68
「なんか、学生時代からの友達とドライブ旅行に行くんだって。泊りがけで」
三樹が言う。笑顔で言ったつもりだが、頬のあたりがムリしている。
ふいに、今ごろ、あの人は何をしているんだろと思う。そわそわとして、メールを送りたい気持ちにすらなった。
(でも、友達と久しぶりに会って楽しんでいる彼の邪魔をしちゃいけないし)
そう思うと、余計に寂しくなるのだった。
「それって男?」
ふいにさくらが言った。
「そうだよ」
と、ムキになって答える。
「そんなの当たり前じゃん!」
自分の存在がありながら、他の女と旅行に行くなど、ありえないではないか。
「ふーん」
さくらはグラスに口をつけながら、三樹の顔を眺めた。何か面白そうだ。
三樹もビールを飲みながら、さくらの顔を見つめ返した。というより、ジトッとした目で睨んでしまった。
さくらが、ちょっとおどけたように肩をすくめた。かと思うと、グラスをテーブルに置き、頬杖をついて言った。
「それで?どこに行くんだって?」
「たしか……箱根とか言ってたかな……」
「え?温泉?いいなー。三樹ちゃんも付いて行っちゃえば良かったのに!」
さくらが明るく言った。テンションの切り替えが早い。
「そんな訳にはいかないよっ。ねえ」
三樹は焦って和泉に振った。
一緒に行くなんて思いつきもしなかったけど、思いつきもしなかった自分は女として変なのだろうか?と、ちょっと自信がなかったのだ。
和泉は静かにふたりの会話を聞いていたが、ひとつだけ頷くと、きっぱりと言った。
「そうですよ。友達との久しぶりの旅行に、恋人だからといって付いて行くのは野暮というものです」
「えー?そうかなぁ~」
さくらが天井を仰ぐようにして言った。彼女だったら、恋人が親友と出かけると言った時に付いて行くのだろうか。
三樹と和泉は、少し呆れて顔を見合った。
「ま、いっか」
さくらがパッと笑顔になった。
「こっちはこっちで楽しもうよ!久々の女子会なんだしっ!あー、それにしても、昼間から飲むとおいしいね!」
場が少し和んだところに、タイミングよく料理が運ばれてきた。タイ料理のお店だったので、ガパオライスだとかカオマンガイだとかを頼んだ。あまりしっかり飲む予定ではないので、ご飯ものである。
「おいしい!ビールに合うね!」
さくらがはしゃいでいる。同じようなキャラのはずなのに、水沢には腹が立ち、さくらには腹が立たない。
たまに振り回されてるなーと感じることはあるものの、ほとんど平気だ。
「で、どんな人なんですか?」
メガネをきりっと直しながら、和泉が言った。ビールを飲んでいた三樹が、ぶっと吹き出しそうになった。
「え?いきなり?」
三樹が焦っている。ビールが鼻とか、気管に入らなくて良かった。
「あ、そうそう!それを聞かなきゃいけなかったんだ!いずみん、ありがとう!」
さくらがウキウキと声を弾ませた。
ふたりの視線が三樹に注がれる。
三樹は完全にロックオンされた。
(話さなければ許さないからね!)という空気だ。
当の三樹も、困惑しながらも、むしろ友人には話をしたい感じだった。簡単に言うと、浮かれているのである。
彼氏が友達と旅行にいくのに、自分がついていくのはアリ?それともナシ?




