒消し、スタミナタブレット、魔力回復薬をゲンドーに渡す 0/1


 どれも知らない薬だ。でも、魔力回復薬は需要がありそう。何が材料になるんだろうな。ゲンドーさんから貰ったレシピの方に材料が書いていないか見てみたが、字が読めない。やっぱり、【言語学】がないと立ち行かないのか……? ひとまずは猪対策をしたいから、置いておこう。


 さっきと同じ森の中の小川に行く途中にあるトトモドキを摘んでいく。梅に似た形で毒々しい紫の実を20個ほど集めて、バックにしまう。ついでに焚火に使えそうな枝や枯れ葉も集めておいた。実がまだ熟していないトトモモドキを採取しようとしたら、実をつけている蔦ごと千切れ、腐敗臭に似たひどいにおいが手についた。

 これ、毒薬に仕込めたらいいのに。突撃猪は鼻が良いそうなので、強い香りがあれば奴が混乱するんじゃないか。少なくとも逃げる途中に使えば、こっちの匂いが分からず追われないかもしれない。

 トトモモドキの蔦を一本引き抜いて持っていく。俺が両手を伸ばした時ぐらいの長さだ。ちぎった蔦の先が臭いのでバックには入れない。

 小川につくと、蔦を置いて、いったん手を洗ってから、トトモドキを1個ずつ乳鉢でつぶして、種や皮を取り除く。5つ分の果汁を取り出してから、手鍋に移す。

 毒薬作りに急いでしまったが、先に火をつけておけばよかったな。

 鍋はひとまず横に置き、火打ち石を使って火種を起こし、焚火を作る。結構難しく、火種から枯れ葉へ、枝へと燃え移らせるのに何回か失敗してしまった。

 なんとかできた焚火で、手鍋を温める。うーん、ずっと焚火の上で鍋を持っておくのが面倒だな。やっぱり三脚とか置く場所が欲しい。

 温まっていく手鍋を見つめ続けて数分。濃い紫色の液体が沸々としはじめた。そのまま水気を飛ばしていく。

「完成」

 少し焦げた匂いがするくらいで鍋を火から離し、小瓶にドロドロの液体を注いだ。


毒薬Lv.1 高品質

トトモドキを煮詰めた毒。継続的に3のダメージを与える。継続時間3分。


 品質が上がった。ダメージ量は変わらないけど、継続時間が伸びている。品質でダメージ量が増えてほしかったんだけどな。

 まあ前の毒薬よりもドロッとしてるから矢じりに塗りやすいだろう。

 手持ちの矢を取り出して、矢じりに毒薬を塗布する。5本の矢じりに塗ると1瓶使い切るくらいの量だ。矢筒1つ分の毒矢を作り、すぐに使えるように毒矢を背負った矢筒にしまった。

 残ったトトモドキもすべて毒薬にしておく。瓶のまま投げつけてみるってのもいいかもしれないと思ったからだ。ただし、ポーションベルトにすると万が一割れた時に俺にダメージが入るので、バックにしまおう。

 トトモモドキの蔦のことを忘れていた。うーん、どうやってこのにおいをつけよう。すりつぶしたらいいのか? ぶちりと蔦をちぎったときに滲む透明な液体が酷いにおいを放っているようだから、これを毒薬に入れればいいか。

 いくつかの毒薬の瓶のふたを開け、瓶の上でトトモモドキの蔦をちぎっては滲む液体を垂らした。量があまり出ないため、手は触れないように蔦の先だけを瓶に入れて混ぜてみたり、試行錯誤する。

 しかし、持ってきた蔦をバラバラにちぎり、毒薬が悪臭を放つ頃には、俺の手もひどいにおいとなっていた。

「うえ、気持ちわる。手袋とナイフ、せめて消臭剤が欲しい……」

 早く鼻がマヒすることを願って、終わり次第じゃぶじゃぶと手を洗った。手が冷え切るまで洗ったから、少しはましになっただろう。

 瓶に蓋をして、≪鑑定≫したところ、効果としては先ほどと同じ。ただし、説明文に悪臭効果があるという記載が追加されていた。

 後は猪が来た時に毒薬が効くかやってみよう。毒薬を厳重にバックにしまう。トトモドキは使い切ったので、猪がやってくるまでは金策に励むことにする。

 俺は、使った器具を軽く洗い、片付けた。




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