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ザッと足音を立てて、OLレンジャーが一斉に構えの姿勢をとった。三人そろっているのは、かなりレアである。これはちょっと、インスタにアップしておいたほうが良いかもしれない。
取り巻きの客が振り返る。彼らの視線の先にいるのは、コスプレと見紛うようなOL服を着た三人組だ。ピンク、オレンジ、さくら色と、花束みたいなセレクトだ。
一人は、色以外は普通のОLの制服だし、もう一人は、こちらも色以外は普通のキャリアウーマン風だし、一人はエロ可愛いОLコスプレ風のミニワンピースで、思わず鼻の下が伸びる感じだし。
「なんだよ、お前らは……」
米いちゃもんの男が振り返った。
女性店員も、少し遅れて振り返った。涙目になっている。救いがあろうものなら、すぐにでもすがり付きたい気持ちなのだろう。
「さ、リーダー」
真剣な眼差しで、OLオレンジが言う。OLピンクも、同じく戦う女の表情で頷いたと思いきや……
「あ」
と言ってからスマホを取り出した。そのスマホが短くバイブして止まった。
OLピンクの表情がゆるむ。緊張感とはほど遠い、にやけ顔だ。それどころか、スマホの液晶画面をいじり出した。
OLさくらが睨むように目を細め、小突く。
(ちょっと、こんな時に何やってんの?)
(え?ごめん、何?)
OLピンクが画面をいじりながら、顔を上げた。そしてまた画面に目を落とす。
(もう!スマホ取り上げるよ!?)
(ま……!ごめ……すぐ終わるから!)
など、OLさくらとOLピンクがひそひそと言い合っている。
その前で、OLオレンジだけがポーズをとり、スタンバイしていた。
恰好がつかないこと、この上ない。
OLオレンジは一瞬だけ呆れた顔をしたが、すぐに真顔に戻って咳払いをし、一歩、前に出た。そして宝塚の男役のように声を張って言った。
「そこのあなた!お米は密封できる容器に入れて、涼しいところに置いておいたんですか?」
「はぁ?」
米いちゃもんの男が、醜く顔をゆがめた。出っ張ったビール腹がますますボヨンと出っ張り、相手を威圧しようという傲慢極まりないオーラがすごい。
OLオレンジはひるまない。身長も彼女のほうが高い。
「お米は密封できる容器に入れて、涼しいところに置いておく!なお暑い時期は野菜室に入れるなどするのがおススメです!それが正しいお米の保管方法!間違った保管方法をとるとカビが生えたり虫が出たりするものです!しかも、お米には一朝一夕で虫が出るわけではありません!どっちにしても小売店には何の責任もありません。あなたの仰っていることは、はっきり申し上げて、いちゃもんです!」
ビシッと男を指さした。
独身の身でありながら、実家での炊事を任されている彼女は、一般の主婦よりも知識に長けていた。周囲で見守るスーパーの客や通りすがりの野次馬が今、完全にOLオレンジのオーディエンスとなった。
驚きと感心のため息がもれている。
OLオレンジが、声も高らかに言い放った。
「もしも、この世の米に虫がわかないんだったら、米当番は必要がなくなる!」
それは言う必要があったかな。
ちなみに、「米当番」とは、エステー株式会社が製造している商品で、米に虫がつくのを防ぐためのものだった。唐辛子のかたちをしたかわいい感じのやつで、パッケージに「お米の虫よけ」と書いてある。
確かに、米に虫がつかない世の中になったら、この商品の需要もなくなって、すぐにでも製造がストップするだろう。
「うっせえな!言ってることが分かんねえんだよ!バカか!」
男が血管をむき出しにして、唾をまき散らしながら怒鳴った。
OLオレンジの正論に対して、反論することができないので、ただただ、攻撃をするしかなくなっているのだ。
「やだ、サイテー」
と、OLさくらが呟く。
OLオレンジが発した言葉は、すべて日本語なので、言ってることが分からないとなると、基本的な言語教育からやり直す必要があるだろう。
「言っても分からないようですね」
OLオレンジが一歩引いた。
そこで、今度はリーダー格のOLピンクが……出ると思ったが、まだスマホを見ている。先ほどのメッセージに、返信が入ったらしい。にやにやしている。だらしない顔だ。
OLさくらが咳払いをして仕切り直した。
「言っても分からないオツムの固いヒトは、お仕置きしちゃうよ!」
お仕置きシーンなのに、スマホを見てにやにやブギウギしているOLピンク。
OLオレンジとOLさくらだけで、クレーマーおやじのお仕置きに臨むことになりそうな予感しか……!
我らがキュート&お色気☆さくらの活躍にこうご期待!




