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レンジャーの呼び出しに応じた三人は、瞬間移動しながら、同時進行で服装が変わっていた。
三樹はピンク色の制服風ベストにタイトスカートで、その名もOLピンク!コストのかかっていないAVふうだとか、そういうことを考えてはいけない。
和泉は白いシャツにオレンジ色のスラックスで、OLオレンジ!ドジなOLとイケメン上司との恋模様を描いたレディースコミックのタイトルにありそうな感じだが、気にしてはいけない。登場人物の名前が柑橘系になりそうだ。
さくらはさくら色のミニのワンピースで、胸元に大きなハートがついている。レンジャーの中ではお色気担当と言えよう。彼女の名はOLさくら!……本名は、さくら……。細かいことは気にしてはいけない。
それぞれ服と同じ色のヘアバンドをし、ОLピンクは花、ОLオレンジは星、ОLさくらはハートのモチーフが付いていた。
三人が到着したのは、小さなスーパーマーケットの前だった。店先に平台が置かれ、旬の果物を並べられている。店頭販売をしているのだった。
(鮮度が抜群にいいじゃないですか!それに……安い!)
和泉が思わず買い物かごを手に取りそうになって、さくらに止められた。
(買い物しにきたんじゃないでしょ!)
と、さくらに突っ込まれた和泉は、指先でメガネを直し、咳払いでごまかしている。
店頭販売の店番は、若い女性店員がひとりらしい。彼女に向かって、ひとりの男が詰め寄っている。中肉中背の中年のようだ。どんだけ「中」なら気が済むのだろうか。
女性店員が何度も頭を下げている。誰が見ても真剣な謝罪なのに、男は聞く耳もないらしい。
ОLレンジャーが呼ばれたのは、この男のせいだったようだ。
他の客は遠巻きに眺めたりしながら、そそくさと店内に入っていく。可愛そうな光景だ。
「謝れば済む問題じゃないだろ!あぁ!?」
女の子が言い返さないのを良いことに、男がますます語気を強めた。威圧感のある怒鳴り声だ。
「女の子に強く出る男って、ほんっとサイテー。超ダサ~い」
ОLさくらが、ぷっと頬を膨らませた。
他のふたりも、反論などない。
それに、こっちはこれから楽しい女子会なのだ。
(楽しい女子会の邪魔をするような奴を許すわけにはいかない……!)
あれ?ちょっと待て、何か論点が違っているような。私事都合感がすごい。
まぁ、この際、いいとしよう。
彼女たちの耳に、男の野太い怒鳴り声が飛び込む。
「良いから、とっとと上のやつ呼んで来いよ!」
女性店員の顔が真っ赤になっている。
「申し訳ありませんが……」
「だから、謝ってどうこうなることじゃねぇって、さっきから何回言わせりゃ気が済むんだよ!」
男の額に血管が浮き出ているし、目が血走っている。
気が付けばそれを遠巻きに見ている数人の客。買い物袋をぶら下げている彼らは、店内で買い物を済ませた後、最後にここの果物を買って帰ろうと思っていたのだろう。
それが思わぬ展開になり、ただ眺めているしかない。
中には諦めて帰ろうとする人がいた。これは、営業妨害だ。
女性店員の側には小さな旧型のレジスターが置いてあった。レジを無人にして、上の人を呼びに行くわけにはいかない。従業員としては、正常な判断だ。
だが、彼女がそれを伝えたところ、
「どうして俺が行かなきゃいけねえんだ。てめえが行けよ!」
と、いきなり怒りのスイッチが入って、大声で怒鳴り出したのだ。
彼がクレームをつけてきた理由は、一か月前に買った米に虫がわいた、というものだった。ちょっとツッコミどころしかない。
強く言えば、女性店員が大慌てで上司を呼びに走るだろうと、その男は考えたらしい。
しかし、彼女はちゃんとした考えを持っていた。女だからとナメてかかって、思わぬ展開になってしまったため、男や沸騰したヤカンみたいに、一気にキレてしまったのだ。
「虫がわくような米を売ってんじゃねえよ!」
などと言って。
そう思うと、こんな状況で、店員ののせいは頑張っている。泣きながら逃げ出してもおかしくないような感じなのに。
「彼女は、若いのに責任感が強いんですね」
OLオレンジが言い、さくらが頷いた。
「あのジジイ、マジでクソ」
「言葉がすぎますよ、さくらさん」
「きゃはっ!本音出ちゃった♪」
OLさくらが肩をすくめる。豊満な彼女のバストが強調され、釘付けになる人多数。
「おしおきしないと、ですね」と、OLオレンジ。
「だね!おしおきしなきゃね!」と、OLさくら。
ふたりは頷き合うと、大地を踏みしめた。固唾をのんで見守る客たち。にわかに空気がざわめき、風が吹いてきたような、吹いてないような……。
クレーマーオヤジにお仕置きの時間!
OLさくらとオレンジが本気モードに。
あれ?もう1人、いるはずなのだが……。




