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米いちゃもん男が立ち往生している改札に、次から次へとおしかけていた乗客たちの流れが、ふいに変わった。
米いちゃもん男に向けて、刺すような冷たい視線を残しながらも、左右に分かれていく。
そして順序良く、通常営業している改札を通っていった。
押しかけてきた人並みから解放された、米いちゃもん男。
(やっと出られる……)
安堵しながら、米いちゃもん男が歩き出そうとした瞬間。
目の前の空中に、デジタルっぽい文字が大きく表示された。
『目の前にチャラ男が現れた』
『チャラ男の攻撃力は4』
そのときだ。激流のごとき乗客の間から、異彩を放ちながら一人の若い男が現れた。
茶髪の長めの髪を、ワックスか何かでつんつんにしている。
おそらく一時間ぐらいヘアセットにかけているだろう。そういう設定だ。
彼がチャラ男である……!
チャラ男は、駅構内の混雑を気にもとめず、スマホ画面を見ながら歩いてきた。そして、改札に磁気カードをかざす。もちろん反応をしない。
ようやく顔を上げたチャラ男は、米いちゃもん男の姿を見ると、
「は?だっせぇ」
と、吐き捨てた。その口から、くちゃくちゃとガムを噛んでいるのが見える。
チャラ男が隣の改札に入ろうとすると、なぜか両隣の改札は「点検中」に変わっていた。
(どういうこと?)
『米いちゃもん男、テンパりダメージを受けた』
米いちゃもん男のライフが3減った。
「何してんだよ、ジャマなんだよ、さっさとどけよ」
チャラ男が軽蔑のまなざしを向けながら言った。
「んだとぉ!」
米いちゃもん男のガマンが限界に達した。
とっさに、チャラ男に殴りかかろうとした。
チャラ男は、一瞬ニヤッと笑ったように見えた。と思ったら、その笑みが残像となった。
武術か何かの使い手のような、軽やかな身のこなしだった。
米いちゃもん男は、思い切り振り出した拳を止めることができず、そのままの勢いで自動改札の機械を殴ってしまった。
ゴンッ……と、鈍い音が響く。激痛。思わず涙ぐむ。口惜しさがふつふつと込み上げてくる。
『米いちゃもん男、身体的ダメージを受けた』
『米いちゃもん男のライフが5減った』
『米いちゃもん男が憤りダメージを受けた』
『米いちゃもん男のライフが3減った』
米いちゃもん男は、さらに頭に血が上って、抑えが利かなくなった。チャラ男の胸ぐらをつかもうとするが、やはり、ひらりとかわされてしまう。
この男、身なりと態度は軽薄だが、それだけの男ではない。そういう設定だ。
『屈強な駅員が現れた』
自動改札で激流を作っていた乗客たちが、一斉に米いちゃもん男を指さした。
「暴力を振るっているのは彼です」
屈強な駅員が、米いちゃもん男を改札からつまみ出そうとする。
「お客様、こちらへ」
「てめぇ、この!乗客に暴力をふるうつもりか!訴えてやる!」
米いちゃもん男が暴れた。だが、屈強な駅員の腕力には敵う訳がない。
すると、何やらものものしいBGMが流れてきた。ボスキャラ的なものが出てきたときに流れるような感じのあれだ。
『鉄道警察が現れた』
はじめ、ひとりで駆け付けた鉄道警察だったが、すぐさまに応援を呼んだ。すると、同じ制服姿の男が、あれよあれよという間に増えていく。完全な人垣に囲まれてしまった。凄まじい圧迫感だ。
さすがの米いちゃもん男も、いかめしい制服の集団に囲まれて意気消沈、すっかり気おされて、どんどん小さくなった。
『暴力行為の現行犯で逮捕する』
『米いちゃもん男のライフが0になった』
OLさくらが叫んだ!
「そこの米いちゃもん男!女の子を相手に怒鳴ったりして、すっごくカッコ悪いよ!ほんっとうに、みっともないんだから!」
OLオレンジが叫んだ!
「それと、自分が正しい米の保管方法も知らなかったことを棚に上げて、なんでもかんでも他人のせいにするのはお止めなさい!常識のある大人のすることではありません!袋の注意書きくらい読みなさい!」
お米はきちんと保管して美味しく頂きましょう。




