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「え……え?」
三樹の目が泳ぐ。
「いろいろって何?」
「いろいろって言ったら、いろいろだよ、ね」
にっこりと微笑むと、さくらは和泉に向かって小首を傾げた。
「えぇ。聞かせてもらいましょう」
すでに頼むものを決めてしまった和泉が、静かに水を飲みながら言った。
「えー……話すほどのことじゃないよー……」
三樹が、あきらかにもったいぶっている。
こじらせ独女の中にひそんでいた乙女が、今もまた目を覚まし、瞳をうるうるさせてアヒル口でぶりっ子している。
彼女のまわりには、スワロフスキー的なものがキラキラ降っている。
赤やピンクのバラの花をあしらったクッションがふかふか。
ちょっと前に流行したラブソングとか流れそう。恋する乙女が、カラオケで心をこめちゃう感じのやつだ。
「私はこれにします。皆さんは?」
三樹の乙女モードを突き破るかのように、冷静な和泉がメニューを指さした。
「水戸黄門」の忍びキャラクター飛猿が、壁をドーンとぶち壊して登場するときの、あの唐突さに近かった。
でも、飛猿にとって、その登場のし方は極めて当たり前なのである。
これと同じで、突然の会話の方向転換も、和泉にとっては普通のことだった。現に、今の彼女はドラマ「相棒」の杉下右京さんばりに、つんとしたすまし顔をしている。
「あ、はい……」
ぼんやりしていた三樹が、現実に引き戻される。
キラキラふわふわの世界の乙女は、荷物をまとめて一時退散。
「あたしはね、これ」
さくらがメニューを指さす。
三樹も、目についたものを迷わずに決めた。食べるものに関しては、あまり悩まないのが三樹だ。それを確認した和泉が、さっさと店員を呼んで、てきぱきと注文してしまった。
グループの中に、こういう、まとめ役的なキャラクターがいると非常に都合がよい。
やがてビールが運ばれてきた。
「三樹ちゃんの独女卒業に乾杯!」
さくらが言い、長細いグラスを重ねた。
休日の昼間から飲むビールは、どうしてこんなに美味しいのだろう。冷たい刺激が喉を通るのが、なんともたまらない。
「その言い方やめてよ~」
と、三樹はグラスをいじりながら、にやにやしている。だらしのない顔だ。
「でも、土曜日にこっちに来てて良いんですか?彼氏さんに何か言われないんですか?」
和泉がグラスを置いて言った。
三樹が答えるのよりも早く、
「たまには良いじゃん、ねえ、三樹ちゃん。そんな、毎日一緒にいようとか言って、束縛するような男はダメ!」
と、さくらが言い放った。
和泉が、あなたに聞いてませんよ、という顔でさくらを見る。
さくらも、軽く和泉を睨み返したが、すぐに表情がゆるんで笑い出した。
和泉も呆れたように微笑むのだった。
どうなる女子会、昼間から飲んだくれるのか!?
干物女を脱出したっぽい三樹の近況に、仲間のふたりも興味津々(いじれるだけ、いじろうと思っているだけという説も)




