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夜は続くよ楽しい女子会?
三樹と宿さん。このふたりの共通点は、飲みながら食べられる、ということだ。よく飲み、よく食べる。はたから見ていて気持ちがいいくらいだ。
「それで?その彼とは、それだけなの?もっと、何かないわけ?」
ポテトサラダを食べながら宿さんが言った。
「それが……」
三樹は煮込みを食べていたが、急に箸をとめて照れたように下を向いた。
「え?なになに?なんなのよ」
宿さんが好奇心丸出しでテーブルに身を乗り出す。グラスがぶつかり音を立てるが気にしない。
三樹は少し考えてから顔をあげ、
「今度、新しくできるスーパーの売り場を、その桐生さんと一緒に担当することになっちゃいました!ま、ふたりっきりってことではないんですが!あはは!」
と、最後はとってつけたように笑った。
実際のところ、桐生と一緒だが、水沢とヒガシ君もメンバーである。
「はぁ~?何それ?」
宿さんが目を丸くした。
「笑ってる場合じゃないわよ!チャンスよ!他のふたりがいようが、いまいが、そんなの関係ないわ!モノにしちゃいなさい!大チャンスよ!やだ!ドレス買わなきゃ!エステにも行って……いい?式には絶対に呼ぶのよ?」
「ちょっと待ってください!」
「え?まさか、あんた挙式しないとか言わないでしょうね」
「いや、そういうことじゃなくて。あきらかに気が早すぎるでしょ」
「早いって……」
少し言葉を切ると、宿さんはにやりと目を細めて言った。
「てことは、あんた、まんざらでもないのね?」
宿さんの言葉で、三樹が一気に赤くなった。もちろんアルコールのせいではない。この程度のアルコールで顔色を変えるようなキャラクターではないのだ。
(むしろ、ちょっと飲んだだけで頬が赤らむ子が羨ましいって思ってるよ!)
(ちくしょう!例えばあの水沢杏とかな!)
(だって、そっちのほうが可愛いじゃないか。女の子っぽくてさ。ちぇ)
それはさておき。
「うわ!やだ赤くなったわ、この子。女子高生か!いやいや今どき女子高生のほうが進んでるわよ!」
「ほっといてくださいよ……」
三樹は片手で頬をあおぎながらビールを飲んだ。
「心はずっと思春期なんです」
「はいはい、そうね、あなたはそうね」
三樹は答えず、もくもくと箸をすすめる。
「怒っちゃった?ごめんごめん。許して、ね」
宿さんがウィンクし、三樹はため息をついた。それほど怒ってもいない。
「でも、まさか、結婚してるとか言わないわよね?そんないい男なら結婚しててもおかしくないわよ?」
宿さんがポテトフライを食べながら言った。この人はじゃがいもが好きなのだ。自宅には、じゃがいもから作ったお酒が置いてあると言っていた。アクアビットとかいう……。
「それは聞いてないんですけど……」
三樹がおずおずと言うと、宿さんは目を真ん丸にして声をあげた。
「バカね!何やってんのよ!」
別のテーブルで飲んでいた数人が驚いて振り返る。
でも、そんなことは構っていられない。
「はぁ?そんな、すぐに聞けるわけないじゃないですか!結婚してるんですか?なんて。怪しすぎるでしょ?」
さすがの三樹も、ムキになって言い返した。
「うーん、まぁね……」
宿さんが思案顔で首を傾げると、三樹はおずおずと言った。
「でも、してませんでした。指輪……」
「そうなの?あんた、よく見てるじゃない」
宿さんが感心したような顔で身を乗り出した。三樹も、素直に嬉しくなる。ただ、すぐに宿さんは冷静な表情に戻って言った。
「でもなぁ、たまに結婚してても指輪してないやついるしなぁ……、仕事の邪魔だからとか言って」
「たしかに」
宿さんの言葉に、三樹も自信を失った。
(言われてみれば、なんとなく、そうなのかも)
宿さんは、考えるようにビールを飲んでいたが、ジョッキを置くと、
「でも、うちはほら商品開発だから」と、元気づけるように言った。
「だから、指輪なんかしてられないわけ。そっちとは状況が違うのよね。むしろ、変な虫がつかないように、指輪するかもしれないわ!うん、きっと独身だわね!」
「町田三樹!」
「はい!」
「チャンスよ!逃すんじゃないわ!」
「はい!」
ついつい、学生の頃のテンションに戻ってしまった。
(「はい」って言ったものの、だから何をできるってことでもないよ……?)
自分に度胸がないことを、三樹は痛いほど分かっている。好きな人ができても、告白なんかできたためしがない。胸が痛む。
すると、そんな三樹の心情を察したのか、宿さんが言った。
「あんた表情に出すぎだよ。ほんと、おかしいったらないわ」
宿さんの笑顔がまぶしい。
「いいから、ほら、これも食べなさい。おいしいわよ、ポテサラ。次は何を飲むの?同じのでいいのね?ほんと、あんたって子は、ぜんっぜん変わらないんだから……」




