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四人は、グラスワインで乾杯をした。
水沢のグラスと桐生のグラスが小さく音をたて、三樹はなんとなくジャマをされたような気になる。
ヒガシ君が嬉しそうにグラスを合わせてきた。
三樹のグラスは桐生のそれに、なかなか触れることができない。
間が持たなくてグラスを引っ込めると、桐生が三樹に向かって、グラスを少しだけ持ち上げて見せた。三樹も同じ仕草で返す。
それだけで嬉しい。
水沢は、ほんの少し口を付けただけで、すぐにグラスを置いた。
「みんなが頼むんなら、あたしも頼もっかなー」
などと言って注文したわりに、ほとんど飲まない。
その姿を見て、グラスの中身を飲み干してしまいそえな勢いだった三樹は、慌ててグラスを置いた。
酒豪がばれる。それはマズい。危ない、危ない。
「うまい!」
ヒガシ君の無邪気さが、唯一の慰めである。
「うん、悪くないね」
桐生が言い、水沢がうっとりしている。
「かっこいい……」
なんて、思ったことが口から出すぎだ。
それどころか、すでに、水沢の頬がほんのり赤い。たった一口だけしか飲んでいないのに、もう赤い。
どうしてビールメーカーに就職したのか疑問に思うぐらい、水沢はアルコールに弱い。
飲んでも顔に出ない三樹とは大違いである。
(羨ましい。可愛い)
系列の会社に、ソフトドリンクのメーカーもあるのだから、そっちに行けば良かったのに。
サラダが出てくると、水沢が張り切って皿に取り分けようとした。彼女の手元が怪しいのは、飲んだせいばかりではない。
三樹が気を遣って、
「やろうか?」
と、横から手を出そうとするが、
「良いんです。こういうのは新人の仕事ですから」
などと言いながら、自分でやろうとする。
(普段からそういう心掛けが一ミリでもあったか?)
三樹は呆れながらも、もたもたとサラダを取り分けている彼女に、取り皿を手渡してサポートした。
「はい、桐生さん」
すごい大盛りだ。桐生が礼を言うと、「いいえ」と、満面の笑みで返した。
次に、
「じゃあ、次は主任のです」
と言って、取り皿にサラダを取り分け始める。
(そのぐらいで……、もう……)
三樹が、ハラハラしながら見守る。
水沢は気づかない。
(これだと、後半に行くにつれて、絶対に足りなくなる!)
と水沢以外の全てのメンバーが思った。
そんな心配をよそに、水沢はまた、こんもりとサラダを盛った。
「次は、あたし」
「え?僕じゃないの?」
ヒガシ君がテーブルに身を乗り出した。
「ヒガシ先輩は、このおっきいお皿のままで良くないですか?」
「良くないよ!ちゃんと装ってよ!」
「えー?面倒くさーい」
「じゃ、僕がやってあげようか?」
横から、楽しげな笑顔の桐生が言った。
「いや!良いです良いです!自分でやりますっ」
ヒガシ君が、慌ててサラダを取った。
「なんか、すっげぇ、ちょっとしかないんですけど……」
ヒガシ君がしょぼんとし、その様子が笑いを誘った。
「私の、多いからちょっと上げるわよ」
三樹が言うと、ヒガシ君は嬉しそうに目を輝かせて、「マジすか?」と言った。
「主任て、ヒガシ先輩にすっごく優しいんですよね」
水沢が横から口を挟む。生意気にも、人を冷やかすような言い方だ。
「へえ、そうなんだ」
桐生が、三樹の顔を覗きこんで言った。
淡い心に水を指す後輩OL!
しかも、気になる彼から誤解され……!




