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そんなことを思い出した三樹は、洗顔フォームを手に取った。
(もう一度、きちんと顔を洗ってみよ……)
ふわっふわになるまで泡立てたら、泡のクッションで肌を優しく撫でるように。
はじめはぬるま湯で泡を流し、次に冷水。蛇口をひねったりして、なんだか手が忙しい。
タオルでふき取って、ふぅ……と、ため息をつく。冷水のおかげか、気持ちが、いくらかシャキッとした。
鏡に映る自分の顔も、少し肌のトーンが明るいような気がした。肌の調子がいい、たったそれだけのことで、朝の気分が少しだけ盛り上がるから不思議だ。
洗顔後の肌を、いつもよりも丁寧に保湿する。それから、コップ一杯の水をゆっくりと飲む。
これも、さくらの受け売りである。朝起きたら常温の水をコップ一杯。
これまでは、単純にめんどうくさくて実践していなかった。
朝食の支度をするのが面倒なので、昨日のうちにコンビニでサラダなどを買ってあった。お皿にもうつさずに食べ始める。
ベランダには、相変わらずに洗濯物がぶら下がっている。空には雲が浮かんでいるが、雨は降らないようだ。
(今夜こそは取り込もう)
そう思いながら、歯磨きに立った。
鏡に映った自分を、三樹はまじまじと見た。
(やっぱり、髪、切ろうかな……)
もとの髪質の良し悪しではない。今の今まで、髪に対して、あまりにも手を抜きすぎていた。
気になる男が現れたとたんに痛感する。
でも、今の三樹にできることは何もない。トリートメント剤すらもないのだ。
(とにかく、やれることをやるしかない!)
とポジティブに考え、いつもよりも丁寧に歯を磨いて、さらに舌も磨いた。
(キスでもする気か!?やだぁ!)
いつもと同じように寝癖直しスプレーをシャーシャーと吹きかけてブラッシングする。
今朝も、やっぱり、髪がブラシに引っかかった。うんざりしながら髪をほぐす。
寝癖直しスプレーをもってしても、傷みによるうねりと、毛先のパサつきはどうしようもない。
「今のヘアスタイルに飽きたら、ぽちっとネット予約!」
はっとして声のほうを見ると、テレビコマーシャルである。
今どきは、美容室に電話しなくても予約ができるのだ。しかもポイントまで付くとかいって、至れり尽くせりである。
(電車に乗ってるときにでも、見てみるか……)
乙女の朝まだ妄想少なめ




