13 誕生日パーティー
ヴァンツァーと馬車の中で少し冷めたホットドッグを食べた。少しでも楽しい話がしたかったが、腰を落ち着けてしまうと先程の恐怖が蘇る。
小さく齧り付いたホットドッグのソーセージは皮がしっかりしていて、中のお肉が粗みじんで歯応えがあり、スライスオニオンとの取り合わせがよくて気付けば普通に齧り付いていた。
ヴァンツァーも気に入ったのか、元々一本じゃ足りないと踏んで2本買ってきていたものをぺろりと平らげた。
「ふふ……、うちのシェフがかたなしね? そんなに食べて、ご馳走が入るの? ヴァンツァー」
「まだ足りないくらいだ。腹に余裕はあるぞ」
無表情なのによく食べて、軽口も言う。帰ってきてから感じていた、この人は私の知ってるヴァンツァーだろうかという疑問は氷解している。
私の知ってる、そして、私の手を引いてくれた、ヴァンツァーだ。
あの飛び石を一人では飛べなかった時と同じ。助けてくれる。でも、私にやらせてくれる。
警備兵に自分の身元を明かして無理やり働かせる事も出来たろう。怒りに任せて殺してしまうことも。私の前では、きっとやらないだろうけど……そういうことをして生きてきて、地位を得た。
でも、私を手伝うだけにしてくれた。守るだけ。踏み出すのは私、と、ちゃんと手を引いて待ってくれる。
今日私は20歳になった。ヴァンツァーがいないと何もできないミーシャではダメだ。
今回の件は私もちゃんと動こう。そんな事を考えていたら、家に着いた。
ストールを巻いて馬車を降りた私とヴァンツァーを、馴染みの領民やお父様、使用人が迎え入れてくれる。
お父様には後で話すことにしよう。
焚き火を焚いて、ご馳走を並べたテーブルが置かれた庭へ、ヴァンツァーを引っ張っていく。ヴァンツァーの家族もいた。
「お嬢様、お誕生日おめでとう!」
「おめでとうございます! さぁさ、さっきうちで絞めたばかりの鳥もありますよ!」
「おめでとうございます!」
あちこちから聞こえる声に私が笑顔で応えて、ヴァンツァーを彼の両親の元に連れて行く。おい、と焦ったように言われたが無視だ。
「あなた、まだちゃんと帰ってなかったでしょ。お腹いっぱい食べながら、ちゃんと話しなさい」
「……わかった」
ヴァンツァーの手を離して、背中を押す。彼は、こういうのが苦手だ。こうと決めた事を貫いて、それが正しくても誰かにとって間違っていることもある。
選んだどちらも間違いではないけれど、今回の場合は帰らないのも話さないのも間違いだ。それと向き合うのが苦手らしい。私は、その時彼の背中を押してあげられる。
誕生日パーティーは夜遅くまで続き、領民の皆んなと一緒に楽しんだ。
今は、楽しいのを選ぶ時。
ヴァンツァーが挨拶もなく帰っていたことに、私は気付かなかった。




