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(むむむ?今日のラッキーアイテムが傘とはこれいかに?)
(こんな雨の日にラッキーアイテム傘とか言われても!なんかこうスペシャル感……というか、ラッキー感ないよ!?)
(それとも傘の忘れ物を減らそうというJRやら地下鉄やら私鉄各路線が協賛してのキャンペーンか?しかし……やぎ座オンリーで?)
疑問が尽きない。
でも、占いの結果のおかげで三樹の気持ちがいくらか晴れたのは間違いがなかった。内容はともかくとして、一等賞というのは嬉しい。ある程度のスペースがあったら小躍りしたいくらいだ。
(さて、占いを観終わったことだし出かけるか……)
テレビを消すと、リモコンを座布団の上に放り投げた。リモコンやスマホを放り投げてしまうのが、三樹の悪い癖だった。
(でもま、座布団がクッションになるし大丈夫でしょ)
なんの根拠もない。
しっかりと手になじんだ革のバッグを肩にかける。このバッグは、しょうじきなところ、デザインも古いし、くたびれた感じもする。それでも、気に入っているので使い続けている。
(ヴィンテージってことで♪)
第一の理由は、就職祝いということで、両親が買ってくれたものだということ。そして、一流のブランドのものでもあった。三樹が持っている数少ないブランドもののひとつなのだ。
いつも通りのひっつめ髪を揺らしながら、いつもよりちょっぴり軽い足取りで玄関へ。
ガチャリ。
ドアを開け、今日の最初の一歩を踏み出す……前に、そっとドアを閉めた。
(見てはいけないものを見てしまった……)
とりあえず、いったん外の世界をシャットアウトして自分を落ち着かせる。
(見間違いよね、ええ、きっとそうだわ。だって台風が来てるとかそういうことは言ってなかったし……)
深呼吸。
(よし!)
今度こそ、心を決めてドアを開ける。
ザァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。
(やっぱり!すんごい雨だし!現実これだし!)
外に出ただけで、頬がしぶきに濡れるのを感じる。地面にあたった雨なんか、もう水煙をあげちゃっているぐらいだ。
(う……うわぁ!土砂降りって、こういうことを言うんだぁ……!それか、「バケツをひっくり返したような」雨のお手本て感じぃ……!)
たぶん、そのバケツはノーマルタイプではない。東京サマーランドのプールにある、あのでっかいバケツだか樽みたいなやつだ。
水がジャバーってなって、きゃーってなるやつ。
ちなみに、サマーランドだとか、三樹は行ったことなどない。なんせ一緒にプールに行ってキャッキャする相手もいないから。それに、水着を着られるような体型ではないという自覚。
今よりもっと若かった頃から、体型にはあまり自信がなかった。くびれがないのだ。尻も大きいし、脚も太い気がする。二の腕をさらすなんて死んでもムリ。
もしも、どうしても着る必要がある場合、普通の洋服と見分けがつかないぐらいに布地の多いやつでないとダメだ。
(そこまでしてプールに遊びに行く必要があるかな?)
という疑問に行きついてしまう。
そして夏が終わる。それは幾度もやってきては、何のロマンスも連れて来ないままに気がつくと去っているのだった……。
それでも今日の占いは、やぎ座が1番だった。何をやってもうまくいくと言っていた。恋愛運に関してはうなぎのぼりらしい。
(それって、どういうことなの!?)
(いきなり、告られるとか!?)
勝手に盛り上がって、すぐに別の自分が冷めたことを告げる。
(ていうか、一昔前の少女マンガでもあるまい。そんなの、あるわけないわ)
でも、信じるものは救われるともいう。
今まで救われた感じがしなかったのは、きっと信じ方が甘かったのだろう。