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5 お父様!たいへ……え、大変なんです?何が?

 落ち着くためにサロンで用意したお茶を一人で飲みながら、無意識にいくつ目か分からない焼き菓子を口にしていた。


 思い出すだけで胸の奥が熱くなる。あの笑顔で、いつでも何かこれと決めたら成し遂げる幼馴染が、帰ってきた。


 でも、笑わなくなったし、彼の身形は貴族の私でも揃えてしまえば家が傾きそうな程高価なものになっていて、しかも実家でも領内の街でもなく、隣の領で暮らすという。


 意図も素性も意思も読み取れないし教えてくれない。なのに、約束を果たす、と言った所だけ変わらない。


 ひどい人だ。対応は優しいけど、やっている事が何も優しくない。もっとちゃんと自分の今を話してからプロポーズしてくれないと……、いえ、冒険者と結婚する、といったらお父様も反対する。


 お父様は私の誕生日のために今帰路についている筈だ。明後日だから、明日には帰ってくる筈だと思うのだが、はやく相談したかった。


 でも、私はお父様に「それは認められない」と言われたら諦められるんだろうか? きっと無理だ。私の心はずっとヴァンツァーにあって、ヴァンツァーも私を想って……、あれ、想ってるのかな?


 ちょっと分からなくなってきた。約束したから、とかでヴァンツァーは平気で今の自分の心を殺しかねないぞ。何せ、これと決めたらやり遂げる所だけは今も変わっていないみたいだし。


(分からなくなってきた……)


 一人で悶々と考えているところに馬のいななきと慌ただしい声と音が聞こえて、バタン! と大きな音を立ててサロンの扉が開いた。


「あら、おかえりなさいお父様。どうされたんですか? たいへ……」


「大変だミーシャ!」


 んだったんですよ、と言う私に被せてお父様が叫んだ。ビックリして私がお茶ごと言葉を飲み込むと、肩で息をしているお父様が血相を変えて近付いてきた。


「と、隣のシェリクス領に、領主が入った……騎士爵と同時に功績から男爵位と領地を受けた冒険者なんだが……、私も叙勲式には参列したが、見違えたぞ」


 私は背中に伝う嫌な汗を感じた。まさか、と、そこまでする? が、同時に襲ってくる。


「ヴァンツァーだ。お前の幼馴染のヴァンツァーが、生きる災害と呼ばれていた晩秋のドラゴンを一人で倒し、騎士として、そして、貴族として帰ってきた!」


「………………」


 そこまでする? と、想った瞬間私の頭の中は真っ白になった。


 ドラゴンは災害級の魔物だ。まして、晩秋のドラゴン。


 秋の収穫時期にやってきて国を荒らし回る厄介なドラゴンで、何度も討伐隊が組まれたが、普段は登るのさえ険しいと言われる岩山の山頂に住んでいる。ドラゴンの生態はあまり解明されていないが、物を食べるのではなく、命を吸って生きていると言われている。だから、秋の収穫時期の麦や、人手の薄くなった所で家畜の羊や牛を焼き殺してその命を吸って生きている、らしい。


 今は初夏。秋が来る前にヴァンツァーはそれを倒した。確かに、年に一度の『食事』の前ならば弱ってもいるだろうけど……。


 単騎でそれを倒す? 馬鹿なの? 死んだらどうする気だったのよ。


「という事は、ヴァンツァーは……」


「ヴァンツァー・シェリクス男爵。いや、シェリクス卿と呼ぶべきか……とにかく、大変な事になった」


 ヴァンツァー、そういう大事なことはプロポーズよりも前に言ってちょうだい。


 私はさすがに許容量がオーバーして、ソファにフラリと倒れ込んだ。

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