6 恋のハリケーン
その少女はモスグリーンのツナギを身にまとっている。
膝と肘にはプロテクターをつけている。
ショートカットの髪は木漏れ日の下で濃いめのピンク色に煌めいている。
頭は小さく、ダブついたツナギのせいで詳しくは分からないが、スタイルは悪くない。
一見すると、機械の整備しか何処かの兵隊のようにも見える。
そんな想像を否定するのは、彼女の腰にぶら下がる長剣だった。
まるでコスプレにしか見えないそんな出で立ちも気にならず、僕は少女を見つめた。
一言で言うと可憐。
無骨な衣装が少女の儚げな美しさを際立たせている。
青い瞳が僕の右手に向けられ、髪と同じピンクの小さめの唇が開くまで、僕見惚れていた。
「いくらだ?」
ボソリと呟くように言う少し高めのその声は、見た目通りの愛らしいさであった。
「え?」
少し遅れてその言葉の意味を理解するが、理解できない。
「それ、いくらだ?」
再び彼女が問いかける。
彼女の目線から、それの指す物が、右手にぶら下げた機械の化物だと分かる。
「えーと」
愛想笑いを受けべながら、とりあえず声を出してみると、少女は不機嫌そうな表情を浮かべた。
「ついて来い」
短くそう言って踵を返したその背中を、僕は慌てて追いかけた。
機嫌の悪い少女に声をかける事が躊躇われ、揺れるピンクの頭を見ながら黙々と歩く。
歩きながら、目を背けていた自分の異常さについて考える。
この数日、薄々気付いていたのだが、どうも精神状態がおかしい。
元々人付き合いも少なく、他人とコミュニケーションをとることも少ない生活をしていたが、これほど無感情ではなかった。
逆に、表情や口には出さないが、頭の中での喜怒哀楽は激しい方だと思っている。
素直に感情を出しすぎた結果、友人が少なくなったのだ。
それがどうだ。
こに数日意味のわからない状況の中死にそうな体験をしたにも関わらず、心の動きは平坦だ。
多少のざわつきがあるものの、諦観に近い感じでこの異常自体を受け入れている。
おかしい。
確信したのは、今僕を先導している少女を見た時だ。
こんな美少女に声をかけられて素直に行動できる自分などあり得ない。
以前の僕ならば、受け答えは先ほどのように不明瞭な返事をしながら、心中では恋のハリケーン的な物が巻き起こっていたはずだ。
おかしい。
そしてこのおかしいと思う現場認識に対しても、恐怖や焦る感情が浮かんでこない。
ただ坦々と足を進めるだけなのだ。