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怪傑!OLレンジャー☆ごくごく普通の働き女子が迷惑なあいつをこらしめる!  作者: 高山流水(高山シオン)
OLレンジャーの友情!三樹の明日はどうなる?

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 三樹は目覚めた。薄暗い部屋の中、カーテンの隙間から細く差し込む光が、朝の訪れを知らせていた。とうとう、ひとりぼっちで迎える土曜日の朝が来てしまった。一週間前、OLレンジャー仲間たちとはしゃいで過ごした時間が、桐生とすごしたトキメキの瞬間が、もう果てしなく昔のことのように思えた。


 桐生から告げられた言葉を思い返し、胸が痛んだ。


(あんなに酷いこと、言わなくったって……)

 三樹の心は乱れていたけれど、それを隠して仕事をするので、ひどく消耗した。昨夜は、宿さんと飲んだおかげで、少しだけ気が晴れたけれど、こうしてひとりぼっちの朝を迎えると、やはり言葉にできないぐらい寂しかった。


 カーテンを開けず、電気もつけず、ぼんやりと天井を見つめたり、うとうとしたりを繰り返していた。なんとなく、空腹感があるような気もするけれど、何かを食べたいという気持ちが起こらない。SNSなんかを見れば、充実した人たちのつぶやきで溢れかえっていて、いたたまれない気持ちになってしまう。テレビのバラエティ番組のにぎやかさも、今日は苦痛にしか感じられない気がした。


(私って、恋愛に向いてないのかも……)

 三樹は寝返りを打った。

(親の前で、結婚してやるって言いきっちゃったけど、やっぱり無理かもしれない)

 両親は、どんな顔をするだろうか。三樹の口から、とてつもなく大きく深いため息がもれた。その時だった。 


 インターホンが鳴らされた。


(え?うち?)


 もう一度、はっきりとインターホンが鳴った。


(うそ、誰だろう?)


 通販なども頼んでいないし、約束もしていない。一瞬、ドアの外に桐生が立っている光景を想像したが、すぐに掻き消した。

 怪訝に思いながらインターホンのモニターを見ると、そこに映っていたのは、さくらと和泉だった。大急ぎで玄関に行く。寝間着と部屋着とを兼ねた、だらしない恰好のままだが仕方がなかった。


「急に、どうしたの?」

 ドアを開けながら、三樹が2人を交互に見た。


「先週、さくらさんのお宅に集まったので、今週は、ほら。順番的に言って、三樹さんのお宅でしょう」

 和泉が眉ひとつ変えずに言う。その隣で、さくらは明後日の方角を見て、しらばっくれた表情をしていた。かと思うと、

「荷物、重ぉ~い!おじゃましま~す!」

などと言いながら、部屋に上がり込んできた。両手に大きな手提げをぶら下げている。和泉も、やはり同じように荷物をぶら下げていた。


「言っておいてくれたら、もうちょっと片付けておいたのに」

 三樹も慌てて部屋に戻り、カーテンを開けて部屋を明るくした。昨日、無気力に脱ぎ散らかした服も、大急ぎで洗濯カゴに突っ込んだりして。


「って言うか、三樹ちゃん!OLレンジャーの呼び出し、ぜんぶ、あたしたちの方に回って来て大変だったんだからね!」

 さくらがふくれっ面になった。


「あ、ごめんなさい……」

 三樹が頭を下げる。桐生から別れを告げられて以来、OLレンジャーの呼び出しに応じる気力が完全に無くなっていた。つまり、その分、他のふたりに負担がかかっていたということだった。


「さくらさん。今は、それを言う時ではありませんよ」

 和泉がなだめるように言った。

「ただ、三樹さん。さすがに、何かあったのではないかと、心配にはなりました。それで、様子を見に来たという意味あいもありまして、こうしてお伺いしたんです。……何かありましたか?私たちで良ければ、話をお聞きしますが」


 その横で、さくらも大きく何度も頷いた。珍しく、真剣な表情をしている。


「え?そんな……大したことないよ……」

 三樹は笑顔をつくって、ふたりを見た。けれど、ふたりと目があうと、気持ちをごまかせなくなって、俯いてしまった。さくらと和泉は、お互いに顔を見合わせた。さくらが(やっぱり言う?)と、口の形だけで和泉に言い、和泉が顔を横に振った。


「三樹さん」と、和泉が彼女にしては珍しい明るいトーンで言った。「私たち、駅前で、あれこれと美味しそうなものを買って来たんですよ。どうせ、三樹さんのことですから、まだ何も召し上がってないだろうと思いまして」

「そうだよ!あたしたちで選んだんだからね!絶対においしいんだから!」

 さくらと和泉が、袋の中から取り出したものを読み上げて、小さなテーブルの上に広げていく。サラダに、ボリュームのある総菜に、ご飯もの、和洋のスイーツにスナック菓子まで出てきた。三人がかりでも食べきれるかどうか、というボリュームだった。


 三樹の前にも、強制的に箸が置かれた。かと思うと、「いただきまーす!」などと言って、さくらは遠慮もなく食べ始めた。


「うわぁ~!やっぱり、これおいしい~!」と、ほっぺたを抑えている。

「ではでは、私はこちらをいただきましょう!うん、これも美味しいですよ、三樹さん?」和泉も、もりもり食べ始めた。


 三樹は頑なに俯いていたが、やがて、その腹の虫が、けっこうな音で鳴いてしまった。さくらと和泉が手を止め、三樹が真っ赤になっているのを見て、笑い出しそうになるのを堪えた。ふたたび、三樹の腹の虫が鳴く。


「あぁもう!私もいただきます!」三樹が座り直すと、

「そう来なくては!」と和泉が頷き、

「ほらほら、いっしょに食べよ!」と、さくらが箸を持たせてきた。


 ひと口、美味しいものを食べたら、さらに食欲がわいてきたらしかった。三樹は食べ、体が少しずつ温まってくるのを感じ、また食べ、涙がこみあげて来るのを堪えた。ふと見ると、さくらと和泉が、心配そうな顔で、三樹の顔を見つめている。


「どうしたの?」と、三樹は聞こうとして、涙で言葉が途切れてしまった。さくらがそっと寄り添って、三樹のことを抱きしめた。和泉は、三樹の頭をぽんぽんと撫でている。


 三樹は、さくらの腕の中でしばらく泣き、少しずつ傷を癒そう……としたら、また、腹の虫が鳴いてしまった。ちょっと美味しいものが入ってきたので、胃袋が元気に動き出したらしい。さくらが笑うのを堪え、小刻みに震えている。それが、三樹にも伝染していったらしい。とうとう、泣いていられなくなって笑い出した。3人そろって泣き笑いし始めた。


 さくらと和泉は、またお互いに顔を見合わせた。そして、ニヤリ……と、ちょっと悪い笑みを浮かべた。


「三樹さん、実はこれもあるんですよ」

 和泉が悪徳商人のような笑みで取り出したのは、ワインのボトルだった。

「グラスとってくるねー!」

 さくらがキッチンに向かう。


「まだ昼間なのに」

 三樹が目を丸くすると、

「だから、良いんですよ?」

 と、和泉が眼鏡を光らせた。


 このあと、三樹はワインで酔い、月曜日に突然に恋人から別れを告げられたことを二人に話した。二人は顔を見合わせて、さもビックリしたという顔をし、大いに三樹を慰め、これでもかとばかりに男の悪口を言った。さくらや和泉のほうが、三樹よりも怒っている感じすらした。三樹は、また泣き、怒りながら涙目になる親友を見て、少し笑ったりもした。

 土曜に遊びに来たふたりは、結局、三樹のアパートで雑魚寝をして、日曜日の昼過ぎに帰っていった。日曜日の夜、三樹はまだ寂しかったが、胸の奥に少し温かいものがあって、それを両手で包むようにして眠りに落ちた。


 そして訪れた月曜日。三樹は、いつも通りに支度を整えながら、いつものように「今日の星占いスペクタクルカウントダウン」を見ていた。この占いは、いい加減なことしか言わないわりに、なんとなく当たるからすごい。


 まず、2位から6位までが発表される。そして、次に7位以下が発表された。まだ、やぎ座は出てこない。こうなると、最下位か最上位の、どちらかである。


「ごめんなさ~い。今日の最下位は、やぎ座のあなた!」


 三樹はため息をついた。数日前も最下位だった気がする。こんなにすぐに同じ星座を最下位にして良いのか。クレームが付くんじゃないのか?


「とにかく、欲を出さずに仕事に専念しちゃってください!馬車馬のように、とにかく働きまくっちゃってください!え?馬車馬みたいに、自分も働けって?あたしはどっちかというと、サラブレッドのほうが好きね~。やだー、ギャンブルとか、そういう意味じゃなくてー。

 そうそう、今日はギャンブルもダメダメ!意中の人に告白やプロポーズをしようと思っていた貴方も、日を改めて!その賭け、明日以降に持ち越しましょう!そんなあなたのラッキーアイテムは……」


 この日は、OLレンジャーの呼び出しもなく、仕事もつつがなく終えようとしていた。桐生の姿を見ると、まだ少し心が痛んだけれど……。

 とにかく、占いの通り、仕事に専念して過ごした。それが馬車馬のような働きだったかどうかは、ちょっとよく分からないが。


「町田主任、そのネックレスかわいいー」

 水沢が、両手をグーにしてぶりっ子ポーズを取りながら言った。

「あ、もしかして、彼氏からのプレゼントですかぁ?」


 三樹の顔が引きつりそうになる。今、一番ダメージの大きい言葉を、どうしてこうもストレートにぶつけてくるのだろう。気持ちを飲み込んで、三樹は笑顔をつくった。

「そんなんじゃないよ!友達からもらったの!」

「えー?そうなんですか?なんかぁ、町田主任、最近キレイになったからぁ、てっきり彼氏ができたのかと思ってたんですけどぉ」


「それは、残念!」


「なーんだぁ。そうなんですねー」

 と、興味なさそうに自分のデスクに戻っていった。笑ってしまうほど潔い。


 三樹がデスクの上を片付け、バッグを持って立ち上がったところへ、スタスタとヒガシ君がやって来た。

「あの、主任……」

 と、何か言いにくそうにしている。


「どうしたの?何かあった?」

「いや、あの……」

 もじもじと言いあぐねるヒガシ君を、辛抱強く三樹が待っている。すると、ヒガシ君は、わざとらしいほどの深呼吸をしてから言った。


「今日、僕といっしょに食事に行ってくれませんか?」

「は?どうしたの、急に?」

「いや、その……、実は、ちょっと相談したいことがあって……急に、すみません。あの、ダメですか?」

 予想外のお誘いである。何を言いにくそうにしているかと思えば、そんなことか。


「別にいいけど」

 三樹が答えると、ヒガシ君は嬉しそうに言った。

「あー良かった。断られるかと思ったー。僕、すぐに片付けてくるんで、先に降りてて下さいね!すぐ追いかけますっ!」

 ヒガシ君が慌ただしく自分のデスクに戻っていく。ちょっと振り返って、三樹に向かって嬉しそうな笑顔を見せた。


 三樹は、ひとりでオフィスを出た。


(たまには先輩らしく、後輩に奢ってあげるのも良いかもしれないな……)


 自分も、つい先日に、宿さんから奢ってもらったばかりだった。


 会社を出ると、すぐにヒガシ君からの着信があった。居場所を伝えると、数分もしないうちにヒガシ君が走ってきた。

「お待たせしてすみません」

 ヒガシ君が頬を赤くして、息を切らしている。


「そんなに走らなくても良かったのに」

 三樹は呆れて微笑む。ヒガシ君は、輝くばかりの笑顔を三樹に向けた。


「それ、いいですね」

 隣を歩きながら、ヒガシ君が言った。

「ネックレス?僕も、そういう水色、好きなんです」

「あ、これ?ありがとう。友達からもらったの。私の誕生石だよ。トルコ石」

「へー、トルコ石って言うんだ。良いなー、ほんと、いい色だなー。僕もトルコ石の何か買っちゃおうかな」

「え?十二月生まれだっけ?」

「全然ちがいます。僕、五月ですから。ちなみに、子供の日生まれです!」


 あまりにもキッパリ言うので、思わず笑ってしまった。ヒガシ君も笑っている。この元気で可愛い後輩に何を奢ってあげようか。彼はたくさん食べるからな……と、三樹は考えながら歩き始めた。その横で、ヒガシ君が楽しそうに喋っている。


 三樹がこのネックレスをつけようと思ったのは、今日の星占いスペクタクルカウントダウンを見たせいだった。


 小ぶりのターコイズがついた、シンプルなデザインで、さくらと和泉が一緒に選んで買ってくれたものだった。一昨日のサプライズ訪問の時に持ってきてくれたのだ。


「宝くじが当たったんです」

 と、和泉が真顔で言ったのがおかしかった。和泉とさくらも、それぞれに誕生石のネックレスを買ったらしい。誰かとおそろいのものを持つなんて、ほんとうに久しぶりだった。


 ターコイズには、いろいろな意味がある。身に着けたものを正しい判断に近づけ、邪悪なエネルギーや災害から守り、また友情を強める。旅のお守りでもあった。


「人生という旅のお守りです」

 と、真顔の和泉が言うので、ものすごく信憑性が高いように感じた。


 さて、今日の星占いの、やぎ座の場面で、最後にこう言ったのだ。


「今日のラッキーアイテムは、『親友からもらったもの』!

 えー?何これ、すっごくザックリなんだけど~、なんでもいいの?いいのね?


 やぎ座のみなさーん!とりあえず、今すぐに引出の奥とかひっくり返してみて!変な缶バッジとかお守りとか、何かしら出てくるはずだから!


 それを持っておけば一発逆転が起きるかも。もし起きなくても、当番組は一切の責任を負いかねますので、ご了承くださ~い」


これにて、OLレンジャー三樹の巻、完了いたしました!

ここまでお付き合いのほど、ありがとうございます。


次の物語は、さくら?和泉?

どうぞお楽しみに……。

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