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髪のことは、いったん置いておいて、着替えを始める。
数少ないワードローブの中から、悩みに悩んで淡いピンク色のブラウスを選ぶ。すらりと見えるグレーのパンツを合わせる。
髪や肌の手入れはサボるため女子力は低いのだが、三樹は基本的にかわいいものが好きだ。だから、一番好きな色はピンク色である。それゆえのOLピンクなのだが。
鏡の前に立つ。
(なんか襟元が少し寂しいかも……)
小さなジュエリーボックスを開ける。その中から、さりげないけれど、きらりと輝くネックレスを取り出した。ボーナスの後で自分へのご褒美として買ったやつだ。
(これ付けるのって、いつぶり?いつぶり?)
何故か胸がときめく。鏡に映る自分の表情が、いつもよりも明るく見えた。ほっこりと嬉しくなって、三樹はメイクを始めた。
「今日の星占い!スペクタクルカウントダウン!」
テレビから声が聞こえて、メイクをしながら画面を見る。やぎ座は5位だった。
(微妙~)
(ラッキーアイテムは赤い口紅……どういうこと!?)
つくづく、ツッコミを入れたい気持ちになる。男性も占いを見ているだろうに、そういう気配りはないのだろうか。
つまり、今日のやぎ座の男性は、よほど特殊な趣味を持っていない限りにラッキーのチャンスを逃すことになる。
それでも、良くも悪くもない5位なので、どうということもないが。
ただ、気になることが書いてあった。
「気になる異性と急接近」
(えー!急に?そんなそんな!)
なんの抵抗もなく、するっと桐生の顔を思い出す。さわやかな笑顔。スリーピーススーツが似合っていた。
胸の奥に、小さな炎のようなものが灯るのを感じる。
(今日はどんなスタイルなのかな?)
(って言うか、どんなスタイルでも素敵にしか見えないしー!)
ニヤニヤと頬を緩めながら、メイクボックスをガチャガチャとかき回す。
(赤い口紅、赤い口紅……あったっけな?)
メイクボックスの奥のほうから、見覚えのあるような、ないような口紅が出てきた。マットな赤い色をしている。
とりあえず塗ってみて、そして、びっくり。
(なんかすごい。バブルっぽい。ないない、ないわーこれ)
あわててティッシュでオフし、いつもより、ちょっとだけ赤みがかったベージュ系のルージュを選んだ。
それから、鏡を覗き込みながらチークをつけてみる。
(難かしいなぁもう……。ほんと、加減が……)
「つけすぎはダメだよ!つけすぎても可愛いのは二十代までだからね!」
と、さくらが言っていた。
「あのー一応まだ二十代なんですが」
と、三樹が言い返すと、
「もーうるさいなー。三樹ちゃんはもうアラサーなんだから!」
などと言い返された。
まったく意味が分からない。
二十代とは二十歳から二十九歳までのことだと思うのだが。
それを和泉が黙って見ている。和泉もさほど年齢は変わらないはずだが、冷静なものだ。
妄想OLのジャブ的妄想。




