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苦い思い出からかえってきた三樹。OLレンジャーの女子会はここからが本番……?
「まだ、分かんないけど」
三樹は照れながら答えた。
「何それー!でも、そうなるかもしれないってことでしょ?やだー、結婚しても遊んでね」
さくらがはしゃいでいる。和泉も微笑みながら言った。
「その時に、実物を見られることを楽しみにしています」
「えー、式とか結婚とか、気が早いよー」
三樹が両方の頬を押さえた。
そうか、両方の奥歯が痛いのか。とっとと歯医者に行け。いや違う、こじらせ独女の中の、乙女モードが、今まさに全開になってしまったのだ。
「ところで、その彼氏のこと、なんて呼んでるの?」
女子の恋バナはエンドレスだ。
「えー……そんなの、別にいいじゃん……」
「告白したの?されたの?」
「えーもう、やめてよ……」
「アラサーが何を照れてるんでしょうか」
和泉の冷静なツッコミに、三樹がムキになった。
「ちょっとぉ!アラサーとか関係ないでしょ?」
「もう~、良いから、良いからぁ。言っちゃえ、言っちゃえ!」
「恥ずかしいよ……」
「なるほど」
和泉がひとりで頷いている。
「どうやら彼女はアルコールが足りないらしい」
「あ、そっかぁ!ごめんね三樹ちゃん!気が付かなくて!」
さくらが手をポンと叩いた。
「いや、そういうことじゃ……」
三樹が言い返そうとするが、さくらの口が止まらない。
「じゃ、ここはとりあえずお会計して、飲みに行こう!あ!そうだ!飲みに行く前に、三樹ちゃんの勝負服を見に行くよ!どうせ持ってないんでしょ?」
さくらが、俄然張り切り出した。
このスイッチが入ってしまったら、もう誰にも止めることができない。さくらは思いつきで自分本位のようだが、これは誰かのため!と思ったら、行動に移さずにいられない。その対象となる人が喜んでくれるものだと思っている。
「どこに行こっか。うーん、悩むー。ミロードとかルミネが近いかなー。かわいい服とか、たくさんあるよねー。ちょっと頑張ってマルイとか伊勢丹に行っても良いしー。ていうか、全部行っちゃおっか」
「え?全部?」
和泉と三樹が顔を見合わせた。
ミロードやルミネやマルイなどといったファッションビルは、ほぼ婦人の服とアクセサリーで構成されていると言っても過言ではない。
そこを全て見て回ろうと思ったら、軽い強歩大会である。むちゃくちゃカロリーを消費するので、そのあとのお酒や食事がおいしくなることは請け合いなのだが。
「よし、行こう!」
さくらが伝票を持って立ち上がった。この小柄な体の、どこにそんな体力がみなぎっているのだろう。さくらのバイタリティは、つくづく羨ましい。
結局、5時間以上を費やして、洋服を見て回った。いざ洋服を見始めてみると、靴も気になるし、化粧品だって物足りないし、アクセサリーもあった方が良いし……。あきらかに三樹の好みに外れたショップを省きはしたものの、それでも相当な数のショップを見て回った。
「あ!そうそう!下着も見なきゃ!勝負下着!」
さくらが言いだし、三樹が、
「ええ?そ、そんなの良いよ!適当に自分で選ぶし」
と、激しく動揺した。
「どんな感じのを?」
「え?ま、普通の……」
「ダメだよー。そんなんじゃ、絶対にダメ。どうせ水玉の子供っぽいのとか着ちゃうんでしょ?ありえないよー。もっとこう、ちゃんとしたのじゃなくちゃ。大人の、女性なんだからね!」
「えぇーでも……」
「ここは彼女の言うとおりにするしかないでしょう」
和泉は悟ったように冷静だ。それとも、ちょっと疲れているのだろうか。話がこじれて長引くほうが、好ましくないようだ。
「そうだよ!」
さくらが胸を張る。さくらはバストがとっても豊かなので、彼女が胸を張ると、ちょっと見事だ。すれ違う人たちが、思わず視線を投げてしまう。
さくらはと言うと、急に和泉のほうに向きなおって言った。
「いずみんも、いつ何があるか分からないんだからね!」
「え?わたしが?」
すっかり第三者を気取っていた和泉が、驚きのあまりにメガネをずらした。慌ててメガネのずれを直している。マンガみたいだ。
「そうだよ!もー、女子力低すぎだよ!毛玉がついてるとか、絶対にありえないんだからね!」
この期に及んで、いまだにパワーの衰えないさくらが、他のふたりをぐいぐい引っ張る。彼女がもしも車だったら、間違いなくレッカー車だろうし、もしも電車だったら、貨物車両をたくさん引っ張って走るあれだろう。貨物専用機関車。貨物が空になると、ものすごいスピードが出るやつだ。
さくら、三樹、和泉のRPG?は続く……




