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そして、土曜日がやって来た。三樹たちの集合場所は新宿駅の南口だった。
到着場所についたのは、三樹が最後だった。何を着たら良いのか迷いに迷って、鏡の前を行ったり来たりしていたせいだ。
というのも、桐生が褒めてくれるからだ。ちょっとしたメイクの変化、アクセサリー、洋服の雰囲気など、すぐに気がついて、そっと伝えてくれるのだ。
それで、変な色気ゴコロが生まれてしまい、以前なら迷うこともなかったコーディネートやメイクに時間がかかるようになってしまった。良いことなのか、どうなのか。
ステキだよ、と。
昼間の新宿は、たくさんの人でごった返している。その中に、二人組の凸凹コンビを見つけると、三樹は駆け寄った。
「ごめん!」
と、全力で頭を下げる。
和泉は、シンプルな白いブラウスにモスグリーンのパンツ、グレーのカーディガンにスニーカーというシンプルな組み合わせだった。彼女が愛するアパレルブランドはユニクロである。
さくらは花柄のワンピースを着ていた。小柄ながらも、スタイルの良さが際立ってる。それに、ややレトロなデザインのベージュのハイヒールを合わせていた。
彼女は背が低いことがコンプレックスなので、スニーカーなどのヒールの低い靴は基本的に履くことがなかった。
三樹は薄いピンクとベージュのボーダーニットにネイビーのワイドパンツを合わせて低めのヒールを履いていた。胸元にさりげないネックレスをつけた。カジュアルな感じにメイクもしてみた。
三樹が顔を上げると、さくらが目を見開いた。
「あれ?三樹ちゃん、なんか感じが違うよ?」
和泉もメガネに指を添えながら見ている。うんうん、と頷いている。
「なんか、きれいになったね。えーまさか恋?」
さくらがはしゃぎ、和泉が、またも頷いている。
さくらの声があまりに大きくて、通行人が何人か振り返った。冷静な和泉がそれに気が付いて教える。
さくらは、小さく肩をすくめた。
三樹も声のトーンを下げて言った。
「まさかって何よ、まさかって」
言ったはしから、頬がゆるんで顔がにやける。
「え?じゃあ、ほんとうに?」
さくらの瞳が輝く。
三樹は照れながら頷いた。
「うそー、やだー、おめでとう!」
さくらがはしゃいで騒いだ。のみならず、ピョンピョン飛び跳ねている。
またもや、行きかう人たちが何事かと振り返る。さくらが飛び跳ねるとバストが揺れるので、どうしても人目を引いてしまう。
さくらの肩を、和泉がしっかりとつかんで押さえた。
「クーパー靭帯が切れますよ、さくらさん」
和泉が冷静に指摘する。
クーパー靭帯というのは、バストを支えている大事なパーツで、切れたり伸びたりするとバストが垂れて来てしまう。
三樹は照れくささで顔を火照らせながら、
「ありがとう」
と、ぽつりと言った。
心の底から喜びが湧き上がってきた。こんな気持ちになるのは、ほんとうに久しぶりだった。
――と、その時だ。
三樹のピッチが鳴った。OLレンジャーの出動要請だ。
(こんな時に、なんだよ!)
少し顔をしかめながら、さくらと和泉の顔を見ると、二人はそろって頷いた。三樹も頷き返す。
そして、リーダーらしく言い放った。
「三人で行って、一気に片付けるよ!」
「了解っ」
この言葉だけが残響のように風に流され、次の瞬間に三人の姿は消えていた。
OLレンジャーの三人は昼間からの女子会のため、新宿に集合した。
こんな時に限って、レンジャーの要請が入った……!




