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「どんなって言えばいいのかな……」
三樹は考えながら、スプーンで料理をかき混ぜた。そのくせ食べない。
ビールのグラスを持ち上げて、かと思えば、飲まずにテーブルに置いた。
挙動がおかしい。すっかり照れているのだ。
「三樹ちゃんは、年上で頼もしいヒトがいいんでしょ?その辺はどうなの?」
さくらが言う。なかなかの聞き上手だ。
「うーん……年上だなぁ……」
さくらと和泉がテーブルに身を乗り出し、頷きながら聞いている。食事もビールもいったん休止だ。
「頼もしいのかな……うん、頼もしいかも。あと、優しいし」
そう言ったとたん、三樹の顔がゆるむ。でれっとした。
「え?なにそれ最高!やだー、すごーい三樹ちゃん、理想のタイプと出会っちゃうなんて。きっと運命の人だよぉ。絶対そうだよ!やだー、いいな、いいなー。ほら、もう一回、乾杯しよ、乾杯!」
さくらがグラスを持ち、三人は飲みかけのビールで乾杯した。
「それから?見た目は?どうなの?カッコいいの?イケメン?ねえねえ」
さくらの目が輝いている。
和泉も静かに、三樹の言葉を待っていた。
三樹は、これ以上ないぐらいに顔を真っ赤にして、
「うん、まあ……。カッコ、いい、かな……」
と、言った。
ほんとうは胸を張りたいぐらいにカッコいいと思っている。
「どのぐらい?」
「え?どのぐらいって言われても……。私が今まで見た男の人の中では、一番かも……」
「何それー!」
さくらが声を上げ、注目を浴びてしまった。
和泉が咳払いをする。さくらは、テーブルに身を乗り出して、声のトーンを下げた。
「三樹ちゃんずるーい。そんなにイケメンなの?ねえねえ、三樹ちゃんて、もしかしてメンクイ?」
三樹も、つられて内緒話のようなトーンで答える。
「そんなこと、ないと思うけど……。たまたま、イケメンだったっていうか」
さくらは、疑わしそうに、「ふ~ん」と、一応は返事をしたあと、
「もしかして、背も高かったり?」
「うん、高いよ」
「何それー!」
またしても、さくらが声を上げた。
さくらの好みは、高身長で高収入のイケメンである。
つまり、桐生という男は、さくらの好みに合致しているとも言えた。
ただ唯一、彼女の中の「高収入」に当てはまるかどうかは分からないが。
当のさくらは、またしても、慌てて口元を押さえながら言った。
「ちょっとちょっと、ねえねえ三樹ちゃん。写真とかないわけ?」
和泉も、頷きながら身を乗り出した。珍しく、頬が紅潮しているように見える。
「それが……」
三樹がすまなそうに言った。
「ないのー?」
さくらが大げさにがっかりした。
和泉も残念そうな顔をしている。
ふたりを見た三樹が、言い訳をするように口を尖らせた。
「でも、写真を撮るのが、あんまり好きじゃないって言ってたから……」
「えーそうなのー?でもぉ、彼女が一緒に撮ろうって言ったら、普通、撮ってくれるよ!」
さくらが、残りのご飯を食べながら、不服そうに言った。
「探したら、何か、あるんじゃない?ねえねえ」
「まあまあ、世の中にはいろんな人がいるんですよ。写真が嫌いなイケメンがいてもおかしくないんじゃないですか?」
和泉が、さくらをなだめている。
「そうかなぁ……」
さくらが唇を尖らせた。
「あ、そうそう」
ふいに何かを思い出したように、和泉が軽く手を叩いた。
「ところで、お母様との約束は果たせそうなの?」
「え?約束?」
三樹思わず聞き返したが、ほどなくして思い出した。
あれは、今から一年ほど前の出来事だった。
あまりに腹の虫がおさまらず、宿さんに愚痴ってもまだ足りなくて、和泉とさくらにもぶちまけたのだった。
イケメンの話で盛り上がる女子会。
話題は思わぬ方向へ……。




