表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/73

三樹は深呼吸をして、ひるみそうになる気持ちに気合いをこめた。しっかりと傘を持つと、土砂降りの中に踏み出していく。

なるべく濡れないようにと、傘の下で体を縮めて歩く。それでも洋服の袖がすぐに水を吸って冷たくなった。


たえまなく傘をたたく雨音。ノイズのように他の音をかき消してしまう。


まわりの人たちも、傘にしがみつくように歩いている。彼らの背中や足元も、雨に濡れて色が変わっている。


ワイパーを動かしながら、ゆっくりと車が走っていく。こういう天候のときには自動車通勤は本当に羨ましい。


(私も乗せてぇぇ!)

なんていう勇気はない。


 駅につくと、ようやくホッとした。


(こんな酷い中を歩いてきたのか……偉いぞ自分!)

傘の水滴を払いながら、しみじみ思う。

(てか、今日の労働はこれで終わりでも良い……なーんちゃってね)


この調子だと、いつダイヤが乱れてもおかしくなさそうだ。


(それを口実に、水沢杏が何か言って来そうだな……。雨が降ったら降ったで、ダイヤが乱れるかもって、いつもよりも早めに出社してくるのが大人じゃないの?)

(ま、そういうのを期待するだけ無駄よね)


そう思って、三樹の胸は少しモヤッとなる。

考えて気分が悪くなるのなら、考えなきゃいいのに。人の気持ちというのは、説明がしにくいものだ。

触れば痛いに決まっているのに、傷口に触って顔をしかめている、みたいなものだ。


♪分かっちゃいるけどやめられない


と、陽気に歌った人がいた。


水沢杏は、バラエティ番組などで、「高学歴芸人」と呼ばれる人が卒業するような大学を出ている。

三樹の出た大学よりも、よっぽどレベルが高い。だから、頭はいいはずなのだ。頭は……。


(でもまあ、勉強ができるのと常識を備えているのは違うから。うんそう、まったく別の話なの。

頭では理解しているつもり。腹を立てても仕方がないんだってね)

(でもムリ!イラッとする!)

(っていうか、大学で何を勉強してきたの、あの子は)

(なんでウチに就職したの?そもそも、なんで就職できたの?やっぱり学歴?いやいや、いくら学歴が良くても、さすがにそれだけじゃ……)


 いろいろな疑問が次々に浮かんできては消えていく。答えはいつも闇の中だ。


(あの女……何か特殊な才能でもあるのか)


今のところ、それらの片りんらしきものは見られない。能ある鷹は爪を隠すという。

もしも水沢がそうなのだとしたら、さすがに隠し過ぎだと思う。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ